透明人間たちのひとりごと

歴史を演じた男たち Ⅰ

 「正常」や「平常」もしくは「通常」と、「異常」や「異様」と
の切り換えの素早さが生死を分けることに直結するのが
戦場であり、それが戦闘あるいは格闘というものの本質
なのかもしれないと思ったのは、過日観たドキュメンタリー
TVドラマ『撃墜 3人のパイロットでの武藤金義
(空の宮本武蔵と呼ばれた旧日本海軍航空隊の撃墜王
のひとり)の次のようなセリフによるものです。

 少し違っているかもしれませんが、記憶を巻戻すと、

 「操縦席で糞をしようが小便を垂れようが構わないが、
敵を見つけた(射程に入った)なら迷わず射撃ボタンを
押すんだ 躊躇(ためら)ったら(や)られるのは
お前(自分)なんだぞ !!

 “戦争は狂気”とは、まさにその通りで

 平和時の常識や通念が何の処方箋にもならないばかり
か、むしろ生存への足かせやハンデキャップになるだけの
“トンデモな世界”が戦争という出来事なのです。

 そこは傍から覗けば、鬼畜の如き修羅場なのですが、

 たとえば、現実の日本社会においてでも、

 心や精神を病んだ人間が支離滅裂な言動に終始するか
といえば、そんなことは滅多にはないように思うのです。

 本人なりの理屈や道理が働いていて、それに沿った筋道
での振る舞いが、常人の見識からすると奇異(異常な言動)
に映るに過ぎないというだけのことで … 

 もっと端的に言ってしまえば、

 心の病気に苦しんでいる人は、自分に正直すぎて芝居が
ヘタクソなのだと言い換えてもかまいません

 つまりそれは、

 常日頃、我々、人間は基本的にマニュアルやシナリオに
沿って演技をしているということです。

 そして日常において演技をすることは良し悪しの問題より
も、むしろ、上手く演技できているか、いないかの方が重要
なのです。

 上手く演じるためには、その場の状況に応じた判断力や
説得力と同時に共感を得る常識的な言動、いわゆる空気
を読むことや文脈をはずさない同調性や洞察力も必要に
なってきます。

 論理的に正しいからと言って世間に通用する演技とは
限らないし、道理に適うからと言って、拍手喝采の名演技
とも言えないわけです。

 “演技する”とか“フリをする”という言葉には、
騙す、誤魔化す、といった悪いイメージがつきまといますが
、そうした大仰な“オレオレ詐欺”のような確信犯的
なニュアンスではなく、生きるためにダマright 擬態
ゴマかす right 保護色のようなサバイバル術や処世の
類であって、誠実に、まっとうに日々を生き、世間と必死に
折り合いをつけながら暮らしていると、知らず知らずのうち
に演技をしている役者としての自分の存在に気づかされて
やっきりしちゃう(静岡の方言で嫌になっちゃう)のです。

 しかもそれがダイコンだとわかった時には、嫌悪の上塗り
に幻滅して、さらに落ち込んでしまうわけです

 そんな、

 演技者としての自分と「本当の自分」との背反する
矛盾に悩み多かった若き日の2号よ、お前は何処へ …

 往々にして、大人になることと芝居が上手くなるのは同義
であるばかりではなく、仕事や恋愛に失敗するのは、単に、
上手く演技できなかったというだけのことかもしれません

 ならば、なおさらに、

 戦場においては常識などが通用しないのは当然です。

 戦闘そのものが支離滅裂な空間だし、阿鼻叫喚の世界
では「情けは人の為ならず」ということわざは、
ほとんどの場合、全く意味を為さないばかりか、二重三重
の悲劇を背負い込むだけの厄病神でしかありません。

 平和な時代に退屈に託(かこつ)けて、シューティング
ゲームに現(うつつ)を抜かしている輩には理解できない
究極のシチュエーションが戦闘機同士の空中戦です。

 畢竟するに、タテとヨコの2次元の世界でのお遊びとは
違って、戦闘機を操縦しつつ、ガンサイトで相手を照準し、
機関砲や機銃で機体にダメージを与えて撃墜するという
3次元空間でのドッグファイトは、ある種の離れ技であり、
精神的にも肉体的にも厳しく如何に強靭な神経を持って
しても参ってしまうほどに凄まじきものであったのだろう
ことは想像するに余りあるのですが …

 そんな戦闘機乗りとして激しいバトル(戦い)を生き抜く
ことは、日本やドイツのような敗戦国では難しく、最前線で
酷使されるだけの最も消耗率の高い兵士だったわけです。

 それを人類史上空前絶後の352機も撃墜したうえに、
ほとんど負傷もしなかったなんて、まさに「神の腕」
持つと言っても過言ではないパイロットがいたのです。

 その男、エーリヒ・ハルトマンが1944年8月25日、4つ目
の騎士鉄十字章 「柏葉剣付ダイヤモンド騎士鉄十字章
の授与に伴なうヒトラーとの接見の折、当時、大尉であった
ハルトマンに軍事作戦に関する意見の具申を許したとされ
「君の言っていることはおそらく真実だろう … だが、しかし
、もう手遅れなのだ。 ― 略 ― ああ、もう時間がきた …」

 ヒトラーは突然立ち上がり、ハルトマンは接見が終わった
ことを知ったのでした。

 (総統との握手の感じは機械的で気のないものだった)

 総統大本営ヴォルフスシャンツェ(狼の砦)」を出る
ときに、もう二度と総統に会うことはあるまいと思った彼は、
ナチス・ドイツ命運が果敢なくも尽きかけている
ことを予感したといいます。

 R・F・トリバー著 『不屈の鉄十字エース』 より
2号流のアレンジを試みたヒトラーとの接見場面ですが、

 その後1ヶ月余りの休暇を得たハルトマンは、9月10日に
幼なじみの恋人ウルスラ・ペーチュと結婚式を挙げます。

 連合軍のエース・パイロットは、せいぜいトップエースでも
60機程度の撃墜数だから、352機がいかにぶっ飛んでいて
とんでもない数字なのか … が、わかると思いますが、

 でも、ちょっと、待ってくださいよ

 戦闘機乗りだからといって、このぶっちぎりのぶっ飛び方
はどうなのでしょう

 そこでちょっと調べてみると、

 エーリヒ・アルフレート・ハルトマン(Erich Alfred Hartmann
1922年4月19日―1993年9月20日)は第二次世界大戦時の
ドイツ空軍のエース・パイロットで、空中戦での撃墜機数は
戦争史上最多である。

 独ソ戦において、格闘戦を避ける“一撃離脱戦法”
撃墜スコアを重ねる。

 総出撃回数1405回、うち825回の戦闘機会において最終
撃墜数352機、被撃墜16回となっています。

 つまり、野球に例えて言えば、

 1405打席、825打数、352安打、打率4割2分6厘6毛だから
、確かに神がかり的な数字です。

 但し、機体を破損するなどの不時着や打ち落とされての
パラシュート脱出など合計で16回記録されているわけで、
撃墜数352を被撃墜数16で割ると平均して22機の撃墜に
対して1回落とされるという計算になります。

 ちなみに、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
より、大まかな戦闘記録と勲章受賞履歴を示すと、

 1942年10月14日 初出撃するも燃料切れで不時着する。
 1942年11月 5日 初めて敵機を撃墜するも、近づきすぎ
            のため破片を浴びて不時着する。
 1943年 3月24日 5機撃墜、功2級鉄十字章を受賞する。
 1943年 8月 3日 撃墜数が50機に達する。
 1943年 8月19日 ソ連領内に不時着、ソ連兵に捕まるが
            脱出に成功し帰還する。
 1943年10月29日 撃墜数が148機に達し、騎士鉄十字章
            を受章する。
 1944年 3月 2日 202機撃墜の功で柏葉付騎士鉄十字章
            を受章する。
 1944年 7月24日 239機撃墜で柏葉剣付騎士鉄十字章
            受章する(受章時には269機撃墜)。
 1944年 8月23日 撃墜数が291機に達する。
 1944年 8月24日 1回目の出撃で6機撃墜、同日 2回目の
            出撃で撃墜数が301機に達する。
 1944年 8月25日 柏葉剣付ダイヤモンド騎士鉄十字章
            受章する。
 1945年 4月17日 撃墜数が350機に達する。
 1945年 5月 8日 1405回目最後の出撃、この時もソ連機
            に奇襲をかけYak-1を1機撃墜する。

 同日、ドイツは連合国に降伏したため、ハルトマンは最終
撃墜数352機、被撃墜数16回で終戦を迎える。

 第一次、第二次世界大戦を通じて最も撃墜数の多かった
エース・パイロットがエーリヒ・ハルトマンであることは衆目の
一致するところでしょうが、「世界一の撃墜王」
否か、となるとこれはまた話が別なのではないでしょうか

 ハルトマン個人の技量が優れていたことは言うまでもない
ことですが、確立された「空中戦闘法」 right “一撃離脱戦法”
を駆使した他にも、東部戦線におけるドイツのパイロットは
ハルトマンに限らず驚異的な戦果をあげています。

 太平洋戦争における日米のトップエースで100機以上の
撃墜記録を持つ者は極々稀ですが、ドイツ空軍では100機
撃墜してやっと一人前で、一流と呼ばれるには150機からと
いう世界です

 その理由は、

 1 出撃頻度 right 戦闘空域までの距離が短く一日に何度も
  出撃できた(太平洋戦線では連日の出撃すら稀である)

 2 技量格差 right ソ連軍機は数ではドイツ軍に勝っていた
  が操縦技術及び戦術的練度が低く、地上部隊との共同
  作戦上低空飛行が多く上空からの急襲で落としやすい
  相手だった。

 3 性能優位 right 旧式(雑多な機体を寄せ集めただけ)の
  ソ連軍機に対し、ドイツ軍は高性能のメッサーシュミット
  Bf109でほぼ統一されていた。

 4 敗者復活 right 東部戦線は陸上で至近距離での戦闘で
  あり、撃墜されても脱出、あるいは不時着し、徒歩での
  帰還が可能であって、何度でも再戦(敗者復活)できた。

  (太平洋戦線では、洋上で撃墜された場合、生還できる
  可能性は極めて低く再戦の機会はほぼ皆無に等しい)

 と、まあ、ドイツ空軍が200機以上の撃墜ホルダーを多数
輩出した理由を挙げてみましたが、ハルトマンが実戦部隊
に配属された1942年末には、ソ連軍も新鋭機を続々と投入
するまでに盛り返しており、初戦で高性能を誇ったBf109 も
徐々に陳腐化し、新型機フォッケウルフFw190の実戦投入
も行なわれましたが、性能上の優位差はそれほどでもない
状況になっていました。

 … にもかかわらず、20歳を過ぎたばかりのハルトマンは
愛機Bf109を駆って、僅か2年半で不滅の記録となる352機
撃墜の離れ業を演じてみせたのです。

 ただ、14 に関しては、1942年以降も事情は同じで、
ハルトマンは初陣の際の不時着や撃墜した敵機の破片を
浴びての不時着にしろ、ソ連戦線内での不時着によって
敵兵に捕まり、かろうじて脱出に成功し、徒歩で生還した
後に再復活を果たしているわけで …

 先に示した計算に基づけば、平均で22機の撃墜に対し
1回の割合で撃墜されていることになります。

 これが、もし、太平洋戦線での旧日本軍や米軍の飛行兵
だったならば、撃墜された時点で ほぼオシャカの状態
で、敗者復活の可能性は限りなくゼロに近いでしょうase

 たとえば、

 米軍は開戦劈頭(へきとう)無敵だったゼロ戦に対して、

 「3つのネバー」と呼ばれる勧告を全パイロットに
対して行ないました。

  ジークとは絶対に格闘戦(1対1)をやるな
  時速300マイル以下ではジークと同じ運動をするな
  低速時には上昇中のジークを追ってはならない

 ※ ジーク(Zeke) right ゼロ戦のコードネームですが、
パイロットたちは「ゼロ」 あるいは「ゼロファイター」と呼ぶ
ことが多かったようです。

 詰まるところ、

 米軍のこうした縛りや旧日本軍の現敵必殺の特攻精神は
生きることを重視する国民性と死ぬことが名誉であり、誇り
とする国民性の違いとは言え、どちらも東部戦線における
ドイツ軍とは同じ条件で比較することが困難なほどの差異
を見せつけるもので撃墜王に関しては、同一の基準や
同じ土俵上での比較ができない以上、優劣を決する判断
は不可能であって、自ずと「撃墜王世界一」は、
それぞれ各位の信奉する個人的なものにならざるを得ない
ものと考える次第です。

 そこで

 個人的に2号が推すのは、『ラバウルの魔王』
と渾名(あだな)されたトップエースのひとりで、乗機を別の
搭乗員に譲る(神風特別攻撃隊に引渡す)ため、輸送機で
マバラカット基地へ移動中にグラマンF6F2機の攻撃に遭い
撃墜され戦死した西沢広義中尉です。

 海軍でもトップクラスの抜群の技量の持ち主であった彼が
戦闘機(ゼロ戦や紫電改)ではなく、輸送機の中で為す術も
なく死んでいったことが惜しまれてなりませんase

 彼の生涯での撃墜数は、

 公式記録(全軍布告文)では協同撃墜429機、撃破49機、
単独撃墜36機・撃破2機となっており、撃墜数は87機とも
120機以上とも言われていますが、1943年からは個人的な
撃墜数を公式記録として残さなくなったために詳細は不明
です。  尚、家族への手紙では143機、戦死時の新聞では
150機と報道されています。

 また太平洋戦争における日米両軍を通じたトップエース
として米国防総省に肖像が飾られていることもあり、日本
最強の撃墜王との呼び声が高いのですが、撃墜総数では
岩本徹三(本人手記202機撃墜)のほうが上回っていると
言われています。  もちろん、個人撃墜数の公式記録が
存在しない以上、正確なところは不明ですが … ase2

 このように「戦史を飾った男たち」は、言わば、
「歴史を演じた男たち」とも言えるわけで、
そうした男たちのひとりとして、是非ともに紹介したいのが、
騎士鉄十字章の最高位「黄金柏葉剣付ダイヤモンド騎士
鉄十字勲章
」の唯一受賞者である急降下爆撃機
のパイロット ハンス・ウルリッヒ・ルーデルです。


  オォォ~~~ン !!

   除夜の鐘か

  ヤバase2 急がねば policecarsymbol5


 さて

 5号『撃墜王世界一の行方question2にて、

 提供された“プレゼントCM”での予告の通りに

exclamation http://sun.ap.teacup.com/japan-aid/393.html(参照)

 エーリッヒ・ハルトマン武藤金義 を題材にエントリー
しょうとキーボードを叩き始めたまではよかったのですが、

 例の如くに、話があちこちに跳んで、横道に逸れるので
軌道修正を試みてみたのですが、ハルトマンたちのような
卓抜した技量を持ち得ない2号には操縦不能となって
どんどんと深みに嵌まり、ただただ冗長としたものに …


  オォォ~~~ン !!

 こうして長々と書いているうちに、気が付けば今年も余す
ところ残りあと十数分 … ase2

 思えば、いろいろとありました。

 ひとことで振り返れば、出てくる言葉は「多事多難」

 記憶に新しい御嶽山の噴火などの自然災害で大勢の人
が犠牲となり、人為的ミスによる事故が結果として大惨事
を引き起こした人災の類が実に多かったようなase

 印象に残るのは韓国でのセウォル号沈没事故ですが、
年の瀬が押し迫る28日にはギリシャ沖でのフェリー火災
とエアアジア機が消息を絶つというニュースが相次いで
舞い込み、米国では相も変わらず銃犯罪が絶えません。

 “ボコ・ハラム”によるナイジェリアでの少女多数
拉致のその後や“イスラム国”の今後の動向にも
目が離せませんし、カブールでの出来事も気懸かりです。

 
 ここで一句、

 「大晦日 はしょ(箸折=端折)る
    
   そば(蕎麦=傍)からのびるなり」


 ということで、この続きは …

 『歴史を演じた男たち Ⅱ』としてまた来年に

 どうぞ、良いお年をお迎えください

コメント一覧

透明人間2号
完全に銀河英雄伝説にシフトしちゃってますね。
地球での、しかも、20世紀前半の話なんですけど …
半熟マン
ハルトマンに次ぐ301機撃墜のゲルハルト・バルクホルンは個人的には同盟側にしたいな。
響きは完全に帝国側だけど、ヤン・ウェンリーの遠い親戚みたいな役柄で・・・
皮肉のアッコちゃん
銀河じゃなくて、太陽系「地球英雄伝説」みたいな流れでいえば、
ドイツ第三帝国のパイロットだから、当然、帝国軍でしょう!
ルート1/2
だとしたら、帝国軍と同盟軍のどっちでしょうかねぇ?
半熟マン
撃墜数もさることながら「ハルトマン」って響きがいいですね。
『銀英伝』に出て来そうなかっこいい名前です。
江戸川ケイシ
日本の飛行兵だったら、初陣で戦死の公算大ですね。
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