歯科技工管理学研究

歯科技工管理学研究ブログ
歯科技工士・岩澤 毅

◆入れ歯、患者の権利としての制度設計を

2002年08月13日 | 朝日新聞・週刊金曜日
◆入れ歯、患者の権利としての制度設計を
 
 食品衛生法の改正によって、輸入食品に対する水際での安全確保がはかられようとしている。しかし、食生活の入り口であり歯科医療で大きな比重を占める入れ歯・差し歯に大きな歪みとモラルハザードが進行している。入れ歯・差し歯は、患者の口腔内に長期間存在し、食生活と全身の健康に大きな影響を与える。しかし、国民(患者)は、入れ歯・差し歯を製作している歯科技工士や歯科技工所に接する機会は少ない。また、使用材料に関する何らの情報を得る機会も無い。国民(患者)ひとりひとりが情報を得、比較検討の上で患者自身にとって最良の選択をする機会(権利)が失われている。患者の要望と個性に適合した入れ歯・差し歯を製作するためには、実際に製作する歯科技工士が患者と直接に対面し、相互理解を深め、製作上必要な患者の微細な要望とその背景を聞き、知ることがもっとも重要である。

 1999年厚生大臣が国会において輸入入れ歯に関し「品質ならびに安全性については問題ない」と答えている。歯科医師の「裁量権」によって遠く海外の歯科医療制度・法制度すら確立していない国々から、使用材料・製作方法・製作環境・製作者が不明な、何ら我が国の行政の規準や安全性に適合しない歯科技工物が、野離しの状態で自由診療・保険外診療の名のもとに輸入されている。厚生省令によって保険診療においては、輸入入れ歯の使用は禁じられているが、その実行を保障・監視する「防火壁」が存在しない。自由診療・保険外診療の名で輸入し、保険診療での使用にたいする予防措置が存在しないのである。

 国民皆保険制度の一翼を担い、入れ歯・さし歯を高水準に保つための歯科技工士資格・養成制度は、半世紀の歴史を経ている。歯科技工士に対する医療報酬支払い制度の不備を要因とする粗悪品の横行とそれに伴う歯科技工士の経済的苦境、歯科技工士養成所への志願者の減少、中退者の増加、若年歯科技工士の高い離職率によって、発展し高度化する歯科技工学・歯科技工技術を担うべき後継者が不足している。

 よってここに、国民の信頼と権利にかなう歯科医療のために緊急に対策を必要とする具体策を四点に集約し提案する。第一に入れ歯・差し歯の製作歯科技工士名・使用材料・製作方法・歯科技工製作料金等の必要情報の患者への報告書発行義務化である。第二に製作した歯科技工士による保険支払い者への製作報告書の発行義務化である。これは、繰り返される一部の不正請求事件などの制度的予防措置となりまた歯科医療に対し国民に潜在する不信感解消への医療者側の務めでもある。第三に第二の実行条件として、医薬分業を前例とし「歯科治療・歯科技工分業」を具体化し、歯科技工士を健康保険制度内に位置付け、保険支払い者から委託歯科技工報酬(歯科技工料金)の直接支払いを実施することである。第四に、発展し高度化する歯科技工学・歯科技工技術の質の確保を保障する歯科技工士養成所の四年制大学化である。

2002.8.4記
2002.8.13付不採用通知

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