歯科技工管理学研究

歯科技工管理学研究ブログ
歯科技工士・岩澤 毅

◆入れ歯 安心・安全の制度設計

2002年10月11日 | 朝日新聞・週刊金曜日
◆入れ歯 安心・安全の制度設計
 
 医食同源を支えるものとして、食物と身体をつなぐ口腔の咀嚼(そしゃく)機能がある。食生活は単に栄養の補給のみではなく、家庭生活であり友人との交流であり社交でもある。生活に潤いを与える食生活の喜びは、すべての年齢の人々に必要不可欠である。食卓を囲む団欒は人間の基本な欲求でもある。高齢化社会の進展のなか、高齢者を孤立させることなく健康な老後を送るために患者は「噛める入れ歯」「健康を表現する差し歯」を求めており、厚生労働省と医療関係者には、安心で安全な「噛める入れ歯」「健康を表現する差し歯」の供給体制の整備への努力が求められている。

 しかし、医療の主体であるべき患者にたいして入れ歯に関する必要な情報がもたらされているとは言えない。患者は入れ歯の製作者・使用材料・製作方法等の情報を知るすべは無く、金属アレルギー予防等患者に対し事前に情報を提供することによって患者の判断を仰ぐ制度すらない。

 現在厚生労働省は、「保険治療でなければ、海外製入れ歯は歯科医師の裁量権によって歯科治療に用いることは可能」との見解をとり、国内の製作では歯科技工士法・薬事法によって必要な歯科技工士資格制度・使用材料の許認可制度・製作所の安全衛生設備基準等々が何らの規制も行われていない輸入入れ歯を容認する立場にある。外国産農産物の残留農薬問題・BSE問題(牛海綿状脳症いわゆる狂牛病)・非加熱輸入血液製剤問題等で露見した法の不備・制度の間隙と当局の不作為と同様の入れ歯行政の不備によって患者の安全と健康が脅かされている。

 食品の一部にトレーサビリティーシステム(追跡可能性、生産現場から流通・最終消費者までの品質保証システム)が導入されようとしている。口腔内で直接機能し長期にわたって体内に存在する消化器官の入り口でありいわば人工臓器としての入れ歯には、身体に害を与えことは許されない。

 関係者のご努力によって、最新の材料研究が進み適正な手続きをへた臨床への応用も進んでいる。また、医療保険報酬制度の裏付けの無い中で実際に製作する歯科技工士が患者と直接対面し、歯科医師と協同で患者の顔貌・個性・口腔条件に適した患者の要求に基づいた入れ歯製作の努力が続いている。この関係者の努力の成果が、安定し全ての最終消費者である患者に届けられるシステムが必要です。

 患者の権利を保障し、健康な老後を送っていただくため、患者に選択可能な入れ歯情報を提供し、患者の選択の後に製作された安心・安全な入れ歯を供給し、同時に製作歯科技工士・製作歯科技工所・使用材料・製作方法等の必要情報を届ける制度設計が必要と考える。制定後半世紀を経た歯科技工士法を現在の国内における単なる入れ歯製作行為を規律する法から、時代のニーズに適合して患者の権利を第一においた国内において供給される入れ歯を安心・安全なものへと規律する法への改正が求められている。

2002.10.11記10.11投稿10.22付不採用通知

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