2003.09 秋号 30号
昭和と平成の勝ち組の論理と心理-昭和63年大臣告示の解釈
秋田市 岩澤 毅
はじめに
昭和63年厚生大臣告示をめぐる昨今の歯科技工士間の議論を見聞する度に思い出さ
れるのが、第二次世界大戦後南米ブラジルに登場した「勝ち組」の歴史です。
この小論では、人は困難に遭遇した場面で何を思い、何に魅力を感じ、何に引き付
けられ、何にすがるのか。どのような行動を選択するのか。南米ブラジルの「勝ち
組」の生成と崩壊の歴史に学びながら、人間心理の一端と昭和63年大臣告示の法的意
味を解明したいと思います。
以下、昭和63年5月30日付厚生省告示第165号に歯科技工士に対する歯科技工料金の
配分に関する法的拘束力があると主張する人々を「平成の勝ち組」と呼ぶこととしま
す。
昭和の勝ち組
明治維新以降日本は、ハワイ・北米・中南米・旧満州(中国東北部)等々に時代時
代の流行はありながら移民を送り出し続けた。戦後の高度成長期に到るまでの時期、
日本は経済的困窮と人口・食糧問題解決のため、国策としての移民の送り出し国とし
て存在した。
私たちに身近な話題として登場した移民・日系人としては、NHK朝の連続テレビ
小説『さくら』の主人公さくらのハワイ在住の日系人家族であり、南米ペルーの前大
統領フジモリ氏であり、マンガ『タイガーマスク』(作/梶原一騎 画/辻なおき、
テレビでは昭和44年から46年よみうりテレビ系で放映)の主人公伊達直人が、自分自
身が育った孤児院「ちびっこハウス」の経営難に際し、援助するお金の出所の口実で
ある「ハワイの親戚の億万長者の遺産」であり、現在サッカー評論家のセルジオ越後
氏等です。
また日本経済のバブル期、3K(きつい・汚い・危険)労働力の供給地として、中南
米の日系人が注目され、自動車産業等の下請け孫受け等周辺企業所在地自治体の新た
な業務として、日系人・日系人家族と地域社会の関係作りが注目され、スペイン語・
ポルトガル語の通訳の需要も増しました。
現代の日本人は、第二次世界大戦において、旧大日本帝国が連合国側・アメリカ合
衆国等に敗北した事実に何ら疑いを抱いているとは思えませんが、敗戦直後から数十
年間にわたって南米ブラジルにおいては日本の敗北を信じることが出来ず、大日本帝
国の大勝利(大東亜共栄圏の世界規模での成立)の「事実」を作り上げ数々の「情報
と証拠」により論証し、臣道連盟なる半秘密結社組織を作り上げ、日本敗北を事実と
して受け止めた人々に対して「国賊」「非日本人」「敗希派」(敗戦希望派の意)と
悪罵を投げつけ、更には組織的テロを働き殺人・放火まで犯した集団・人々がいた歴
史的事実があるのです。
当時の日本から遠く離れ更にはブラジル本国内でも情報に隔絶された、奥地の原生
林・ジャングルに在住し、現地の言語にも不自由な日系人のみならず、サンパウロ等
の国際情報に接することが可能な地域においても、この勝ち組は存在し、在ブラジル
日系人の大多数95パーセントを組織したとされています。
日本時間8月15日正午の天皇の玉音放送(終戦の詔勅)を、日本の勝利宣言とその
意味内容のスリカエを行い、数々の勝利の証拠が捏造され、戦後秩序に関してもアメ
リカ合衆国を日本が占領した「事実」さえもが語られました。アメリカの原子爆弾に
対しては、日本側が「高周波爆弾」「磁気爆弾」を天才学者が開発し、帝国陸海軍が
使用し、アメリカ合衆国に進軍しトールマン大統領を更迭し、リンドバーグをアメリ
カ大統領に任命する物語が語られたのです。
ブラジル入国以来極めて困難な生活を余儀なくされた反動として、僅かに入手し得
る情報からさらに「信念」によって、情報を選択脚色加工し、生きる希望の物語が紡
ぎ出され、困窮する日系人の心に瞬く間に染み渡り、更に増殖を繰り返し、夢想が幻
想を生み「現実」と化したのです。これは当然のごとく現地ブラジル政府と摩擦を生
み出し、治安問題と認識されるに到り、日系人排斥運動の強化等社会混乱と日系人の
立場の更なる悪化を引き起こしたのです。
平成の勝ち組
平成の御世に登場した「平成の勝ち組」の論理の特徴は、社会診療報酬制度内の歯
科診療報酬点数改定の算定告示である大臣告示を、歯科技工士に対する歯科技工料の
配分告示であると読み替えを行い、更にはそれを絶対化し、その視点から他の情報を
選択脚色し、いわゆる「疑義解釈の容認による変容」によって市場支配力無くしたと
する論理を骨格としています。
ここには、日本の歯科技工士が何故長年にわたって「歯科技工士の保険制度内への
位置付け」を求め、その時点(昭和63年5月)においても、その要求が実現せず、現
在においても実現していない冷厳な事実への意識的か無意識的かは不明ですが、視点
の欠落と隠蔽があります。
さらには昭和63年10月20日付厚生省保険局長通知(保文発第646・647号)に対して
「独占禁止法に抵触する可能性」なる論証不能な意味付けを行い、破綻した論理の修
復を試みています。かかる「可能性」論を試みるのであれば、まずは当時の公正取引
委員会の実際の動向、それらへの当時の厚生省の対応を客観的証拠を挙げて、一つ一
つ論拠を積み上げるべきなのです。
この「勝ち組」の論理を主張する人々の特徴として、昭和63年当時或いはその後各
級歯科技工士会或いは歯科技工士グループの各種リダーの一部を形成し、歯科医師あ
るいは会員・未入会員を問わず歯科技工士を対象に「大臣告示の普及」運動を担った
事に対する心理的な負荷・罪悪感、当時もそしてそれ以降も大臣告示の本質を見抜く
ことができなかった事実に対するトラウマ(心理的外傷)と呼ぶべき、心理的な負荷
・罪悪感が存在するものと思われるのです。
昭和63年「7:3」大臣告示の法的意味
昭和63年「7:3」大臣告示の法的意味を、以下の様に図と数式に置き換えて説明を
することが出来ます。 図参照(社会診療報酬システムと歯科技工)
法的に厚生省(現厚生労働省)・中央社会医療協議会が、定めることが出来るの
は、即ち職務権限を持っているのは、健康保険法の定めの下、社会診療制度内にその
位置をしめる保険医・保険医療機関の診療報酬点数です。健康保険法は、我々歯科技
工士に対する歯科医院からの委託歯科技工料金を定める職務権限を定めてはいないの
です。
更に言えば、我々歯科技工士が保険制度外にいることの象徴として、その歯科技工物
の受注に際しては、定められた要件を満たす歯科技工指示書に基づいて歯科技工を成
すのですが、そこに保険・自費の区別は無いのです。レジン床義歯は、レジン床義歯
であり保険・自費の区別は無いのです。歯科技工士の立場からは、公的制度として保
険・自費の区別をすべき格段の目安は無いのです。
自分自身が製作した歯科技工物が、保険制度内の技工物であることを証明できない
歯科技工士が、彼等の言う「損害賠償」を求めるに際し、何によってその損害を積算
・証明するのでしょうか、この一事をもっても、彼等「平成の勝ち組」の論理の破綻
は明らかです。
昭和63年5月30日付 厚生省告示第165号通則の5
歯冠修復及び欠損補綴料には、製作技工に要する費用が含まれ、その割合は、製作
技工に要する費用がおおむね100分の70、製作管理に要する費用がおおむね100分の
30である。
これを数式化すれば
a=製作技工に要する費用
b=製作管理に要する費用
c=歯冠修復及び欠損補綴料
と、すると、即ち通則の5は
a+b=c
7:3≒a:b
3a≒7b
b≒3a/7
となります。
告示第165号以降の社会診療報酬制度下の歯冠修復及び欠損補綴料の点数改定に際
しては、歯科医療経済の実態調査に基づき歯科技工料の実勢価格が、歯冠修復及び欠
損補綴料改定の基礎資料となることがここではじめて健康保険制度内のルール・通則
として明確にされたのです。即ち歯科技工料の実勢価格が、点数改定時の政策当局の
政策目的・政策目標を加味し歯冠修復及び欠損補綴料に反映されるシステムの宣言で
あり、この意味で厚労省・中医協が、告示第165号に法的に拘束されるのです。
これをさらに数式で表現すれば
±α=政策目的・政策目標
とすれば
改定点数=a+3a/7±α
この様に整理することが出来ます。
昭和63年5月30日付厚生省告示第165号の意義は、健康保険制度創設以来初めて歯冠
修復及び欠損補綴料の「積算基準・根拠、算定基準」を、医療経済実態調査に基ずく
歯科技工料を基礎に示した事なのです。
※わかり易くする為に「±α=政策目的・政策目標」としていますが、政策がマイナ
ス改定でも+αで良い訳です(診療報酬点数が低減の場合)。政策目的・政策目標
が、マイナス改定となることは政策当局の判断によっては、有り得ることです。
おわりに
この春(2003年)、パナウエーブ研究所・千之正法等と称する白い服の集団が、
「過激派・共産ゲリラの電磁波(スカラー波)攻撃を避けるため」と称して教祖を護
りながら山中を車列で移動し、キャラバンと称する集団生活をする姿が、新聞・週刊
誌・テレビで数多く報じられました。かの集団の中では、確固たる「真実」「事実」
「論理」が存在するのでしょうが、私たちは普通程度の理性を持ってその主張・論理
を検討・検証することによって、その主張の適否を判断することが出来ます。
昭和と平成の勝ち組の論理と心理を考える時、人は困難な状況に陥った場合、「情念
・信念」を核とし、情報の取捨選択あるいは「創造」さえも出来てしまい、他者を
「善意」で巻き込み、組織化をなし、意見の異なる者を排除・抹殺さえ出来てしまう
「知的」動物ではないかとの疑念を私は抱いてしまうのです。
そして、現状に違和感・不満・絶望を抱く一定層の集団が存在する時、実現せざる自
己のルサンチマン(怨恨、憎悪、嫉妬などの感情が反復され、内攻して心に積もって
いる状態)として新たな教義と組織を作り上げることさえ出来てしまう事実です。こ
こに人間の一つの側面を見出してしまいます。
この大臣告示の解釈をめぐる対立を、「二つの正義の対立」と考える論者もあります
が、これは合理的な解釈と、情念によって作り上げられた「信念」に拠って立つ解釈
の対立なのです。聖地エルサレムの帰属・支配をめぐる世界規模の宗教対立、民族対
立と比すべきものでは到底ないのです。
今後も歯科技工士として、また人として判断を下さなければならない様々な場面に数
多く遭遇することが有るでしょうが、普通人としての判断を客観的で検証可能な事実
の積み重ねに求め、合理的解釈を下し生きていかなければならないと思います。
参考文献
移民の日本回帰運動,前山隆著,NHKブツクス,1982.6,東京.
戦後史大事典,佐々木毅他編,三省堂,1991.3.1,東京.
今執行部の歯科技工料に関する基本的な考え方,平成14年7月,日本歯科技工士会
『隗』創立一周年記念新年研修会事前抄録,国民と歯科技工士の権利を守る会
『隗』,2003.1.31.
「7・3問題」総括を読んで,伊集院正俊,日本歯科新聞,2003.1.28.
参考Webサイト
ブラジル通信 第11号
http://www5b.biglobe.ne.jp/~ykchurch/sgc/brasil/brasil_11_011228.htm
ブラジル民族文化研究センター
http://www.centro-do-brasil.com/kenkyu/aoki/aoki_05.html
昭和と平成の勝ち組の論理と心理-昭和63年大臣告示の解釈
秋田市 岩澤 毅
はじめに
昭和63年厚生大臣告示をめぐる昨今の歯科技工士間の議論を見聞する度に思い出さ
れるのが、第二次世界大戦後南米ブラジルに登場した「勝ち組」の歴史です。
この小論では、人は困難に遭遇した場面で何を思い、何に魅力を感じ、何に引き付
けられ、何にすがるのか。どのような行動を選択するのか。南米ブラジルの「勝ち
組」の生成と崩壊の歴史に学びながら、人間心理の一端と昭和63年大臣告示の法的意
味を解明したいと思います。
以下、昭和63年5月30日付厚生省告示第165号に歯科技工士に対する歯科技工料金の
配分に関する法的拘束力があると主張する人々を「平成の勝ち組」と呼ぶこととしま
す。
昭和の勝ち組
明治維新以降日本は、ハワイ・北米・中南米・旧満州(中国東北部)等々に時代時
代の流行はありながら移民を送り出し続けた。戦後の高度成長期に到るまでの時期、
日本は経済的困窮と人口・食糧問題解決のため、国策としての移民の送り出し国とし
て存在した。
私たちに身近な話題として登場した移民・日系人としては、NHK朝の連続テレビ
小説『さくら』の主人公さくらのハワイ在住の日系人家族であり、南米ペルーの前大
統領フジモリ氏であり、マンガ『タイガーマスク』(作/梶原一騎 画/辻なおき、
テレビでは昭和44年から46年よみうりテレビ系で放映)の主人公伊達直人が、自分自
身が育った孤児院「ちびっこハウス」の経営難に際し、援助するお金の出所の口実で
ある「ハワイの親戚の億万長者の遺産」であり、現在サッカー評論家のセルジオ越後
氏等です。
また日本経済のバブル期、3K(きつい・汚い・危険)労働力の供給地として、中南
米の日系人が注目され、自動車産業等の下請け孫受け等周辺企業所在地自治体の新た
な業務として、日系人・日系人家族と地域社会の関係作りが注目され、スペイン語・
ポルトガル語の通訳の需要も増しました。
現代の日本人は、第二次世界大戦において、旧大日本帝国が連合国側・アメリカ合
衆国等に敗北した事実に何ら疑いを抱いているとは思えませんが、敗戦直後から数十
年間にわたって南米ブラジルにおいては日本の敗北を信じることが出来ず、大日本帝
国の大勝利(大東亜共栄圏の世界規模での成立)の「事実」を作り上げ数々の「情報
と証拠」により論証し、臣道連盟なる半秘密結社組織を作り上げ、日本敗北を事実と
して受け止めた人々に対して「国賊」「非日本人」「敗希派」(敗戦希望派の意)と
悪罵を投げつけ、更には組織的テロを働き殺人・放火まで犯した集団・人々がいた歴
史的事実があるのです。
当時の日本から遠く離れ更にはブラジル本国内でも情報に隔絶された、奥地の原生
林・ジャングルに在住し、現地の言語にも不自由な日系人のみならず、サンパウロ等
の国際情報に接することが可能な地域においても、この勝ち組は存在し、在ブラジル
日系人の大多数95パーセントを組織したとされています。
日本時間8月15日正午の天皇の玉音放送(終戦の詔勅)を、日本の勝利宣言とその
意味内容のスリカエを行い、数々の勝利の証拠が捏造され、戦後秩序に関してもアメ
リカ合衆国を日本が占領した「事実」さえもが語られました。アメリカの原子爆弾に
対しては、日本側が「高周波爆弾」「磁気爆弾」を天才学者が開発し、帝国陸海軍が
使用し、アメリカ合衆国に進軍しトールマン大統領を更迭し、リンドバーグをアメリ
カ大統領に任命する物語が語られたのです。
ブラジル入国以来極めて困難な生活を余儀なくされた反動として、僅かに入手し得
る情報からさらに「信念」によって、情報を選択脚色加工し、生きる希望の物語が紡
ぎ出され、困窮する日系人の心に瞬く間に染み渡り、更に増殖を繰り返し、夢想が幻
想を生み「現実」と化したのです。これは当然のごとく現地ブラジル政府と摩擦を生
み出し、治安問題と認識されるに到り、日系人排斥運動の強化等社会混乱と日系人の
立場の更なる悪化を引き起こしたのです。
平成の勝ち組
平成の御世に登場した「平成の勝ち組」の論理の特徴は、社会診療報酬制度内の歯
科診療報酬点数改定の算定告示である大臣告示を、歯科技工士に対する歯科技工料の
配分告示であると読み替えを行い、更にはそれを絶対化し、その視点から他の情報を
選択脚色し、いわゆる「疑義解釈の容認による変容」によって市場支配力無くしたと
する論理を骨格としています。
ここには、日本の歯科技工士が何故長年にわたって「歯科技工士の保険制度内への
位置付け」を求め、その時点(昭和63年5月)においても、その要求が実現せず、現
在においても実現していない冷厳な事実への意識的か無意識的かは不明ですが、視点
の欠落と隠蔽があります。
さらには昭和63年10月20日付厚生省保険局長通知(保文発第646・647号)に対して
「独占禁止法に抵触する可能性」なる論証不能な意味付けを行い、破綻した論理の修
復を試みています。かかる「可能性」論を試みるのであれば、まずは当時の公正取引
委員会の実際の動向、それらへの当時の厚生省の対応を客観的証拠を挙げて、一つ一
つ論拠を積み上げるべきなのです。
この「勝ち組」の論理を主張する人々の特徴として、昭和63年当時或いはその後各
級歯科技工士会或いは歯科技工士グループの各種リダーの一部を形成し、歯科医師あ
るいは会員・未入会員を問わず歯科技工士を対象に「大臣告示の普及」運動を担った
事に対する心理的な負荷・罪悪感、当時もそしてそれ以降も大臣告示の本質を見抜く
ことができなかった事実に対するトラウマ(心理的外傷)と呼ぶべき、心理的な負荷
・罪悪感が存在するものと思われるのです。
昭和63年「7:3」大臣告示の法的意味
昭和63年「7:3」大臣告示の法的意味を、以下の様に図と数式に置き換えて説明を
することが出来ます。 図参照(社会診療報酬システムと歯科技工)
法的に厚生省(現厚生労働省)・中央社会医療協議会が、定めることが出来るの
は、即ち職務権限を持っているのは、健康保険法の定めの下、社会診療制度内にその
位置をしめる保険医・保険医療機関の診療報酬点数です。健康保険法は、我々歯科技
工士に対する歯科医院からの委託歯科技工料金を定める職務権限を定めてはいないの
です。
更に言えば、我々歯科技工士が保険制度外にいることの象徴として、その歯科技工物
の受注に際しては、定められた要件を満たす歯科技工指示書に基づいて歯科技工を成
すのですが、そこに保険・自費の区別は無いのです。レジン床義歯は、レジン床義歯
であり保険・自費の区別は無いのです。歯科技工士の立場からは、公的制度として保
険・自費の区別をすべき格段の目安は無いのです。
自分自身が製作した歯科技工物が、保険制度内の技工物であることを証明できない
歯科技工士が、彼等の言う「損害賠償」を求めるに際し、何によってその損害を積算
・証明するのでしょうか、この一事をもっても、彼等「平成の勝ち組」の論理の破綻
は明らかです。
昭和63年5月30日付 厚生省告示第165号通則の5
歯冠修復及び欠損補綴料には、製作技工に要する費用が含まれ、その割合は、製作
技工に要する費用がおおむね100分の70、製作管理に要する費用がおおむね100分の
30である。
これを数式化すれば
a=製作技工に要する費用
b=製作管理に要する費用
c=歯冠修復及び欠損補綴料
と、すると、即ち通則の5は
a+b=c
7:3≒a:b
3a≒7b
b≒3a/7
となります。
告示第165号以降の社会診療報酬制度下の歯冠修復及び欠損補綴料の点数改定に際
しては、歯科医療経済の実態調査に基づき歯科技工料の実勢価格が、歯冠修復及び欠
損補綴料改定の基礎資料となることがここではじめて健康保険制度内のルール・通則
として明確にされたのです。即ち歯科技工料の実勢価格が、点数改定時の政策当局の
政策目的・政策目標を加味し歯冠修復及び欠損補綴料に反映されるシステムの宣言で
あり、この意味で厚労省・中医協が、告示第165号に法的に拘束されるのです。
これをさらに数式で表現すれば
±α=政策目的・政策目標
とすれば
改定点数=a+3a/7±α
この様に整理することが出来ます。
昭和63年5月30日付厚生省告示第165号の意義は、健康保険制度創設以来初めて歯冠
修復及び欠損補綴料の「積算基準・根拠、算定基準」を、医療経済実態調査に基ずく
歯科技工料を基礎に示した事なのです。
※わかり易くする為に「±α=政策目的・政策目標」としていますが、政策がマイナ
ス改定でも+αで良い訳です(診療報酬点数が低減の場合)。政策目的・政策目標
が、マイナス改定となることは政策当局の判断によっては、有り得ることです。
おわりに
この春(2003年)、パナウエーブ研究所・千之正法等と称する白い服の集団が、
「過激派・共産ゲリラの電磁波(スカラー波)攻撃を避けるため」と称して教祖を護
りながら山中を車列で移動し、キャラバンと称する集団生活をする姿が、新聞・週刊
誌・テレビで数多く報じられました。かの集団の中では、確固たる「真実」「事実」
「論理」が存在するのでしょうが、私たちは普通程度の理性を持ってその主張・論理
を検討・検証することによって、その主張の適否を判断することが出来ます。
昭和と平成の勝ち組の論理と心理を考える時、人は困難な状況に陥った場合、「情念
・信念」を核とし、情報の取捨選択あるいは「創造」さえも出来てしまい、他者を
「善意」で巻き込み、組織化をなし、意見の異なる者を排除・抹殺さえ出来てしまう
「知的」動物ではないかとの疑念を私は抱いてしまうのです。
そして、現状に違和感・不満・絶望を抱く一定層の集団が存在する時、実現せざる自
己のルサンチマン(怨恨、憎悪、嫉妬などの感情が反復され、内攻して心に積もって
いる状態)として新たな教義と組織を作り上げることさえ出来てしまう事実です。こ
こに人間の一つの側面を見出してしまいます。
この大臣告示の解釈をめぐる対立を、「二つの正義の対立」と考える論者もあります
が、これは合理的な解釈と、情念によって作り上げられた「信念」に拠って立つ解釈
の対立なのです。聖地エルサレムの帰属・支配をめぐる世界規模の宗教対立、民族対
立と比すべきものでは到底ないのです。
今後も歯科技工士として、また人として判断を下さなければならない様々な場面に数
多く遭遇することが有るでしょうが、普通人としての判断を客観的で検証可能な事実
の積み重ねに求め、合理的解釈を下し生きていかなければならないと思います。
参考文献
移民の日本回帰運動,前山隆著,NHKブツクス,1982.6,東京.
戦後史大事典,佐々木毅他編,三省堂,1991.3.1,東京.
今執行部の歯科技工料に関する基本的な考え方,平成14年7月,日本歯科技工士会
『隗』創立一周年記念新年研修会事前抄録,国民と歯科技工士の権利を守る会
『隗』,2003.1.31.
「7・3問題」総括を読んで,伊集院正俊,日本歯科新聞,2003.1.28.
参考Webサイト
ブラジル通信 第11号
http://www5b.biglobe.ne.jp/~ykchurch/sgc/brasil/brasil_11_011228.htm
ブラジル民族文化研究センター
http://www.centro-do-brasil.com/kenkyu/aoki/aoki_05.html