本年3月末、この街のセルバンテス書店が惜しまれつつ、その約80年の歴史を閉じた。
これは現地の人々に、想像以上にショックを与えたことだった。
中世の佇まいを残すこの街の、新陳代謝はことのほか、ゆ~るゆる。
親子三代続く商店などざらで、市民は「いつもの」場所に集い、「いつもの」風景に慣れきっているのだ。
それが…時代の流れに伴い、商売の仕方も変わってきた。そして長引く経済不況。
その昔ながらの店達は、ふとシャッターを閉めたかと思いきや、携帯ショップや100円ショップ、
チェーンのミニスーパーやファーストフード店に様変わりしてしまった。
そして…あのセルバンテス書店までもが!
「セルバンテスに無かったら、もう探すな。それは存在しないはずだから」といわれ、脅威の
在庫冊数を誇っていた。そのため他地方からの問合せも多く、サラマンカの文化の象徴と誇られていた。
後継者なし、経営者高齢に伴い廃業-というニュースの後、閉店を惜しむ客が
ひっきりなしだった。あの薄暗い、本屋独自の匂いの充満する店内、無愛想なのか親切
なのかわからんツンデレな店員、子供の頃から慣れ親しんだ雰囲気に浸って、写真を撮る人までいた。
…さてその後…
実は新しい書店のオープンがいくつか続いて、ちょっとしたブームになってる。
1つ目はLETRAS CORSARIAS。
小さな広場に面した小ぶりな作り。
居心地良いソファー、コーヒーマシーンも備えられ、たっぷりと日の入る窓辺で
いつまででも読書していられる居心地さ。
蔵書はずばり「本好きによる、本好きのためのセレクトショップ」。
ベストセラーの山積みなし、著者名ごとの陳列(←これ重要)、
独自の好みで選んでるっぽい。児童書コーナーはかわいらしい。
オールマイティーさはないけど、ふと寄りたくなる雰囲気、
オープンから数年ながら、すでにかなりの固定客を持つ。
個人経営ながらも、生き残るだろうと思われる。
2つめは全国展開チェーン、Re-Read。
ブックオフの巨大さには及ばないけど、明朗会計、激安古本屋さん。
どれをとっても1冊3ユーロ、2冊で5ユーロ、5冊で10ユーロという、今まで
現存していた古書店に衝撃が走るレベルのロープライス。
店内にあの古書店独自の古い紙の匂いがない。なぜって
90年代以前の古書は置かない方針だから。
この斬新アイデアの本屋さん、気軽さもあって結構流行るんじゃないかな。
そして最後はSANTOS OCHOA。
創業100年の歴史を誇る、ログローニョの書店がチェーン展開。
すでに14店舗程スペイン全国に支店を所有。書籍、文具販売、そしてカフェも併設。
前出の老舗書店セルバンテスの廃業後、30人程からいた従業員は…
ここで皆さん元気に働いていた。あの骨董品のような薄暗いギチギチの店とは打って変わり、
明るさ一杯、スペース一杯のこの店で、新品のお揃いポロシャツを着て忙しくしていた。
黄昏の時代に入ったといわれる書籍業界だけど、
もうとっくに黄昏きってるこの古い街では、その新陳代謝は静かに行われていたんだ。
本好きとしては、しみじみと嬉しかったりするわけで。
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