その日は昼を挟んで用事が二件あった。
休日の混み合う街で急いで昼食を済ませなければならなかった。
店の回転が速そうな親子丼の店の行列に並んだ。
昼時の混み合う店先に並んで中をのぞいて見た時
実は何故だか少し不安な気持ちがしたのだ。
二人ずつの対面式の小さな席が5席と5人ほどが座れるカウンターだけの小さな店。
カウンターがいいなと思ったけれど、長い順番待ちの後やっと座れたのは対面式のテーブルの方だった。
名古屋コーチンの親子丼は甘くてとろとろして美味しかった。
小さな塗りのお椀に入った鶏のスープがついていた。
そのお椀を倒してしまったのだ。
でも倒したことに気付かなかった。
どうして倒してしまったのかもわからない。
恐らく服の袖口がお椀に触れてそのまま倒してしまったのだと思うのだが
ひっかけたという感触がない。
知らないうちに音もなくお椀が倒れたという感じ。
小さなテーブルの三分の一が突然スープでびしょ濡れになっているので
何だろうと不思議に思ったらなんと自分のお椀が倒れているじゃないか。
そんな感じなのだ。
へまをした恥ずかしさより、それに気付かなかったことのショックの方が大きかった。
自分の身体の動きがコントロールできないというショック。
実は最近時々感じていたことだったのが、外で失敗したのは初めてだった。
お店の人はやさしくて大量にこぼれたスープの始末をしてくれて
代わりのスープもくださると言った。
でも私はもうスープを飲む気力など無くなってしまって断ったのだが、
遠慮したと思ったらしく、新しいスープを運んできてくれた。
せっかくいただいたスープも、まだ半分くらいしか食べていなかった親子丼も、
もう食べる元気がなくなってしまって主人にたのんで食べてもらった。
その鶏のスープは白く濁っていたので最初に飲んだ時には気付かなかったのだが
底に小さなつくね団子が二つ入っていた。
お椀を倒した時に初めて気付いたそのつくね団子の可愛らしい様子が
何故か悲しく目に焼き付いている。
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