その日は、あいつの『歯ぎしりのようなもの』で目を覚ました。
「グガガガ・・」というなんとも下品な音は、私の中の深いトコロまで響いてくるようだった。
あいつは私を狙っているのだ・・・。
油断はならないのだ・・・。
少々不愉快で気分は良くなかったが、
身支度もそこそこに私は出かけることにした。
いつもよりもまだ少し早いようで空が白んでいる。
「さぁ。」と私は自分に気合を入れるために小さくつぶやくと
今現在、住処としているこの場所の裏に高くそびえる「カワラ岬」の地質調査にでかけた。
そう私は地質学者である。
月日が経つのは早いもので、カワラ岬の先端部分にある岩盤の地質調査をはじめて4年が経つ。
難しい調査ではあったが、もうすでにその地層がどのような成分で構成されているのか知ることができている。
--「もう少しだ。もう少しで終わるのだ。」--
スベスベ博士は丸い目をよりいっそう見開いて「ぎらり」と光らせ、
調査先へ向けて足を速めるのであった。
穏やかな円弧を描いた地層の調査だが
非常に危険で『すべりやすい足場』である。
気をつけて作業をすすめなくてはならない。
緊張感が足の先まではしる。
だが、最近ではこの緊張感を意外にも気に入っている自分がいる。
日常生活では味わえないぞくぞくする感覚だ。
昨日、遅くまで作業を進めていたおかげで
本日のノルマは昼過ぎには達成することが出来た。
「今日はもう少し奥まで調査に出かけるとしよう。なんせもう少しで、調査がおわるのだ!」
今回の調査で初めてとなる調査地点D-4で作業を進めることにした。
地表を順調に掘り進めていたところ、急に左爪に「ぐにゃり」とした感覚がはしった。
更に掘り進めていくとそれは判明した。
「アカクレン」という地層成分であった。
「これは珍しい。」
博士は目を光らせた。
「この土地でまさかアカクレンがでてくるとは!」
久しぶりに心が躍り、夢中でその周辺の調査を進めた。
「こ・これは大発見では・・・・」
調査に気をとられ、注意力が散漫になっていたそのとき…
博士は滑落した。
「わ、わーーーーー・・・・。」
だがその時であった。
博士は、足きゃくを思いのほか早く開き、
なんと岬の頂から地表に股をかけたのであった。
「おふぅ・・・危なかった。」
危機一髪のところで大怪我は逃れることが出来た。
これも日ごろから重いオモリを背負い、足に負荷をかけ鍛えているお陰であろうか。
「今日は少し調子に乗りすぎたな・・・・。」
と少々気恥ずかしながらも今日の成果に浮かれ気味のスベスベ博士であった。
「さぁ、今日はもう帰って一杯飲むとしよう。明日からまた忙しくなるぞ。」
水槽内にはまだ歯ぎしりの音が鳴り響いている。
ぐがががが・・・。
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ここまであきれずに付き合って読んでくれた人ありがとう。
これは、だいぶ前に書いていたものでUPしていなかった茶番劇のひとつでした。
今回、スベスベ追悼企画ってことで少し手直ししてアップしました。
スベスベのいない水槽は、やはり少しさみしいです。
茶目っ気たぷりでしたからね、あ、小鉄に比べたらってことですよ。
これで、スベスベのキロクはおわりです。
スベスベよ、ありがとう。