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◇7話 愛と悲しみ
アザラシまんじゅうの鳴き声は食品ロスを大いに削減した。
人間たちもその鳴き声が可愛かったし、便利に思っていた。
人の心は移ろいやすいもの、流行りなど継続しない、永遠に変わらないものなんて地球上には存在しない。
アザラシまんじゅうは、そのことを知らなかった。
そしてアザラシまんじゅうの人気もかげり始めていた。
ここは一人暮らしの男性のアパート。
冷蔵庫の中から「クークークー」と鳴き声が聞こえる。
扉を開けた男性が、消費期限を迎えようとするアザラシまんじゅうを見つけた。
冷蔵庫には5個入りのケースに入ったアザラシまんじゅうがあった。
「ああ、忘れてた。。。もらったんだった。俺、甘いの苦手なんだよね〜」
と言いながら、アザラシまんじゅうを手に取ってみたけれど冷蔵庫に戻してしまった。
明くる日も明くる日もアザラシまんじゅうは冷蔵庫で鳴き続けた。
とうに消費期限は過ぎてしまった。
そして男性はごみ捨て日の朝、鳴き続けるアザラシまんじゅうを他のゴミと一緒に、ゴミ袋に入れて捨ててしまったのだった。
ゴミを回収したゴミ収集車の中では、アザラシまんじゅうの鳴き声が聞こえていた。
それは男性が捨てたアザラシまんじゅうの鳴き声だけではなかった。
消費期限を迎え、捨てられた他の加工食品からも聞こえていたのだ。
だんだん人間達にとって、消費期限を教える鳴き声は面倒に思えるようになってきたのだった。
鳴き声を無視して、次第に罪悪感も薄れていき、食品ロスは以前の水準に戻りつつあった。
大量に製造されたアザラシまんじゅうは在庫を余らせていった。
消費期限間近になったアザラシまんじゅうも店舗で廃棄されるようになっていった。
ゴミ焼却炉の中で、アザラシまんじゅうの鳴き声が聞こえる。
鳴き声はやがて燃え盛る炎にかき消され、聞こえなくなった。
燃え尽きて灰になったアザラシまんじゅうは、最終埋め立て地に運び込まれた。
食べられず、忘れ去られ、捨てられ、燃やされ、灰になって、埋められる。
どんなに無念だろう、食べられることで与えるだけの愛を喜びにしていただけなのに。
その灰は、風に揺れているのか、それとも意識的に揺れているのか、虚しさが感じられるのだった。