◇8話 歪むアザラシまんじゅう
アザラシまんじゅうを最初に食べた日本の女の子が学校から戻ってきた。
「お腹すいた〜!ママ、おやつは?!」
「ずっとこないだからアザラシまんじゅうが鳴いてるわよ。食べてよ。」
と母親が言った。
「え〜、違うおやつがいい。」
母親は、お皿に乗せたアザラシまんじゅうを女の子に持ってきた。
「はい、食べて。」
「だって、飽きちゃったんだもん。違うの出して!」
と女の子は言うとアザラシまんじゅうを突っぱねた。
その勢いで、お皿のアザラシまんじゅうが床に転がってしまった。
ころころ転がるアザラシまんじゅうを母親と女の子は見ていた。
アザラシまんじゅうが後ろ向きに止まった。
そして、震えたように思えた。
2人は息を飲んだ。
後ろ向きだったアザラシまんじゅうは、ゆっくりと振り向いた。
落ちた衝撃からか、可愛いアザラシまんじゅうの顔はやや歪んでいた。
その歪んだ顔は、ゆっくり変化していった。
可愛かったその顔は、悲しみに満ちた表情になった。
女の子が近づこうとすると母親が怪訝な面持ちで止めた。
するとアザラシまんじゅうの顔は、目と口がつり上がり眉間にシワが深く刻み込まれ、一気に怒りの顔に変化した。
「きゃー!!」
女の子と母親は、その恐ろしい顔に悲鳴を上げて部屋を飛び出した。
世界中のアザラシまんじゅうの形相が一変した瞬間だった。
このアザラシまんじゅうの変化を合図にしたように、最終ゴミ埋立地の上空に雲が集まってきた。
雲は渦を巻き、強い風が吹き始めた。
風に巻かれて大量の灰が舞い上がっていく。
灰色の大気が辺り一帯を埋め尽くしていった。
雲は静電気を帯び始め、雷鳴が轟いた。
灰色の大気は巨大な壁のように街に襲いかかった。
逃げ惑う人間達を灰は飲み込んでいった。
この灰は世界のいたるところで現れ、同じように街を襲った。
全世界で海面が低下し始め、猛スピードで海水が蒸気に変わっていった。
蒸気は巨大な雲となって、地球上を覆った。
嵐が吹き荒れ、人間達は何が起こったのか分からず、逃げ場もなく右往左往するだけだった。