ここは地球からずっとずっと離れた遠い宇宙の青い星。
青い空と青い海と白い陸地が広がっている。
白い陸地と思われたが、陸地いっぱいにアザラシまんじゅうがひしめき合い、地面から15センチほどバウンドしながら動き回っている。
アザラシまんじゅう達が一斉に「クークー、キューキュー」と鳴き始めた。
すると海から人間の子供の姿をした女の子が上がってきた。
全身白いベールを身にまとい、天使のような微笑みをたたえながら、アザラシまんじゅうの中を歩いて行く。
アザラシまんじゅう達は、微笑みの女の子の周りを歓迎するかのように嬉しそうに飛び跳ねている。
ひときわ高く飛び上がった一匹のアザラシまんじゅうが、女の子の手のひらに乗った。
微笑みの女の子は両手でアザラシまんじゅうを抱える。
その満面の笑みからは、アザラシまんじゅうが大好きで可愛くて、慈しんでいることがとても伝わってくる。
アザラシまんじゅうも微笑みの女の子を心の底から愛していた。
とても尊い愛がそこにはあった。
微笑みの女の子はそっとアザラシまんじゅうに口を近づけた。
アザラシまんじゅうは目を閉じた。
そして微笑みの女の子は、アザラシまんじゅうを食べてしまった。
アザラシまんじゅう達は変わらず微笑みの女の子の周りを嬉しそうに飛び跳ねている。
微笑みの女の子は、また優しい笑みを浮かべながら歩き出した。
しばらく歩くと微笑みの女の子の表情が変わった。
何か落ち着かない面持ちでしゃがみ込むとアザラシまんじゅう達は微笑みの女の子を取り囲んだ。
ぷ〜う。。。辺りに間抜けなオナラの音が響いた。
アザラシまんじゅう達はさらに微笑みの女の子を取り囲み、その姿が見えなくなってしまった。
しばらくして微笑みの女の子は立ち上がると海へ歩き出した。
その顔には天使の微笑みが戻っていた。
微笑みの女の子がしゃがんでいた辺りには、豆粒ほどの小さなアザラシまんじゅうがたくさんいた。
この星には与える一方の愛と受け取る一方の愛、そして生み出される愛が繰り返されている。
見返りや駆け引きなどなく、純粋な愛だけが存在していた。
アザラシまんじゅう達と微笑みの女の子は穏やかな愛に包まれて、この星で暮らしている。
でも中には、無性に冒険心に駆り立てられるアザラシまんじゅうが稀に現れる。
物思いに空を見上げることが多くなり、ある日ポヨンポヨンと小刻みに飛び跳ね始める。
だんだん飛躍が高くなる。
そのジャンプが始まると他のアザラシまんじゅう達は「クー!クー!」と鳴き声を合わせて応援を始める。
どんどんジャンプは高くなり、最高潮に達すると空へと舞い上がって、そのまま宇宙へ飛び出して行く。
そして宇宙空間を自在に飛行し、愛に満ちた新天地を探す冒険の旅に出るのだ。