これは「図書室のネヴァジスタ」という同人サークルのゲームのSSです。
多数の登場人物が出て来ますので、詳細はwiki先生か、
ゲームの紹介https://booth.pm/ja/items/1258でご確認下さい。
少しでも興味を持って下さった方はプレイしてみて下さい。
下記のSSSはネタバレでもあるので、ご注意下さい。
大丈夫な方は下へスクロールしてご覧下さい。
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<ホントの笑顔を見せて>
学校近くの市立公園。
色鮮やかな花や流れる雲でさえ、カメラのレンズを通すだけで新鮮に見えた。
芝の翠もベンチの藍も何一つ変わりは無いのに、白峰には全て宝物のように映った。
夢中になり、時間を忘れてシャッターを切る。
やがて、写真を撮るからと無理矢理連れ出して来た同伴者を放っていた事に気付き、慌ててカメラを下ろし、振り返った。
彼は大きな木の下のベンチに座って、何かをじっと見詰めていた。
「………賢太郎?」
名を呼ぼうとして、白峰は慌てて口を噤んだ。
嫌、正しくは呼べなかった。
賢太郎の視線の先で幼い兄弟が手を繋いで歩いて居た。
中学生の少年が、幼稚園児の男の子の手を引いている。
年の差は恐らく賢太郎と清史郎くらいだろう。
中学生の兄は幼稚園児の弟に合わせて一緒に歌を歌っているようだった。
微笑ましい光景に、白峰はもう一度賢太郎を振り返る。
そしてカメラを持つ手を大きく震わせた。
賢太郎は、優しく微笑んで居た。
いつも皮肉めいた口の端だけを上げる笑い方や、
愚図る子供に見せるような困った笑い方しか知らなかった白峰は、
身体中に電流が走り抜けたような衝撃を受ける。
その柔らかい表情は余りにも綺麗で、穢してはならない神聖なモノのように見えた。
急いでカメラを構え、ファインダーを覗く。
しかし、レンズの向こうの賢太郎は既にカメラに気付いて居て、憮然とした顔でこちらを見ていた。
「おい、モデルを放って何してんだ。撮らないなら俺は帰るぞ」
不審そうな表情はいつもの賢太郎で、白峰はがっくりと肩を落としカメラを下ろした。
本物のカメラマンならば、今のようなシャッターチャンスを決して逃しはしないのだろう。
格好いい賢太郎や、綺麗な賢太郎なら幾らでも撮れる。
でも、肩の力を抜いた、無防備な表情をした賢太郎を撮るのは難しい事を知る。
そして自分が撮りたいのが、正にそういう賢太郎なのだという事も思い知る。
そして、どうしたら、賢太郎が自分の前でそういう表情をしてくれるのか、本気で知りたいと思った。
「ゴメン、ゴメン。肩慣らしをしてたんだ。今からが本番。じゃ、撮るからね」
仕方無いなという表情で、また賢太郎が笑う。
白峰はカメラを構えて、シャッターを切った。
いつか、いつの日か、賢太郎の幼い子供のように無邪気に笑う顔や、
あどけない寝顔を撮ってみたいと野望を抱きながら、
白峰は絶対にカメラマンになろうと決意を新たにするのだった。
<了>
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白峰もお兄ちゃん体質だから、賢太郎に甘えて欲しいのよ。