あぽまに@らんだむ

日記とか感想とか二次創作とか。

もっと上手な甘え方(茅賢)

2020年03月22日 | 図書室のネヴァジスタ関連

 

 

これは「図書室のネヴァジスタ」という同人サークルのゲームのSSです。

多数の登場人物が出て来ますので、詳細はwiki先生か、

ゲームの紹介https://booth.pm/ja/items/1258でご確認下さい。

少しでも興味を持って下さった方はプレイしてみて下さい。

下記のSSSはネタバレでもあるので、ご注意下さい。

大丈夫な方は下へスクロールしてご覧下さい。

↓↓↓↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<もっと上手な甘え方>

 

出版社勤めはしていても、長らく不本意な休暇を取っていた賢太郎は、
身体の回復も待たず馬車馬のように働かされていた。
待ち望んでいた週末とは言え、日曜には編集のチェックの為、
午後には出社しなければならなかった。
飲酒もしていないのに、今にも疲労で倒れてしまいたい欲求に駆られる。
懐の煙草を探していると、携帯の着信音が鳴った。
サブの待受け画面を覗くと見慣れた名前。
何か遭ったのかと一瞬ひやりと背筋を凍らせるが、平常心を装って受話器のボタンを押した。

「……何だ。もう良い子は寝てる時間だぞ」

相変わらずの子供扱いに、発信相手は携帯の向こうで少し笑ったようだった。
自分を子供扱いするのは特定の人物以外居ない。
その事を充分に把握しているからだろう。
賢太郎の物言いに安心感を与えて貰っているかのようだった。
暫くして心地良い落ち着いた声がした。

「お仕事帰り、すみません。津久居さん、明日はお休みですか?」
「一応、明後日の午後は何時間か出社しなきゃならないが、どうした」

電話の主、茅晃弘は其処で黙り込んだ。
暫く賢太郎は回答を待ったが、茅は自ら口を開く事が出来無いようだった。
小さく嘆息すると、賢太郎は相手を促した。

「…どうした?春人か瞠と喧嘩でもしたのか。言ってみろ」
「…いえ、白峰も、久保谷も帰省していて、居ないです」

そして賢太郎は気付く。
今は三月。
時期的には春休みの季節である。
両親との蟠りを失くした白峰は実家に帰省し、久保谷は神波と過ごすのだろう。
辻村は療養中の実父の為、実家に帰省するだろうし、
姉である花と石野の元に和泉は暫く泊まると以前話していた。
詰まり、実家や親類の元へ戻らないのは一人だけ。

「………一つ聴くが、今、幽霊棟にはお前一人か?」
「……はい」
「………いつから飯を食ってない」
「……昨日の夜から……」

何故外食しに行かない。
何故コンビニに何かを買いに行かない。
色々な疑問を言葉として叫びたい衝動に駆られたが、賢太郎は何とか全てを飲み込んだ。
そして覚悟を決めて、深呼吸すると言い放つ。

「2時間で行く。テレビでも観て待ってろ」

 

深夜まで営業しているスーパーで二袋程食材を買い込むと、賢太郎は自家用車に飛び乗った。
二時間と告げたが一時間半弱で到着した自分に、良く死ななかったなと肩を叩きたい気持ちになった。
勢い良くタイヤのブレーキ音が鳴る。
防犯の為、槙原が点けるようにと指示していた常夜灯が深夜の幽霊棟を不気味に照らし出していた。
スーパーの袋を抱えて賢太郎が車から降りる。
古びたドアの開く音に顔を上げた。

「津久居さん。こんな早く…、怪我はありませんか?」

呑気にテレビなど観ていられなかった顔色だった。
賢太郎は目を丸くする。
自分の一方的な我侭に仕事帰りの賢太郎を振り回していると自覚しているようだった。
茅の心は回復し始めている。
周囲の気持ちを知り、相手の立場を推し量るようになって来ている。
賢太郎はそれが分かっただけで嬉しかった。

「俺がそんなヘマするか。さ、さっさと作るぞ」

狼狽している茅を他所に、賢太郎は静まり返った幽霊棟の厨房に入って行く。
生真面目な辻村が料理担当の所為か、厨房は良く整理されていて、調味料や器具は全て揃って居た。
食材を選り分けて、使用しない物は冷蔵庫に入れてしまう。
黒いコートを脱ぎ、無造作に置かれた大きめのエプロンを身に着けると、振り返った。

「…この時間で食べるとまんま身になるから茶漬けにする。明日の朝、旨い物作ってやるから」

山芋とオクラを持って「な」と悪戯っ子のように笑う賢太郎に、茅の心臓が跳ねる。
疲れがピークな週末の深夜に呼び出したのに。
折角の休みを奪ったのに。
飯を作れなんて家政婦紛いの事をさせてるのに。
身勝手な我侭で振り回しているのに。
茅の少ない表情の中に、何かを読み取った賢太郎は憮然とした表情になる。

「……おい、此処まで来させといてメニューに文句は言わせないからな」
「ち…違いますっ…!」
「じゃぁ、大人しく見てろ」

炊飯器じゃ間に合わないなと鍋でご飯を炊き始める賢太郎に、茅は小さく笑みを溢した。
甘えているのだろうかとぽつんと言葉が思い浮かぶ。
そうだ。自分は兄、義之を思うように、賢太郎に甘えているのだ。
でも、何処まで血縁でもない賢太郎に甘えていいのか分からない。
疲労している身で深夜に車を走らせる事が、甘えで片付けていいものなのか、茅には判断出来なかった。
賢太郎は優しいから、これまで自分を見て見ぬ振りをして来た大人達のように、
途中で放り出す事が出来ないから、仕方無く我侭を呑んでくれているのかもしれないのだ。
いつか、お前の我侭には付き合い切れないと言われてしまうかもしれない。
茅は怖くなる。
あの時のように、「兄弟ごっこはもう終わりだ」などと言われてしまったらどうすればいいのだろうか。
賢太郎は目の前に居るのに遠い気さえしてくる。
茅は考えたく無くて無防備な賢太郎の背中に抱き着く。

「……ちょっ…、な…何す…晃弘っ…!!」

焦ったのは賢太郎である。
ネバネバ系の食材を包丁で切っていたのである。
危ないどころの騒ぎではない。
何とか姿勢を整え深呼吸するが、急に背後から抱き締められ嫌でも相手を意識してしまう。
赤らむ頬を悟られたく無くて慌てて包丁を置き、
振り向けずに視線だけで茅を見るが、近過ぎて相手の表情が見えない。
暫く賢太郎は茅の言葉を待っていた。
聴く事もせず、ただ黙って聴く姿勢で待っていた。
やがて茅が口を開く。

「津久居さん」
「……何だ」
「……これは…「甘えてる」になりますか」
「…まぁな…」

茅は大人への甘え方を知らない。
賢太郎は分かって居た。
だから、少しずつ教えようと思っていた。
頼っていい事、自分で解決しなければならない事、
その切り分けを少しずつ学んでいって欲しいと思っていた。
茅は賢太郎の回答に満足したようだった。
そして触れている頬の熱さに気付く。
そして視線を上げて一瞬目を見張るが、すぐに口許を綻ばせる。
言い方はぶっきら棒だったが、賢太郎は気付いていない。
辻村が律儀に磨き、硝子のように映るステンレスの食器棚に柔らかに微笑んだ顔が映っている事に。
春先の深夜に、清史郎が絶賛した賢太郎の不器用な優しさが詰め込まれた食事が、
空っぽだった茅の腹を満たしていった。


<了>

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オクラと山芋ととろろ昆布と納豆のお茶漬け。……絶賛!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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