<FF4セシカイで「嘘泣き」>
<嘘じゃない涙>
結局押し切られる格好でカインはアビリティ【嘘泣き】を取らされる羽目になった。
百歩譲って覚えるのは仕方無いとして、要は戦闘中に使用しなければいいだけの事なのだ。
カインはそう自分に言い聞かせ覚えた。
しかし戦闘の度、執拗に「カイン!嘘泣き!」「カイン嘘泣きして!!」と指示してくるセシルに皆うんざりしていたし、
当の本人であるカインは半ばノイローゼ気味になっていた。
嘘泣きではない。本気で泣きたい。
「ねぇ、カイン。いい加減「嘘泣き」してあげれば?」
「一回でもやれば、あいつも落ち着くって」
脱力したリディアとエッジからお願いされるまでになって、カインは追い詰められていた。
唯一味方であると信じていた幼馴染で初恋の相手、白魔導師ローザまで申し訳無さそうに、
こう言う始末。
「いざとなった場合の練習にもなるんじゃなくて?」
カイン・ハイウィンド、21歳。
人前での涙の危機。
嫌、本当に泣きたい。
大体、セシルが自分に【嘘泣き】のアビリティを強要した事自体が間違いなのだ。
事の元凶に一言いってやらなければ気が済まなくなったカインは、
無謀にも一人岩の上に腰掛けて休憩しているセシルに近寄って行った。
「セシル。いい加減に戦闘中【嘘泣き】を指示するのは止めろ!
通常の戦闘では皆、モンスターを即殺出来るんだから、意味が無いだろう!迷惑だっ!」
セシルは小さな水筒から水を飲むと、興奮した様子のカインに動じずさらりと答える。
「だって、折角【嘘泣き】を覚えてくれたのに、使用してくれなくちゃ意味が無いじゃないか」
不機嫌そうに顔を背ける聖騎士にカインは一気に逆上する。
クールな竜騎士の見る影も無い。
「誰が【嘘泣き】などするか!今度指示してみろ!モンスターじゃなくお前を串刺しにするからな!」
大声で怒鳴り散らした後、カインは皆から離れた場所に竜騎士の身軽さで跳んで行ってしまった。
リディアとエッジが大きく溜息を吐き、ローザは心配そうにセシルを見ていた。
休憩が終わり、集合の合図が掛かったので、仕方無くカインは皆のいる魔導船の乗降場に戻って来た。
再度月へ戻ってレベル上げをするのだ。
ハッチを開け乗船しようとするパーティの元へ、血迷ったモンスターが襲い掛かって来た。
闘い慣れた五人は咄嗟に身構え戦闘が開始される。すかさずセシルが叫んだ。
「カイン!【嘘泣き】して!」
忠告したのは、ほんの数十分前の出来事だ。
人の言う事など全然聞いていなかったのかと、カインは怒りに頬を染め、
宣言した通りモンスターではなくセシルに攻撃する為にジャンプの構えに入る。
しかし、此処で再度愛らしい声が戦場に響き渡る。
それは幼い頃から知っている今では娘になっている少女の声。
「カイン!【嘘泣き】しちゃいなよ!」
華奢な幻獣使いの声にカインはその場に凍り付いた。
その背後からも軽い口調のテノールが響く。
「カイン、いい加減【嘘泣き】しちゃえよ。可愛くな」
エッジことエドワード王子は素早いモンスターからの攻撃を、まるで舞うように交わしながら促す。
眩暈がした。
セシルばかりか、仲間達からまで【嘘泣き】を強要されては、逃げ場が無い。
カインは悪寒がして、青褪めた表情でパーティの癒しである美しい白魔導師に顔を向ける。
ローザは女神のように柔らかく微笑んだ。
カインは救われたような気がして、信じてなどいない神に祈りたくなる。
目尻に涙が滲んで来た。
しかしその希望も見事に打ち砕かれる。
「一回だけ、【嘘泣き】してみて?カイン」
退路は絶たれた。カインは【嘘泣き】などではない。
本気で泣けて来た。
贖罪の為とセシルに同行して来たが強要されるのは戦闘以外の無理難題。
この場合もそうだ。
闘いではない。可愛く泣くという所業を強いられている。
大の男である自分が泣くという行為がそんなに見たいのか。
なら、本気で見せてやる。
ローザにお願いされた時点で硬直し、動かなくなったカインをセシル達四人はモンスターからガードしながら心配そうに見守っていた。
その内、闘っていたモンスター達さえ、棒切れのように突っ立っているままのカインを不審に思い、闘う事を止めていた。
そして目敏いエッジが先ずは気付く。
「おい…カイン…、震えてないか…?」
春を向かえようという今の季節、少々汗ばむ事はあっても、震えるほど寒い事は無い。
しかし確かにカインは震えていた。
まさか、とセシルは恐る恐るカインに近寄って行き声を呑む。
「ふっ…、…っ…っく…、ぅ…っ…く」
カインはまるで幼子のように涙をぽろぽろと零し泣いていたのだ。
【嘘泣き】のアビリティは発動した感はない。セシルは慌てた。
幼い頃から涙など見せた事のないカインを【嘘泣き】でもいいから泣かせたいと思った。
それが皆と共謀するような形で本気で泣かせてしまうとは思わなかったのだ。
そしてカインの涙が此処まで自分を動揺させるものだとも思わなかった。
「あ~あ、カイン本気で泣かせちゃった」
「知らねぇぞ、セシル。責任取れよ~」
「カイン…ハンカチ、これ使って?」
モンスターまでおろおろと近くを心配そうに徘徊している始末だ。
それほどカインの涙は効果的だった。
このままでは気になって仕方無いからとカインを宥めるローザを残して三人でモンスターを駆逐し戻る。
その頃にはカインは大分落ち着いていた。
ローザに貰ったハンカチを借りて、涙を拭っている。
頬や目許は赤い。
自分で泣かせておいて何だが、それだけでセシルは興奮した。
「……カイン。ゴメン…。言い過ぎた」
気を遣ってローザ達はその場から離れ、セシルはカインと二人切りになる。
平な岩に腰掛け涙を拭いているカインの足許に跪き、そっとその手を握る姿は騎士と姫君のようだ。
黙り込んで目を見ようともしないカインにセシルは傷付き、自分がどれだけカインに嫌われたか思い知らされる。
それは測り知れないダメージだった。
「もう言わないから、僕の目を見て」
それでもカインは何も言わない。
赤い目許を見られたくなくてターコイズブルーの瞳を閉じている。
「約束する。皆にも強要しないように言うから。カイン」
セシルは必死だった。
カインに嫌われる事は世界が崩壊するのと同じ。
蒼き星が救われてもカインが居なければ意味などないのだ。
カインは握り締められた手が震えているのに気付き、そっと瞼を開いた。
薄青の瞳がセシルを捉える。
セシルは無罪を勝ち取った咎人のように瞳を輝かせた。
カインの涙は本気ではない。
勿論、アビリティを使用しない「ただの嘘泣き」だった。
しかし、是程までにセシルにダメージを与えられるとは本人も思っていなかった。
(もしかして)
カインは必死に謝罪を繰り返すセシルにこっそり笑みを零す。
それはセシルからの愛の告白も同じ。
顔の半分以上も隠れるドラゴンヘルムの奥で、カインはこっそり微笑み続けた。
<了>
---------------------------------------------------------------------------------------
うちのセシカイは引っ付かない。
セシル→→→II(超えられない壁)→カインなのです。哀れ。