<巻き込んだ代償>
「…で、あんたは何を支払ってくれるんだ?」
アーシェ王女奪還後、秘密裏に空中都市ビュエルバに帰還した一行は、
オンドール公爵の持成しで、ご馳走と充分なお湯、そして寝床を提供された。
いつも宿屋では男女一室ずつだった為、ヴァンとバッシュとバルフレアは狭い一室で寝起きしていた。
オンドール公爵はそれを見越してか、1人1室ずつ部屋を用意してくれたのだ。
女性陣は思いっ切り汗を流し、綺麗な夜具を身に付け早々に眠りに落ちた。
ヴァンはミゲロさんの道具屋より部屋が広いと、部屋中はしゃぎ廻って夜半過ぎには熟睡してしまっていた。
バッシュがヴァンの就寝を確認し、自分の部屋に戻ってくるとバルフレアが自分の部屋であるかのように、ソファで寛いでいた。
「君の部屋は向かいだった筈だが…?」
バッシュは小さく溜息を漏らす。
困った子供を見るかのような視線は穏やかで優しく、
プライドの塊のようなバルフレアでさえ反発心が芽生えないのが不思議だった。
いつもの甲冑ではなく、平民服に着替えたバッシュは服に合わせて綺麗に髪を整えていた。
風に吹かれ金に輝く様も美しいが、まるで濡れたように香油で整えられた様も美しかった。
否、バルフレアは自嘲する。
35歳過ぎの男、然も元将軍に美しいなど気でも触れたかと思われるのがオチだ。
自分に割り振られた部屋を我が物顔で寛ぐバルフレアを責めるのでもなく、
バッシュは優雅な物腰でソファに近付いてきた。
異国から流れついて将軍にまで昇り詰めたと聞き及んで居たが、
バッシュは高貴な生まれだとバルフレアは直感する。
それはバッシュもバルフレアに思っていた事なのだが、バルフレアは気付かれていないと鷹を括っていた。
「リヴァイアサンに乗り込む際に、巻き込んだ…代償だな?しかし…済まない…。私は何も持っていない…。金も…名誉も…。この身しか…」
叱られたわんこのように、すっかり消沈しているバッシュにバルフレアは微苦笑した。
そっとワイングラスを傍らのテーブルに置くと、その節くれだった戦士の指をそっと握る。
きょとんとした顔でバルフレアを見返してくる表情には、歴戦の将軍の面影は無い。
「じゃあ、そのあんたを俺にくれ」
「…!!」
ぎょっとした表情で硬直するバッシュにバルフレアはぷっと噴出してしまう。
「私は真剣に悩んだのだが…どこまでが冗談なんだ?」
心無しか唇を尖らせながら不平を漏らすバッシュの腕を掴んだまま、バルフレアは肩を揺らして笑う。
このままだと自分は恋に堕ちる。
バルフレアは、男に然も14も年上に恋してしまいそうな自分を全否定したい気持ちと同時に、
この甘美な誘惑に堕ちていく心地良さも感じていた。
「何だ。もう酔ったのか?公爵からいいスコッチを貰って来たのだぞ?」
目を閉じて考え事をしていたバルフレアを心配してバッシュが顔を覗き込んで来る。
バッシュの優しい指が自分の髪に触れてくる。
バルフレアはひんやりとした指先を感じていた。
恋の駆け引きなど、きっとこの男には出来ない。
自分の気持ちが確定すれば、後は攫うのみだ。それが空賊なのだ。
「巻き込んだ代償。頂いたぜ」
背中を見せ、酒を酌むバッシュに聴こえないように、バルフレアはそっと囁いた。
<了>
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バッシュ大好きでした。何せ声が力ちゃん!
頑張ったんですが、クリア出来なかった不器用な私です。