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夕方、一番光が眩しく見えるその頃合いの街を二人は交差点から伸びる道にそってとぼとぼと歩いた。学校の帰り少し話したい時に二人はよく最寄りの駅の次の神宮駅まで歩くことがあった。そして今日はどちらともなくそうしていた。しばらく黙っていたアキラがようやく口を開いた。
「シルシ君のあの事故、嘘だったんだ…」
「え?嘘ってそんな…」
「うん、そうだったんだ」
「でも、先輩だって現に今でも事故の後遺症あるし、家族の人だって…」
「あの事故があったのは本当。ただ、一人、死んでいた人が違った。死んだのはシルシ君の妹じゃなかったんだ」
「…そんな…でも、一体誰…」
「それが分からないんだ。でも、シルシくんはこれを隠さなきゃいけない理由があった」
「それでシルシ先輩は悩んでしまったんですね」
「もしくはそう信じこまなきゃいけない理由かも…」
アキラはそれか口元に手をやり、少し考えこんでから声のトーンを強めてこう言った。
「うん、そっちの方がきっと正しいと思う。それをシルシくんはひとりで抱えてたんだ。ボクは馬鹿だ。そんなの傍にいても全然気づいてあげられなかったし、そんな気持ちを考えもせずにシルシ君のこと頭ごなしに否定するようなこと言ってしまって…でもそれに気づいたのはそのことをシルシ君に問いかけた後だった」
「…アキラ先輩」
トトはアキラの腕にすがった。急に不安が襲ってきて、そこにアキラがいることで安心したい気持ちにかられた。
‐アキラもまた人に言えない迷いを抱えながら真実を探していたんだ。シルシ先輩、それに主治医だったウケイという医者が関わっているんだ。アキラ先輩にとっては人事ではなかったからやっていたことなのに、それを私は一人勝手に騙されてると勘違いして、なんて浅はかだったんだろう。
「私、アキラ先輩とシルシ先輩にむかついてきました!そんなこと自分一人で抱え込んで。私達のこと信じもしないで!それってひどいじゃないですか」
「トトちゃん…」
「でも、私も一つ謝らなきゃいけなくて。あの後、シルシ先輩の家に押しかけていって、それで…ちょっと色々あって…なんか先輩を襲うみたいな感じの状況に追い込まれまして…、それですぐにアパートから追い出されて…」
「…ははは」
アキラは苦笑いしてる。
「でも今の先輩の話を聞いて私もやっと腑に落ちたんです。その騒動の原因になった私が見たものなんですけど…」
「うん。なあに?」
「シルシ先輩の首元にシリアル・ナンバーの彫り物があるのを偶然見ちゃったんです」
トトにとって罪の告白だった。そしてアキラは優しく許してくれる。そのはずだった。
「…トトちゃん、それって本当なの?」
「はい。アキラ先輩知ってますよね?あのスフィアでナンバーのタトゥーシール貼るのが流行ってるの。シルシ先輩はスフィアとか嫌ってると思ってたのに影響受けてたなんて、きっとアノンにたぶらかされ手に決まってます。私そのことがあんまりショックで…」
トトはそう言って涙ぐむ。
「それは違うかも」アキラは優しくしかし冷静に言う。
「先輩をかばうんですね?」
そう言ってトトは鼻をすすり始める。それにアキラはハンカチをそっと差し出した。
「トトちゃん、びっくりしないでね…ボク、偶然見たんだ。そのシリアル・ナンバー…実はアノンちゃんにもあるのをさ」
「え…じゃあじゃあやっぱり二人揃いのタトゥーを入れて…それって…」
トトはショックを受けてうつむく。アキラ先輩は違うなんて言っておきながら結局自分の予感がやっぱり当たってるんじゃないか。
「ううん。僕の見立ててではちょっと違うかな」
「どういうことですか?」
「僕がアノンちゃんのナンバーを見たのはあの子に会ってすぐの頃。その頃は少なくともスフィアでそういうタトゥーをいれるのは流行ってなかった。それにデザインも違ってもっと複雑というか本格的だった。トトちゃんが見たシルシ君のもそうじゃない?」
「そうですね。確かに流行ってるのとは違ってました。十桁くらいのシリアル・ナンバーとバーコードみたいなものがありました…」
「…やっぱり。ボクはアノンちゃんに見たのも同じだよ」
「じゃあ、アノンやシルシ先輩のタトゥーはずっと前から入ってたってことですか?」
「うん、そう。でも、あの二人は以前は顔見知りでも何でもなかった。これが不思議」
「それ自体が嘘ってことは…」
「それはないと思う。僕がシルシ君に出会ったのは事故の後、病院でリハビリに励んでた頃だったんだ。それから今までアノンちゃんのことなんて聞いたこともなかった。それ以前のことは分からないけど、まず面識なかったと思って間違いないよ」
「じゃあ、二人は知らずに何か共通する環境にいたってことは考えられないですか?」
「うん。ボクもそう思うんだ。アノンちゃんって少し前の記憶がないみたいだったでしょ。ただ暗いところに閉じ込められてたような気がするって。それが関係してるんじゃないかと思う。それでね。二人の過去での共通項があるとすればそれは…」
「研究所…」トトがつぶやいた。
「うん。まだわずかな線でしかないけど。シルシ君の妹がいた研究所…それにアノンが閉じ込められていた部屋もそこにあったのかもしれない」
「アキラ先輩の話、分かります。分かるんですけど、でも一体、私どうしたらいいんですか?…」
トトはくんだ腕に一層強くすがると、アキラは足を止めた。それから不安そうに見上げるトトに手袋で膨れた人差し指をひとつ立てながら
「心配しないで。抜かりはないよ」そう言って笑った。
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