まだヨミが元気だった頃、珍しく彼女からの誘いで僕はそこに出かけた。神宮橋にショーケースに入ったマネキンみたいにマキーナを『端末化』する女の子たち。没個性的にも見えるけど、そうなることのかわいさって言うのは別にあってもいいだろう。でも、みんな商品になりたいだけで、なりきれてない生身の女の子たちだった。近くから順繰りにマキーナ達を目で追っていくと、その中にひとりで僕の目が止まった。その子が一番、僕の描いたマキーナに似ていると思った。まるで人形が一人立っていたように見えたから。
「あっ、いた」
ヨミは僕の視線をそのまま辿るように小走りにその女の子に駆け寄っていった。
「アノン」ヨミは彼女のことをそう呼んだ。
「イナギ、紹介するね。この子。アノン」
ヨミはそう言ってその女の子の腕にすがって僕のいる方に引っ張った。
「あ、ヨミ…?」
今更、アノンと呼ばれた女の子は反応して、ぐいぐいとヨミに引っ張られていく。どこで知り合ったのか分からないけど、僕はこんなヨミを見たことがなかったから、二人がかなり親しい関係なんだと分かった。
「この人は前言ってたほら、イナギっていう人」
ヨミが僕の前でそう言った。
「イナギ…」
アノンはそれでも騙されたようにきょとんとしていた。
「会いたいっていってたでしょ?直接聞いてみたらと思って。それがこの人、イナギ」
ヨミはそう言うけど、僕だって一体何のことか分かってないんだ。
「よろしく、イナギ」
ヨミに促されてアノンが初めて僕の目を見た。
「ああ…」
僕は少し気後れした。しゃべってもやっぱり彼女は人形のようだった。
「イナギがオリジネイター?マキーナの生みの親?」
「どうしてそう思うんだい?」
アノンのいきなりの質問に僕はたじろぐ。
「みんなそう言ってるから」
「…マキーナにオリジナルは存在しない。あるのはネットワークだけ、だろ?」
けど、僕の答えはいつも同じだ。するとアノンは黙って考えこんでから
「…ヨミ、この人違うって…」とヨミに向かって言った。
「うん、そうみたいね…」
ヨミはそう言って笑った。
「そうか。イナギはオリジネイターじゃない。まだマキーノに会えないんだ…」
マキーノ?誰だろう?その時の僕には分からない。
「そう?」
「でもいい。私…多分あの人だって思ってるから…」
アノンはそう言った。
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