アノンはスフィアの合同イベントの会場から一人抜け出して、鬱々とした足取りで夕方の街を歩いていた。灯ったばかりの街灯がやけに眩しくて頭の中に広がってくらくらした。ざわめく道にあふれて人が歩いているのに、油断して目をつむってしまうと広く長い上り道をただ一人で歩いているように思えてくる。
代理人からされたデウ・エクス・マキーナの新しい仕組みの話。私が伝えるまでもなくその話が行き渡ってて、他のスフィアのアソシエイト達はみんな喜んでた。でもそんなにうまくは行かないんだ。私には分かる。あいつは独り占めする気だ。ソースにアクセスできなくして、誰にも読めない言葉に変えて閉じ込めてしまう。この世界の歴史の『権力』の成り立ちを見ているみたいにきっとマキーナもそういう存在になっていく。
ああ、シルシがオリジネイターだったら良かったのに。私に残された時間は多くない。今度のイベントの時までが私に許された時間。ヨミは多分あまり待ってはくれない。それに焦ったイナギがその時計の針を早めて、それからまだ何かを起こそうとするかもしれない。私は一体どうすれば…?ウケイ先生はどうして何も告げずに私をひとり置き去りにしてしまったのだろう?
もう時間だ。戻らなきゃ。イベントが始まる。そうしてクラブが入ってるプラザに戻ってくると、入口前のちょっとした広場に一人見覚えのある顔があった。あれ、あの人…
「…やっぱりいた」
サイドから紐が垂れてるかわいい毛編みの帽子を被った彼女はアノンに声をかけた。
「…トト?」
周りを眺めてもアキラもシルシも見当たらない。どうやら一人できたみたいだ。モノが言うにはちょっと前まではこういうイベントにも顔出してたみたいだけど、今日の目的は少し特別みたいで、トトはぴんと伸ばした手を握りしたままアノンの目の前でずっとうつむいてる。
「…どうしたの?一人?」アノンは聞いた。
するとトトはやっと答えてくれた。
「…先輩から離れて」
「え?」
「シルシ先輩から離れて。あなたがいると先輩が危ないから」
「トト、何を言ってるの?」
アノンの笑顔は少し歪んだ。
最新の画像[もっと見る]
-
忘れられた色たち -Forgotten Colors- 2ヶ月前
-
『巫女物語』第05話「嵐を呼ぶ初占い!」 2ヶ月前
-
昭和百年奉祝曲アマザカル(Ama-Zakal A Song For The Showa 100th Anniversary) 3ヶ月前
-
Rapture -ラプチャー- 8ヶ月前
-
『巫女物語』第03話「男の子と初デート」 9ヶ月前
-
『巫女物語』第02話「その初仕事は突然に」 1年前
-
『巫女物語』第01話「巫女になった男の子」 1年前
-
『巫女物語』第01話「巫女になった男の子」 1年前
-
『巫女物語』第01話「巫女になった男の子」 1年前
-
【自作曲】Simulated Reality -シミュレーテッド・リアリティ-【デジロック】 2年前
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます