白い光が僕の間の前に揺らいでいて、時折影がそこを通り過ぎている。次第にそれが像を結んで、ようやく誰かが分かった。
『…シルシ、聞こえるか?私だ』
-先生…ウケイ先生…?
『そうだ。よく頑張った』
-僕は…一体?
『分からなくても無理はない。それは今は重大なことではない』
-ヤエコ、ヤエコは、どうなりましたか…?それに父さんも…
『まずは自分のことを考えるんだ、シルシ。君が元気になったらきっと二人も喜ぶ』
-会わせてください。
『いつか会えるさ、シルシ。心配するな。私が保証する』
僕はどこかで迷ってあの時にはまり込んだのかもしれないと思った。目が覚めた僕は病院の一室らしき場所でベッドに寝かされている。起き上がろうとしたが、背筋に鉄の棒でも刺さっているかのように身体が動かない。幾度か試してみて、諦めると僕はぼやけた天井を見上げた。頭もうまく働いてはくれない。それで僕は騙されたような気分でいる。今ここで目を覚ます前に僕に何が起こったんだろう。それから僕は悟った。
僕はまた『事故』にあったのだった。同じ事故の日、同じ時間に…三年前の時、ヤエコと父さんは死んだ。アノンは…アノンを僕は救えただろうか?僕は、とにかく僕だけはまた生き残ったようだった。どれだけ僕は眠っていたんだろうか。前のように数ヶ月もそんな状態だったんだろうか?次第にはっきりとしてくる周囲の景色を僕は唯一動く眼球だけを使って確かめようとした。どこかは分からない。ただあの研究所の病室じゃないことだけは分かった。僕の脈打つのとあわせてビープ音が緩やかな調子で鳴っている。自分の身体に反応して出ている音なのに、どこか母親に抱かれているようで少し気持ちが落ち着いた。すると、感覚が戻ってきた下半身に重たいものがあった。どうもこれは今回の事故のせいじゃないらしかった。なんとか、視線を足元に向かわせる。そこには…僕の足に突っ伏して寝息をたてている女の子の背中が見えた。それはトトだった。
「…さ…か…」僕はトトを呼ぼうとした。
が、麻酔が効いてるのか力が入らない。しばらくあがいていると、枕にしていた僕の太ももが微かに動いているのに気づいたトトが「う…ん…」と目を覚ましたようだった。それから眠い目をこすりながら、全部は開かない大きな目を僕に向けた。そこにおぼろげに写るのは必死にあがく僕の姿だっただろう。
「…先輩?」とトトはひとことつぶやくと、それからものすごい速さで僕に覆いかぶさるように身を乗り出して、目を見つめた。僕は無言のまま、トトの見開いた目を見つめて、瞬きを二回した。するとトトの目が見る見る潤んできて、次の瞬間にはわずかに感じる首元への圧力とともに僕の目の前は真っ暗になった。
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