
カラヤンとフルトヴェングラー/中川右介(幻冬舎新書)
「カラヤンとフルトヴェングラー」といっても、20世紀を代表する両巨匠の名盤ガイドとか音楽性云々の話ではない。これは第二次世界大戦を挟んで繰り広げられた、クラシック音楽界の帝王の座をかけた両者の生々しい権力闘争のドキュメンタリーである。そしてその争いは音楽界だけに止まらず、なんとナチス政権内部の派閥抗争とも連動していたのであった(ゲッベルス&フルトヴェングラーvsゲーリング&カラヤン)。第三の男としてあのチェリビダッケの話も出てくるが、この人はどちらかというと二人の抗争に巻き込まれた犠牲者である。
意外だったのは、フルトヴェングラーがKYで優柔不断というケロロ軍曹のような性格だったというところ。それとは対照的に、カラヤンが戦後のEMIでの幾多のレコーディングセッションをコンサートのリハーサルに利用した(もちろん経費はレコード会社負担!)というあたりはいかにもな話。昔から合理主義で抜け目の無いビジネスマンだったのだ。