横山光輝が1956年に出版した幻の名作時代劇、『千鳥の曲』という作品があるが、先日この作品のオリジナルを入手することに成功した。1955年に『音無しの剣』でデビューしたので、この『千鳥の曲』もかなり初期の作品である。
そして1956年に出版されたのが、少女漫画雑誌『少女』が夏に出版した『ちどりちゃん』という別冊漫画ブック。ここに『千鳥の曲』と、うちのすみおという漫画家が描いた『人魚のなみだ』という2つの作品が収録された。しかしこの別冊漫画ブックはなんといっても1956年のものなので、今では手に入れること自体が奇跡的で、今回オリジナルブックを入手出来たことに思わず感動してしまった。
実は2008年に出版された『横山光輝プレミアムマガジン』の特製バインダーに付録として、こちらの『千鳥の曲』の複製版が付いていたので、内容は過去に付録として読んだことがあったのだが、今回オリジナル版をゲットしたので、改めてこの作品を読みなおしてみたが、オリジナル版を入手出来る日が来るとは感無量である。尚、原版は紛失してしまっているらしく、この複製版も今回入手したブックをベースに、新たに吹き出しを焼き直したらしい。
『千鳥の曲』の舞台は幕末。幕府の武士、源三郎は開国して日本を変えるべきという考えを持っていたが、徳川幕府の友人たちと意見が合わずけんかとなり、その後果たしあいにまで発展した結果、源三郎は数名を斬ってしまう。幕府を追われる身となった源三郎は妹で、琴を弾くのが上手な千鳥を連れて、同士のいる京都へと向かう。幕府は源三郎を捕える為、三四郎という腕の立つ若者を刺客として京都に向かわせるが、実はこの三四郎は千鳥のことが好きだった幼馴染み。千鳥も見つけたら殺せとのミッションを受けているが、どうしても好きな千鳥を殺す気になれない。やがて京都を訪れた三四郎たちは千鳥を見つけ捕えるが、三四郎と同行していた父が千鳥を殺してしまい、三四郎は大きな悲しみに打ちひしがれる。源三郎は討幕隊のメンバーとして江戸を攻め落とすが、その際に三四郎を対決することになり、三四郎は千鳥が亡くなったことを告げて自分も息絶える。最後は幕府軍が敗北し、江戸幕府は終わりを告げ、新たな時代の幕開けを迎えるというところで物語は終わる。
全84ページの中編作品だが、上記の通りなかなか物語の展開も早く、幕末と言う激動の時代の中で描かれた悲劇だが、今読んでもかなり面白い。横山光輝の初期作品ながら、彼のストーリーテリングスタイルが既に確立されており、中編ながらとても読み応えのある時代劇作品だ。
改めて、今回横山光輝幻の初期作品をオリジナルでゲット出来た喜びをかみしめながら読み直したが、これからも出来る限り貴重な初期作品のコレクションを続けていきたい。