僕の崇拝するブルース・リー師匠だが、彼は映画人である前に一人の武道家、そして哲学者であった。映画はあくまでも自分の武道、截拳道(ジークンドー)を広める一つのマーケティング手段だったのだ。
そしてブルース・リーは時代を常に先取りした革新者、イノベーターであった。そもそも中国武道を中国人以外に教えることはご法度だった時代に、ブルース・リーは米国人を含め広く教えていったが、これは中国武道に変革をもたらすかなり思い切った、画期的/Disruptiveな取り組みであったと言える。そして、ブルース・リーはトレーニングに必要な様々なギアを自分でも編み出していった。一番有名なものとして取り上げられるのが、この“オープンフィンガーグローブ”である。ヌンチャクと共にブルース・リーを象徴するグッズとして有名であり、僕もこのオープンフィンガーグローブを愛用している。
オープンフィンガーグローブは、指の部分が5本に別れていて、指の先も自由に動かせる仕様の総合格闘技専用のグローブ。一見ボクシングのスパーリング用グローブのようだが、グローブをしたままモノを掴むことが出来るので、まさに格闘技にはもってこいのグローブであり、“掴む”ことが出来るグローブというのが、まさにブルース・リーの截拳道の精神を象徴するものだ。指を入れてみた感触が何ともしっくりとくるグローブで、そして打撃と防御両面における自由度はまさに理想的なグローブであると言える。
日本人が産まれて初めて観たブルース・リー映画は、1973年に日本で公開された『燃えよドラゴン』であった。そしてその『燃えよドラゴン』で一番最初にブルース・リーという男の姿を目の当たりにするシーンが、映画冒頭からいきなり繰り広げられるインパクト大な“総合格闘技”のシーンだ。当時はまだ無名だったサモ・ハンキンポーを相手にパンツ姿にグローブで闘い、最後は寝技・関節技などに持ち込むブルース・リーの独特な格闘スタイルはまさに“総合格闘技(MMA=Mixed Martial Arts)”の先駆けであった。ブルース・リーが教えていた“截拳道はまさにMMAそのもの“なのだ。総合格闘技が有名になったのは1990年代に入ってからだが、ブルース・リーが1960年代から提唱し、実践していた格闘技論やその技術は、現在の総合格闘技で行われている事のほとんど全てを実践していた事になる。振り返ると如何に先見の明があったかを思うと、本当に驚くばかりである。
そして、現在の総合格闘技の試合において必須アイテムとなっているのが、このオープンフィンガーグローブなのだが、既に1960年代にブルース・リー自ら開発していた。ブルース・リーがオープンフィンガーグローブを開発した理由としては、彼が1960年代に武術家として活動をしていた時代に、「ボクシングのグローブでは相手の腕を掴みにくい。指を5本独立して動かす事が出来、指先が動かせるグローブを開発したい。」という思いから、当時の彼の格闘技活動のパートナーであった武術家のダン・イノサントと共同制作でオープンフィンガーグローブを製作したのだ。アメリカの警察が警棒を使った訓練をする時に使用していたグローブを、ブルース・リーとダン・イノサントがお金を出し合って6組購入し、それらのグローブの指の部分を切り落として縫い合わせた、とダン・イノサント自身がかつてインタビューで答えていた。その後、MMAが人気になると、オープンフィンガーグローブは完全にスタンダードなギアとして確立されていった。
ブルース・リーは武道家であっただけではなく、自分を美しくスクリーンで見せることが出来る表現者であり、華のある存在だったが、武道のみならず、その武道哲学、そしてオープンフィンガーグローブを始めとした様々なトレーニングツールやギアの開発に至るまで自ら発案し、開発して行ったことはまさに画期的としか言いようがないし、ブルース・リーは、世が世なら間違いなくベンチャーを起業してITイノベーターになっていたであろうと思ってしまうほど、常に斬新なアイディアの持ち主であったと言える。だからこそ、ブルース・リーはいつの時代にも人々を惹きつけて止まないのである。
ちなみに僕の仕事におけるモットーは、① Speed(スピード)、② Execution(実行)、③ Innovation(イノベーション)という３つの言葉。特にIT業界では不可欠な要素ばかりだが、ブルース・リーはこの全てを体現していた存在であり、IT業界にも通ずるものがあると強く感じることが多いので、常に指針にしている。やっぱり僕にとってブルース・リーは永遠に魂の師匠であり、最も尊敬する存在であり続けるのだ。そして、ささやかだが、そんなブルース・リーの思いが込められたオープンフィンガーグローブは僕にとっても特別なグッズである。
