僕は1983年から1987年までの5年間、アメリカのニューヨークで過ごした。とても楽しいハイスクール時代を過ごしたが、この時期は世界でも音楽市場が大いに盛り上がった時代で、日本では松田聖子、中森明菜のアイドル全盛時代、そして欧米では今振り返っても最高に華のあった、80’sポップが台頭した黄金時代。あのマイケル・ジャクソン、マドンナ、プリンス、デュラン・デュラン、カルチャークラブ、U2、シンディー・ローパー、Police等々、挙げ出すとキリがないくらいの大物がこの時代にヒットし、レジェンドとなっていった。
そんな黄金時代にアメリカにどっぷり身を置いていた僕にとって、今振り返っても楽しい時代であったし、今聴いても名曲の数々に囲まれて青春時代を過ごしていたことを思い知らされる。今のようにスマホですぐに検索したり、デジタルでダウンロードして曲を聴ける時代ではなく、毎週日曜日にFMでやっていた人気ヒットチャートラジオ番組、『American Top 40』というのがあって、毎週Billboard誌のランキングをラジオで全40曲、約4時間にかけて日曜日ケイシー・ケイサムという人気MCが担当していたこのカウントダウン番組を、全米で多くのリスナーが熱心に聴きながら、毎週ヒットチャートに一喜一憂していたものである。そして、お小遣いも限られていた高校生当時、1枚20ドルくらいするレコードをそんなにポンポン毎週買えるわけもなく、購入するレコードはかなり吟味して購入していた時代だ。でも逆にそれだけ購入する1枚のレコードに対する思い入れは強かった。今はモノに溢れていてサブスクとかもあって色々と聴くのは便利だが、でも当時は本当の意味で凄くありがたみがあって、なんにでも心を込めてかみしめていた良き時代だったと思う。
さて、前置きが長くなってしまったが(笑)、そんな輝かしい80’sの中で、とても印象に残っているバラード2曲を今回思い出の曲として取り上げてみたい。それはMr. Misterというバンドの1位になったヒットバラード、『Kyrie』。そして、Starshipというバンドの、これまた1位を記録したヒットバラード、『Sara』。どちらも1985年にリリースされた曲で大ヒットした。
Mr. Misterは1985年に『Welcome to the Real World』というアルバムをリリース。それまで無名だったが、最初のシングル、『Broken Wings』が1位に輝き、突然人気バンドの仲間入りをした。そして同じアルバムから2曲目のシングルカット曲が『Kyrie』だったが、こちらもまた1位に輝き、すっかり時のバンドと化していた。僕も当時、この『Kyrie』が好きでハマっていたのを思い出すし、確か毎週楽しみに見ていたTVドラマ、『Miami Vice』でも挿入歌として使われていたのが懐かしい。
Mr. Misterはこの2曲が1位になって、更にブレイクしていくかと思われていたが、続くアルバムは評判・売上ともに芳しくなく、ある意味1発屋ならぬ、“アルバム1枚屋”で終わってしまったバンドだ。しかし、一瞬でも1985年に輝きを放ったこのアルバムは傑作であったし、今聴いても色褪せない素晴らしさがある。
Starshipの方は、同じく1985年にアルバム『Knee Deep in the Hoopla』というアルバムをリリースし、ノリノリのファーストシングル『We Built this City』が大ヒット。ランキング1位に躍り出た。そしてこれまたMr. Misterと全く同じパターンなのだが、2曲目のシングルカット曲、『Sara』がこれまた1位に。シングル2曲連続1位という輝かしい成績まで、Mr. Misterと同じで話題になった。
『Sara』は本当に美しいバラードで、今聴いてもニューヨークのハイスクール時代に一瞬で戻れる曲だ。当時好きだった同級生の女の子を勝手にSaraという名前に置き換えながらこの曲を聴いていたものだが、淡い青春の1ページである。この曲以来、Saraというのは僕にとって美女の代名詞というようなイメージが永遠に刷り込まれてしまった(笑)。
さてこのStarshipというバンドだが、Mr. Misterに比べたら“アルバム1枚屋”にはならなかった。元々前身はJefferson Starshipというバンドとしてある程度人気と知名度もあったし、この1987年にも『Nothing’s Gonna Stop Us Now』という曲が映画『マネキン』の主題歌となって1位を記録し、大ヒットしたのが懐かしい。
この1985年に競い合い、共に2曲連続1位を飾ったMr. MisterとStarshipは今思い返すととても記録にも記憶にも残るバンドであったし、『Kyrie』と『Sara』は僕にとっても思い出のバラードとなった。今聴いても、時代を超えて変わらず心に染みるのである。