僕の一番好きな夏のインスト・フュージョンアルバムである、角松敏生の『Sea is a Lady』についてはこれまでにも何度か取り上げてきているが、実はもう1枚、角松敏生はフルインスト夏アルバムを1990年にリリースしている。それが今回ご紹介する『Legacy of You』である。『Sea is a Lady』の成功により、その3年後の1990年にリリースされたこのアルバムだが、発売当時に僕もCDで購入し、34年間(!)も大切に保管している。でもそのサウンドはとても34年前とは思えないほど、エイジレスな魅力が宿っている。
実は、このアルバムの存在を長らく忘れてしまっていた。どうしても毎年『Sea is a Lady』ばかり聴いてしまっていたのだが、久々に『Legacy of You』をZ3の車内でむしょうに聴きたくなり、またCDを引っ張り出してきたのである。9月に入り本来夏も終わりの筈だが、今年は残暑で厳しく、もう暫く夏らしい日が続きそうなので、今年の夏を締めくくるべくまだまだフュージョンが聴きたい気分である。
やっぱり角松敏生のインストアルバムは素晴らしい~。何とも爽やかで心地良いギターサウンドに乗ってアルバムを聴いていると、大学生であったあの頃の夏を思い出してしまう。どちらかと言えば『Sea is a Lady』の方が全体としての完成度は高いと思うのだが、この『Legacy of You』もなかなか素晴らしいサマー・フュージョンアルバムとなっている。
収録されているのは下記11曲。全曲作詞・作曲角松敏生であり、『Sea is a Lady』同様、各曲のサブタイトルに女性の名前が付いており、これまた時代を感じさせる女性の名前だ(笑)。夏の思い出となる音楽にはどうしても女性の残像は不可欠だが、実話か妄想はさておき、女性の名前をタイトルに付けてしまうこの角松敏生のエロさが、他のフュージョンアルバムと一線を画している大きな要因かもしれない。しかも、今回は明確に“森高千里”をテーマにした“Stress by ストレス”という曲も収録されており、恐らく森高の名曲“ストレス“を聴いて妄想がムラムラと膨らんだことが容易に想像できる(笑)。自分の夏の思い出やら、惚れてしまった女性やらを曲のタイトルにして1枚のアルバムにしてしまうなんて、何とも羨ましい限りだが、角松敏生の場合1度では飽き足らず、2度もそんなことをやってしまっているのだから凄い。
- Premonition of Summer (KIYOMI)〜Suma (MIDORI)
- 飛翔 (SAYURI)
- At Canal St Club (MISAKO)
- 流氷 (YURIKO)
- Mystical Night Love (CHISATO'S Dream)
- Tsugaru (KEIKO)
- Stress by ストレス (CHISATO M.)
- Twilight River (YUKARI)
- Daylight of Alamoana (YUKO)
- NH-CA's Struttin (Crossing at Airport) (SANAE)
- Parasail (at Ramada Beach) (REIKO)
個人的には、1曲目の『Premonition of Summer(KIYOMI)~Suma(MIDORI)』と、2曲目の『飛翔(SAYURI)』が好きで、4曲目の『流氷(YURIKO)』はちょっと『Sea is a Lady』の曲を思い起こさせるサウンドなのが嬉しい。三味線が登場する『Tsugaru (KEIKO)』もなかなかユニークな曲だ。泣きのギターが秀逸なバラードの『Mystical Night Love(CHISATO’s Dream)』も夏の夜を思わせる見事な曲だ。『NH-CA’s Struttin (Crossing at Airport)(SANAE)』はタイトル通り恐らく全日空のCAをイメージしたか、実際に会ったCAとの思い出を曲にしたのだと思うが、夏らしいポップなサウンドがとても心地いい。ハワイ路線のCAだったのだろうかと色々と考えてしまう(笑)。
あ
『Legacy of You』は、『Sea is a Lady』と比べ、1曲の時間がやや長めで、またタイプの違う様々な曲をてんこ盛りにした感じもあり、恐らく制作にかなり凝ったことが想像できる。全体的に長い分、ジャズ的に1曲1曲を長く味わえるような楽しみは逆にあるのだが、一方でアルバム全体としてはちょっと間延びしてしまう感じもあり、やっぱり『Sea is a Lady』の引き締まった、無駄の無いクオリティ/完成度には及ばない。それでも、個々の曲としては角松敏生らしい、良いインスト曲が揃っていると思う。僕は角松敏生のボーカルアルバムはあまり好きでは無いのだが、ことインストアルバムに関してだけは“大好物”である。
1990年当時の夏は今ほど気温が高くなかったし、若い頃は夏と言えば車で海に良く出かけて焼くというのが定番であった。そんな夏の青春を思い出させてくれるのが、まさに『Sea is a Lady』であり、この『Legacy of You』なのである。今回久々に『Legacy of You』を聴いたのでかなり新鮮な気持ちで楽しめたが、9月いっぱい、もう暫くは残暑の中でこのアルバムも堪能することにしよう。
尚、最近すっかりまたフュージョンにまたハマっているので、昔良く聴いていたThe Squareや高中正義などについても次回以降少し取り上げてみたい。