先日、有明アリーナで開催された感動的なイベント、“Jeff Beck Tribute”に参加したばかりというのもあり、自分の中ではJeff Beckがちょっとしたマイブームとなっている。過去のJeff Beckアルバムを聴き直して楽しんでいるが、そんな中で特に最近ハマっているのが、『Jeff Beck’s Guitar Shop(邦題: ギターショップ)』というアルバムだ。
このアルバムは1989年にリリースされたアルバムで、実際初めて聴いたのはかなり後になってからだった。当時リアルタイムで楽しむことが出来なかったのが今更ながら悔やまれる。ジェフ・ベックは1985年に『Flash』というアルバムをリリースし、このアルバムは80’s POPにどっぷりハマっていた当時リアルタイムに聴いたので、とても印象に残っているが、基本的にはボーカルアルバムで、インスト曲としては2曲しか収録されていなかった。それでもロッド・スチュワートのボーカルによる『People Get Ready』が大ヒットし、また如何にもヤン・ハマーなインスト曲『Escape』もヒットしたので、商業的にはかなり成功したアルバムではあったが、個人的にはそんなに好きになれなかった。また、ジェフ本人はあまりこのアルバムに満足していなかったらしいというのも有名な話である。
そんなモヤモヤを一気に吹き飛ばしたのが、3年後にリリースされたこの『Jeff Beck’s Guitar Shop』である。嬉しいのは全曲インスト曲だということで、70年代のジェフ・ベックアルバムの中でもギターインストの名盤となっている『Blow by Blow』や『Wired』を彷彿とさせながらも、1980年代らしい新たなロックサウンドを取り込んだアルバムとなっている点が大きな特徴。今改めて聴いても斬新さがあり、粋のいい元気なロックアルバムという印象が強い。
まず『ギターショップ』というアルバムタイトルにやられてしまう。しかし、ここでいうギターショップというのは、“ギターの店”ではない。英語では例えば、”My car is in the shop”と言えば、shopは”お店”を意味するのではなく”修理工場”という意味で、”現在車を修理・点検に出している”、という意味になる。なので、ここで言う”Guitar Shop”というのはまさにギターの整備工場であり、その様子が描かれたアルバムジャケットのアートワークがかなり秀逸な出来映えだ。
収録されているのは下記全9曲。何とも粒ぞろいの9曲である。
- Guitar Shop
- Savoy
- Behind the Veil
- Big Block
- Where Were You
- Stand On It
- Day In The House
- Two Rivers
- Sling Shot
どの曲も実に素晴らしいのだが、各曲に対する個人的な寸評を書いてみたい。
- 『Guitar Shop』: 重く響くドラムと、ジェフの自由で多彩なギター演奏テクが冴えわたるオープニングタイトル曲。ちょっと実験的なサウンドで面白い。
- 『Savoy』: 王道なロックらしいリフで始まり、途中でどこか古いbluesテイストのギターサウンドが展開。しかし、また後半は布袋寅泰のようなエッジの効いたロックギターサウンドで畳みかける。
- 『Behind The Veil』: リズム的にはカリブ海を思わせるようなミディアムテンポの曲で、どこかフュージョンテイストの曲という気がするが、そこに多彩で繊細なギターと、時にダイナミックなドラムの組み合わせが見事。
- 『Big Block』: 低音ギターとクールなドラムでいきなりオープニングからカッコいいロック全開サウンド。中盤から音の厚みが出て、ギターも実にカラフル。特に好きなのは後半に鳴り響く滑らかなギターのリフ。これがちょっとエディ・ヴァン・ヘイレンを思い起こさせる感じもあり、何とも心地良い。
- 『Where Were You』: 感動的な傑作バラードで、このアルバムで一番心地良いギターサウンドが堪能できる。高音のギター演奏がまるで“テルミン”みたいに反響しながら、美しく天に昇っていく。
- 『Stand On It』: ジェフのギターサウンドという意味では一番このアルバムで好きな曲だ。曲風で言えば、かなり布袋寅泰ライクで、”Guitarythm”シリーズのオープニング曲のようでもあって、とても耳馴染みがいい。
- 『Day In The House』: 社会風刺的なセリフがフィーチャーされた曲で、ちょっとPaul Hardcastleの『19』を思い出させてくれるようで面白い。迫力満載のドラムも最高だ。
- 『Two Rivers』:『Where Were You』と並んで、このアルバムで最高に美しいメロディのバラード。純粋に曲として素晴らしいし、どこか遠い記憶を呼び覚ましてくれるような響き。そこに感動的なギターがかぶさって独特な世界観を作り上げている。これはぜひ松本孝弘に弾いて欲しいギターサウンドである。
- 『Sling Shot』:ラストを締めくくるこの曲は、アルバムで一番テンポの速いロックナンバーで、切れ味の良いカッティングギターがちょっと布袋的なサウンド。ウネウネしながら、これでもかと終盤畳みかけるジェフのギターリフが何ともカッコいい名曲だ。
アルバムは総じてジェフの見事で多彩・繊細なギター演奏が際立っており、どうしてもギターに聴き惚れてしまうが、意外に印象深いのがドラム。どうもテリー・ボジオという人が叩いているらしいのだが、彼に関する知識があまりないものの、表現力のあるドラムサウンドが素晴らしく、アルバムに大きな爪痕を残していると感じた。
それにしても、このアルバムは聴けば聴くほど、どんどんジェフの沼にハマってしまう不思議なアルバムだ。同じインストアルバムでも『Blow By Blow』や『Wired』とはかなり印象が異なり、古さは全く感じない。サウンドも実験的ながらロックしていて、新しい世界観の確立に成功している作品だが、今を思えば相当時代を先取りしたサウンドだったことを思い知らされる。そしてジェフ・ベックのファンの中では、このアルバムを一番推しているという人も少なくない。ギタリストとしての輝かしいキャリアにおける、中後期に差し掛かりつつあった時期に放った会心のアルバムであったことは間違いないし、僕が個人的に最も好きな1枚であることは間違いない。インスト好きの僕としては、やっぱり、ジェフ・ベックのインストアルバムが最高である。