おとがたり、朗読とヴァイオリン で講演させて頂きました。
人情話で、山本周五郎の「妹の縁談」です。
休憩を入れて70分位に編集したものです。
作品ごとの語り口が、前の週の永井荷風とはガラリと違います。
そんなあたりを語り手は興味深く、またどこか楽しんでいるのですが…まあ、難しい、といって仕舞えばどれも簡単ではないわけで… なので楽しもうという趣向なのです(笑)
周五郎といえば、横浜夢座に出演させて頂いたことがあります。
「山本周五郎の妻」という作品で、主演の五大路子さんは、周五郎の妻を演じられました。
此のお芝居で、とても印象的なシーンがあります。小高い山の上に周五郎の執筆部屋があり、その妻”きん”は毎日急な坂の階段を、岡持を持って上がり下りして、周五郎へ食事を届けるのです。
できることでは…ないですよね。重いですよ〜…岡持ち。
愛情の深さがはかられるのですが、五大さん演じる”きん” は大らかに明るくて本当に素敵でした。…私は有り難くも、妹役をやらせて頂きました。
だから…周五郎作品を読むときは、その妻 ”きん” の岡持ちを思い出してしまうのです。舞台の終盤、周五郎と周五郎作品を支え続けた "きん” の長台詞が、五大さんによって横浜の舞台、丸の内の舞台でとうとうと詠われました。そのお声はなんとも美しく、海のようにゆったりと空間に広がってゆきました。忘れられない場面です。
船橋きららホールは、何度か出演させて頂いています。
舞台に立てる時はいつも、ああ、ここに帰ってこられた、と心のどこかでホッとします。
コロナでとんと久しぶりに舞台から遠ざかっていましたので、今月は嬉しかったです。
永遠や、絶対に、ということはないのでしょうけれど、やはりここに帰ってきたいものです。
舞台周りを歩いたりするだけでも嬉しく思います。
心やわらかく、これからのことを考えながら
自分のペースで歩いてゆこう、なんて思う今日この頃です。
時代も状況も人の心も、どんどん変わってゆく。
とっくに取り残されていますが(笑)
此の足で、なんとか歩いています。
ー演目メモー
山本周五郎 の世界『 妹の縁談 』~ おたふく物語三部作 より~
周五郎の妻、きん姉妹がモデルになっている作品です。互いに支え合う健気な姉妹、おしず と おたか。腕の良い彫金師。江戸の下町に暮らす庶民を描いた、山本周五郎の愛と人情物語。 生き生きとした生活感に溢れる世話物語です。
< あらすじ >
おしずは、自分の三味線の師匠の妻であり、華を教える師匠である絹女から縁談を勧められた。しかしそれはおしずに対してではなく、妹のおたかへのものだった。おしずとおたかはたまにしか家に寄りつかない兄二人に代わって、両親を養っていた。美しいと評判の姉妹ながら、未だに嫁に行かない二人。姉妹がこれまで結婚をしなかった理由はもう一つあり、それは一家の不安の種ではあった。だが、それはそれで解決できない訳ではない。しかし、その夜おしずはこう話し出したのだ。「あたし今日失敗しちゃった」……
< 山本周五郎 >(やまもと・しゅうごろう)
1903~67年。小説家。山梨の生まれ。20代前半に作家活動を始め、39歳の時『日本婦道記』が直木賞に推されたが受賞辞退。その後も多くの賞を固辞する。江戸の庶民を描いた人情ものから歴史長編まで作品は数多い。代表作には「樅ノ木は残った」「赤ひげ診療譚」「青べか物語」「さぶ」などがある。