中原中也はどんな人かというと、
とてもきれいな詩を書いた人。
たとえば、
湖上
中原中也
ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう。
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。
沖に出たらば暗いでせう、
櫂(かい)から滴垂(したた)る水の音は
昵懇(ちか)しいものに聞こえませう、
――あなたの言葉の杜切(とぎ)れ間を。
月は聴き耳立てるでせう、
すこしは降りても来るでせう、
われら接唇(くちづけ)する時に
月は頭上にあるでせう。
あなたはなほも、語るでせう、
よしないことや拗言(すねごと)や、
洩らさず私は聴くでせう、
――けれど漕ぐ手はやめないで。
ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう、
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。
こんなロマンチックな詩が書けるのに、
いつも酔っぱらって、ケンカばかりしていたようだ。
そして、こんな詩を書いた。
宿酔 〈ふつかよい〉
中原中也
朝、鈍い日が照ってて
風がある
千の天使が
バスケットボールする。
私は目をつむる
むなしい酔ひだ。
もう不用になったストーヴが
白つぼく銹〈さ〉びてゐる。
朝、鈍い日が照つてて
風がある。
千の天使が
バスケットボールする。
二日酔いの頭痛の中でも、
「千の天使のバスケット」とは、
美しい優雅な光景が広がっていたようだ。
とはいえ、ちょっと、数が多すぎる。