「ねえ、ロバート。いま何時?」
「あっ、目が覚めた?ジュリア。
8時をちょっと回ったくらいだよ」
「あら、いやだわ、わたし、少しの間
目を閉じていただけと思っていたのに。
2時間も寝ちゃったわけね。ごめんなさい」
「ううん。気にしないで。
ぼくはジュリアの寝顔をずっと見ていたよ」
「恥ずかしい。わたし、ヘンじゃなかった?」
「ヘンって?」
「鼾をかいていたり寝言を言ったりとか」
「う〜ん、蒸気機関車が坂を登るような寝息だった。
"もうすぐ鉄橋よ!"って5分おきくらいに
繰り返していたよ(笑)」
「やっぱり?わたしねぇ、
夢の中でロバートを貨車に乗せていたのよ。
大学の入試試験会場に送り届けるために。
遅刻しちゃ大変と思って必死だったんだから(笑)!」
「ワハハ!ジュリアは運転士だったんだ。
で、ぼくは間に合った?」
「ええ、鉄橋まで順調だったわよ。フフッ!
ねぇ、ロバート。わたし、ホントに
蒸気機関車みたいだった?」
「冗談だよ。すっごく気持ちよさそうに寝てた」
「よかった。安心したわ。それはなに?」
「あっ、これ?な、な、なんでもないよ。
ただのメモ書きだよ。
クランクシャフトとコンロッドの
関係性についての個人的な覚え書き」
「クランクシャフト?なにそれ!怪しいわね。
ちょっと見せて?あっ、なんで隠すのよ!」
「だからなんでもないって!」
「それじゃ見ないから読んでみて?」
「ん〜、わかったよ。笑わない?」
「ええ」
「ぜったい?」
「さぁ!」
灼けつくような
激しい太陽の季節
夏はまだ終わっていない
そう思っていても
次第に陽が西に傾くと
ほら、聞こえる?
遠くでヒグラシの声
ゆく夏を惜しんでいるのか
くる秋を呼び寄せているのか
もの悲しさを薄暮の風に溶かして
火照った身体を通り抜けてゆく
きみはぼくの隣で微睡の中
静かな寝息を立てている
窓をそっと開けて見上げれば
雲間からのぞく満ちた月
ぼくもあの月のように
きみを柔らかく包み照らしたい
静かで心安らぐ幸せな時間
もう少しこのまま、ずっとこのまま
「・・・おわり。どうしたの?ジュリア・・・」
「・・・どうしたんだろう、わたし。
ぼーっとしちゃったわ。ねぇ、ロバート。
もう一回読んでみて?お願い」
「ジュリア、これでもう15回目だよ。
ただ思ったことを走り書きしただけなのに。
そんなに気に入ってくれたの?」
「ええ。何度聞いても飽きないわ。
ずっとこのまま、って永遠てことよね?」
「そうだよ。あっ、いいこと思いついた。
さっき満月が見えたんだ。
ベランダに出てふたりで眺めてみない?」
「それ、いいわね。冴えてるわロバート。
それじゃお月さまが丘の向こうに沈んじゃったら
クランクシャフトの新しいメモを書いてね?」
「わ~お!」
※しばらく更新をお休みします。