本日記載附録(ブログ)
ロシアがウクライナに侵攻した背景とその行方を広厚に理解すべく、旧ソ連諸国紛争や「未承認国家」「ハイブリッド戦争」の著作
日本の政治学者=国際政治・比較政治学・コーカサス地域が研究テーマ
=黒海地域の国際関係・政治経済変動などが主な業績=
研究課題“ロシアのハイブリッド戦争とその影響”/‘14年12月以降 継続中
【この企画はWebナショジオ】を基調に編纂(文責 & イラスト・資料編纂=涯 如水)
廣瀬陽子(11/nx)
◇◆ 第4回 米ロ双方が支援する未承認国家「ナゴルノ・カラバフ」の理由 =2/2= ◆◇
他にも、カナダ、フランスなどで、アルメニア人ディアスポラのロビー活動がきわめて強力だという。そして、このような国外の同胞がいるがゆえに、アルメニア人の未承認国家である「ナゴルノ・カラバフ共和国」の支援国として、アルメニア本国とロシアだけでなく、アメリカやフランスも挙げられることになるのである。
もっとも、ロシアにとっては、前回見たとおり、未承認国家は勢力圏の維持のためのツールであり、「ナゴルノ・カラバフ共和国」も全時期というわけではないが、その例にもれないと言える。
まず、ソ連解体後の第二期目の政権が、大きく親欧米・反ロとなっていた(つまり、ロシアとしては勢力圏に留めたい)アゼルバイジャンに対しては、ロシアは、1994年に停戦へと導いた見返りとして、旧ソ連諸国で作る独立国家共同体(CIS)やCIS集団安全条約機構に加盟させ(後者は、後に脱退)、アゼルバイジャンの石油をめぐる国際交渉を仕切り直させることもできた(ただし、アゼルバイジャンは2000年代半ば以降、オイルマネーで経済成長し、欧米・ロシアの間で絶妙なバランス外交を展開するようになった)。
また、紛争のもう一方の当事者国であるアルメニアに対しても、「ロシアが支援したからこそナゴルノ・カラバフ紛争に勝てた」という事実をもって、従属的な立場に置くことができた。
これらだけでも利得といえるが、ロシアによる「未承認国家」の利用は、もう一段、深いところにある。紛争の焦点だった「ナゴルノ・カラバフ共和国」に対して直接的な影響力を持つことができれば、「未承認国家」はさらに使い勝手のよいものになるからだ。
「他の旧ソ連の未承認国家と異なって、『ナゴルノ・カラバフ共和国』を支えるものとして、アルメニア本国に加えてアルメニア人ディアスポラの存在が大きかったので、ロシアは長年、この『国』に直接的な影響力を及ぼせなかったんです。それが変わったのが、2020年の第二次ナゴルノ・カラバフ戦争です。アゼルバイジャンが全ての緩衝地帯と、ナゴルノ・カラバフ地域の約4割を奪還しました。そして、『共和国』に残った残りの約6割程度の領域の平和維持をロシア軍が担当するようになりました。これによって、『ナゴルノ・カラバフ共和国』に対する影響力も確保できるようになりました。これが意味するのは、本来は外国軍の駐留を認めていない主権国家・アゼルバイジャン領の一部であるナゴルノ・カラバフ地域に、平和維持の名目でロシア軍を駐留させて影響力を行使できる、ということです」
未承認国家に自軍を駐留させるということは、同時に、主権国家の領土の中に自軍を置くことでもある。未承認国家の両面性を使って、影響力を行使したい国の内政に揺さぶりをかけることができる。国際的に正当性を持たない未承認の存在を利用した旧ソ連諸国への影響力確保というのが、廣瀬さんが解明した、ロシアによる未承認国家の利用の骨子だった。
もっとも、「ナゴルノ・カラバフ共和国」を梃子にした、アゼルバイジャンへの揺さぶりについては、必ずしも理論通りにうまくいったわけではないようだ。特に2022年2月以降、この図式が揺らいでいるという。
「2020年の第二次ナゴルノ・カラバフ戦争の停戦後、アゼルバイジャンは、領土をかなり奪還したにもかかわらず、『国内』にロシア軍を置かれていました。理論的には、ロシアは、アゼルバイジャンに揺さぶりをかけられるはずでしたが、それでも、アゼルバイジャンはロシアに従属的な姿勢にはなったとは言えず、さらにロシアのウクライナ侵攻で、ロシア軍の弱さが露呈してからは、アゼルバイジャンおよび多くの国々がロシアを明らかに軽侮するようになったんです。アゼルバイジャンは2022年3月、そして8月に度々ナゴルノ・カラバフに攻撃を仕掛け、紛争を煽っています」
次回は“第5回 NATOとロシアの対立を深めたコソボという「パンドラの箱」”に続く・・・・・
【参考資料】 : 座談会:ウクライナ侵攻後 世界はどう変わるのか(4/4)
Ω・Ω・Ω 大串 敦/ 細谷 雄一/ 森 聡/ 神保 謙/ 加茂 具樹 Ω・Ω・Ω
現行秩序へのチャレンジ
加茂 この戦争をどのように見るのかという大きな視点でお話をいただきました。次に森さんお願いします。
森 私もひとまず大きめの視点から2点ほど述べたいと思います。1つ目は秩序の話で、2つ目は戦略の話になります。
秩序に関する問題は、まさに今、細谷さんがおっしゃったこととも重なるのですが、現行の国際秩序という意味での「現状」を、力で一方的に変更しようとする大国が出現した時に、それにどう対応できるのかという問題を非常に先鋭化させたのが、このウクライナの問題なのではないかと思います。
国際秩序という観点からみたロシアによるウクライナ侵略の意味は、国連憲章2条4項という戦後国際秩序の根本原則の違反が1つと、ウクライナにおける非武装の民間人に対する残虐行為や大量殺害という国際人道法の重大な違反。この2つが秩序へのチャレンジとしてみなされるのだと思います。
これらの現行秩序を下支えする根本原則が侵されていることを受けて、ロシアに対する非難決議は141カ国が賛成しました。しかし、国際法違反に対して制裁を科す国は40カ国あまりに限定されている。したがって国際秩序が破られた時に、違反国に対してコストを負ってルールを執行する国は、世界の諸国家の約5分の1というのが現実です。このように限られた自由主義的な民主主義国家によって秩序が担われているという実情が明らかになりました。
こうした状況で、核兵器を保有するロシアが、制裁を科されながらも、非人道的な武力行使による領土的現状の変更を既成事実化することに成功していくのかどうか。この顚末次第で、世界の国々の安全保障環境、そして国際政治のダイナミクスが変わっていく可能性があります。
2つ目は、中ロと近接する国々は、アメリカとの同盟関係がないと自らの独立や平和を維持するコストが極めて高いということが鮮明になりました。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟申請の動きにも表れているように、かなり不安が高まっている。台湾でも中国に対する警戒心がこれまで以上に高まっているようです。
覇権国の下で従属関係に入っていくのか、あるいはアメリカとその同盟国から支援を受けながら、独立を守るために多大な犠牲を払ってでも戦うかという、極端な選択肢に直面する中小諸国に対し、アメリカがすべて「抑止」できるというわけではない。それら脆弱な中小国に対して、自由で開かれたルールに基づく秩序を標榜し、その中に平和と繁栄を見出す国々が、一体どのような戦略的な選択肢を提供できるのかが問われています。
次回は“「自分の長年の研究は何だったのか」廣瀬陽子教授はウクライナ侵攻を予測できず悔やんだ。それでも研究を続ける理由とは?
・・・・・・・・明日に続く・・・・・
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https://youtu.be/brRl5MyhP3Y == ロシアによる軍事行動の歴史と各国の思惑をわかりやすく解説 ==
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