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父に手を引かれて玄関のドアをくぐると、少女が駆け寄って父に飛びついた。
年の頃は14、5歳といった感じで、XANXUSより頭ひとつ背が高く、すらりと伸びた手足と少し吊り上った目が印象的な少女だった。
「おじ様、遅かったじゃない。私も兄さんもずいぶん待ってたわ。」
「やあ、待たせてすまなかったね、フェンネッラ。
紹介しよう、この子がワシの息子のXANXUSだよ。
XANXUS、この子は従姉のフェンネッラだよ。挨拶しなさい。」
「へぇ、あなたがおじ様の。よろしくXANXUS、あなたの従姉のフェンネッラよ。
私の母は、おじ様の妹なの。」
「・・・XANXUSだ。よろしく。」
陽気な笑顔と機関銃のようにまくし立てる喋り方に、少し引きながら、XANXUSは、父の後ろに隠れるようにボソリと挨拶をした。
「あら、恥ずかしがり屋さんなのね。大丈夫とって食ったりやしないわ。
ねぇ、私毎年夏はこの別荘に来るのよ、屋敷を案内してあげるわ。
ついでに兄さん達にも紹介してあげる。
ね、いいでしょおじ様?」
小首をかしげた可愛いしぐさで強請れば、なんでも手に入る。
少女の目はそう語っているようにXANXUSには思えた。
「ああ、いいだろう。XANXUSいっておいで。」
「え、でも僕は父さんと・・・。」
言いかけたXANXUSを無視して、有無を言わせぬ勢いで右手を捉むとフェンネッラはXANXUSを屋敷の奥へと連れ去ってしまう。
「子供というのは、打ち解けるのが早いものだな。」
なかなか自分には打ち解けてくれないXANXUSを慮って、9代目はため息と供に呟いた。
XANXUSはフェンネッラに連れられて、玄関ホールを抜け広い客間へ案内された。
「ここが客間よ、あそこにあるのは8代目のボスの肖像画。私達のお婆様ね。」
フェンネッラの言葉に興味を引かれ、祖母だという肖像画を見上げた。
凛とした表情の初老の女性が描かれていたが、やはり女性ながらにマフィアのボスを張っただけのことはある、女性ながらに武器を構え挑むような目つきでこちらを見据えていた。
「お婆様、なかなか美人でしょう?私、よくお婆様に似てるって言われるのよ。」
うっとりと肖像画を見つめながら、呟く少女は、なるほど吊り上った目元だけは肖像画の人物に似ていなくも無かった。
「さ、次ぎに行くわよ。このお屋敷沢山部屋があるの。あなたの泊まる部屋にも案内してあげるからね。」
有無を言わさず次々と部屋を連れまわされ、ようやくリビングの入り口へ案内された。
ドアの隙間から二人で中を覗けば、そこには数名の青年と父がいた。
フェンネッラは、急に声を潜めてドアの陰に隠れるように中を伺いながら
「ここがリビングよXANXUS。
いま、ソファに座っておじ様とお話しているのが私の兄さま。
名前はフェデリコっていうの。
ね、カッコいいでしょ、自慢の兄なの。
それから、窓辺で話している二人の右側が従兄のマッシーモよ。
若いくせにもう中年太りしてかっこ悪いったら。
私あいつ嫌いなの。
もう一人の方は、エンリコ。私たち従兄弟の中じゃ一番年上ね。
エンリコもマッシーモもおじ様のお姉さん達、私達から見ればおば様ね。の息子達よ。
上のお姉さんの息子がエンリコで下のお姉さんの息子がマッシーモよ。」
「なぁ、なんでこんなとこで隠れていなきゃならないんだ?」
「さっき言ったでしょ、私マッシーモが嫌いなの。」
「だから?」
「そう、話したくないのよ。あいつったら、私のこと見るとすぐちょっかい出してくるんですもの。」
「ふぅん。でも俺、関係ないから。」
XANXUSはそう言うと、ドアを開けてリビングに入っていった。
全員の目がXANXUSに集まる。
「ほぅ、これが我らの新しい従弟殿か。」
とマッシーモが嫌味っぽく言ったのを皮切りに、従兄弟たちに取り囲まれた。
みな一様に背が高く、全員父より大きいように見えた。
見上げるXANXUSの目線にあわせるようにしゃがんで自己紹介をはじめたのは意外にも一番年上のエンリコだった。
「やぁ、XANXUS。俺はエンリコだ。君の事は叔父上から聞いているよ。もう死ぬ気の炎が出せるんだってな。」
そう言いながら頭をガシガシと撫でられたので、鬱陶しくて思わずその手を払って睨みつける。
「おお、悪かったな。頭は嫌だったか?」
「餓鬼扱いするな。」
「餓鬼の癖に偉そうだな。マフィアのボスになるにはそれ位じゃなくちゃイケネェ。」
そう言いながらエンリコは豪快に笑った。
「俺はマッシーモだ。よろしくなXANXUS。」
「俺はフェデリコだ、XANXUSお前フェンネッラと一緒じゃなかったのか?」
「さっきまで一緒だった。この部屋には入りたくないって。」
「やれやれ、またフェンネッラの気まぐれが始まったか。」
「まあいいじゃないか、好きにさせるさ。」
立ち上がりつつエンリコが言い、従兄達はXANXUSから離れそれぞれの場所へ戻った。
立ち尽くしていると、父に呼ばれた。
「XANXUS、こっちへおいで。」
素直に従って父の座るソファの横に腰掛けて見上げる。
「屋敷の探検は面白かったかい?」
「うん、お婆様の肖像画があった。」
「ああ、客間のだね。アレは母のお気に入りの肖像画だ。」
「あの肖像画から夜中に8代目が抜け出して、屋敷をうろつきまわるんだぜ。夜一人でトイレに行くときは気をつけな。」
マッシーモが話に割り込んできた。
「これこれマッシーモ、いい加減なことを言うもんじゃないよ。」
「でも叔父貴、ここの屋敷守が見たって話だから本当かもしれない。」
フェデリコが眉を顰めながら話に加わった。
「おいおい、その屋敷守ってパメラ婆さんのことか?
だったら、夜中に寝ぼけて何かを見間違ったのが関の山だろうぜ。」
エンリコも話に加わった。
「目撃したのはパメラ婆さんだけじゃない。最近入ったメイドもそんな話をしていたし、近所の漁村じゃここはお化け屋敷ってことになってるらしいぜ。」
「お化け屋敷結構。一般人が立ち寄らなくて丁度いいじゃないか。」
「しかし、あんな死に方をしたら思い残すことも沢山あったと思うぜ。」
「おい、マッシーモ。その話は・・・。」
「あ、すいません。叔父貴。」
「いや、良いんだよ。しかし、とんだ噂が立ったものだな。
近いうちにことの真意を確かめさせた方が良いかも知れんな。
どうしたXANXUS、顔色が優れんようだが。」
対人間に対しては態度がデカイが、XANXUSはオカルト系の話がめっぽう苦手だった。
「な、なんでもありません。父様。」
「そうかい?」
「何だやっぱ餓鬼だな。幽霊が怖いか?」
意地悪くマッシーモが混ぜっ返したので、XANXUSは頬を高潮させて立ち上がり、
「そ、そんなことあるかっ!」
と叫ぶとリビングを飛び出した。
もうこれ以上怖い話を聞かされるのは嫌だった。
リビングを飛び出すと、廊下を走り庭に出た。
広い庭には、夏を彩る花々が咲き乱れ、小さな噴水の周りには小鳥達が遊んでいた。
庭に面したテラスの一角では、老女がいすに座り豆を剥いていた。
年の頃は14、5歳といった感じで、XANXUSより頭ひとつ背が高く、すらりと伸びた手足と少し吊り上った目が印象的な少女だった。
「おじ様、遅かったじゃない。私も兄さんもずいぶん待ってたわ。」
「やあ、待たせてすまなかったね、フェンネッラ。
紹介しよう、この子がワシの息子のXANXUSだよ。
XANXUS、この子は従姉のフェンネッラだよ。挨拶しなさい。」
「へぇ、あなたがおじ様の。よろしくXANXUS、あなたの従姉のフェンネッラよ。
私の母は、おじ様の妹なの。」
「・・・XANXUSだ。よろしく。」
陽気な笑顔と機関銃のようにまくし立てる喋り方に、少し引きながら、XANXUSは、父の後ろに隠れるようにボソリと挨拶をした。
「あら、恥ずかしがり屋さんなのね。大丈夫とって食ったりやしないわ。
ねぇ、私毎年夏はこの別荘に来るのよ、屋敷を案内してあげるわ。
ついでに兄さん達にも紹介してあげる。
ね、いいでしょおじ様?」
小首をかしげた可愛いしぐさで強請れば、なんでも手に入る。
少女の目はそう語っているようにXANXUSには思えた。
「ああ、いいだろう。XANXUSいっておいで。」
「え、でも僕は父さんと・・・。」
言いかけたXANXUSを無視して、有無を言わせぬ勢いで右手を捉むとフェンネッラはXANXUSを屋敷の奥へと連れ去ってしまう。
「子供というのは、打ち解けるのが早いものだな。」
なかなか自分には打ち解けてくれないXANXUSを慮って、9代目はため息と供に呟いた。
XANXUSはフェンネッラに連れられて、玄関ホールを抜け広い客間へ案内された。
「ここが客間よ、あそこにあるのは8代目のボスの肖像画。私達のお婆様ね。」
フェンネッラの言葉に興味を引かれ、祖母だという肖像画を見上げた。
凛とした表情の初老の女性が描かれていたが、やはり女性ながらにマフィアのボスを張っただけのことはある、女性ながらに武器を構え挑むような目つきでこちらを見据えていた。
「お婆様、なかなか美人でしょう?私、よくお婆様に似てるって言われるのよ。」
うっとりと肖像画を見つめながら、呟く少女は、なるほど吊り上った目元だけは肖像画の人物に似ていなくも無かった。
「さ、次ぎに行くわよ。このお屋敷沢山部屋があるの。あなたの泊まる部屋にも案内してあげるからね。」
有無を言わさず次々と部屋を連れまわされ、ようやくリビングの入り口へ案内された。
ドアの隙間から二人で中を覗けば、そこには数名の青年と父がいた。
フェンネッラは、急に声を潜めてドアの陰に隠れるように中を伺いながら
「ここがリビングよXANXUS。
いま、ソファに座っておじ様とお話しているのが私の兄さま。
名前はフェデリコっていうの。
ね、カッコいいでしょ、自慢の兄なの。
それから、窓辺で話している二人の右側が従兄のマッシーモよ。
若いくせにもう中年太りしてかっこ悪いったら。
私あいつ嫌いなの。
もう一人の方は、エンリコ。私たち従兄弟の中じゃ一番年上ね。
エンリコもマッシーモもおじ様のお姉さん達、私達から見ればおば様ね。の息子達よ。
上のお姉さんの息子がエンリコで下のお姉さんの息子がマッシーモよ。」
「なぁ、なんでこんなとこで隠れていなきゃならないんだ?」
「さっき言ったでしょ、私マッシーモが嫌いなの。」
「だから?」
「そう、話したくないのよ。あいつったら、私のこと見るとすぐちょっかい出してくるんですもの。」
「ふぅん。でも俺、関係ないから。」
XANXUSはそう言うと、ドアを開けてリビングに入っていった。
全員の目がXANXUSに集まる。
「ほぅ、これが我らの新しい従弟殿か。」
とマッシーモが嫌味っぽく言ったのを皮切りに、従兄弟たちに取り囲まれた。
みな一様に背が高く、全員父より大きいように見えた。
見上げるXANXUSの目線にあわせるようにしゃがんで自己紹介をはじめたのは意外にも一番年上のエンリコだった。
「やぁ、XANXUS。俺はエンリコだ。君の事は叔父上から聞いているよ。もう死ぬ気の炎が出せるんだってな。」
そう言いながら頭をガシガシと撫でられたので、鬱陶しくて思わずその手を払って睨みつける。
「おお、悪かったな。頭は嫌だったか?」
「餓鬼扱いするな。」
「餓鬼の癖に偉そうだな。マフィアのボスになるにはそれ位じゃなくちゃイケネェ。」
そう言いながらエンリコは豪快に笑った。
「俺はマッシーモだ。よろしくなXANXUS。」
「俺はフェデリコだ、XANXUSお前フェンネッラと一緒じゃなかったのか?」
「さっきまで一緒だった。この部屋には入りたくないって。」
「やれやれ、またフェンネッラの気まぐれが始まったか。」
「まあいいじゃないか、好きにさせるさ。」
立ち上がりつつエンリコが言い、従兄達はXANXUSから離れそれぞれの場所へ戻った。
立ち尽くしていると、父に呼ばれた。
「XANXUS、こっちへおいで。」
素直に従って父の座るソファの横に腰掛けて見上げる。
「屋敷の探検は面白かったかい?」
「うん、お婆様の肖像画があった。」
「ああ、客間のだね。アレは母のお気に入りの肖像画だ。」
「あの肖像画から夜中に8代目が抜け出して、屋敷をうろつきまわるんだぜ。夜一人でトイレに行くときは気をつけな。」
マッシーモが話に割り込んできた。
「これこれマッシーモ、いい加減なことを言うもんじゃないよ。」
「でも叔父貴、ここの屋敷守が見たって話だから本当かもしれない。」
フェデリコが眉を顰めながら話に加わった。
「おいおい、その屋敷守ってパメラ婆さんのことか?
だったら、夜中に寝ぼけて何かを見間違ったのが関の山だろうぜ。」
エンリコも話に加わった。
「目撃したのはパメラ婆さんだけじゃない。最近入ったメイドもそんな話をしていたし、近所の漁村じゃここはお化け屋敷ってことになってるらしいぜ。」
「お化け屋敷結構。一般人が立ち寄らなくて丁度いいじゃないか。」
「しかし、あんな死に方をしたら思い残すことも沢山あったと思うぜ。」
「おい、マッシーモ。その話は・・・。」
「あ、すいません。叔父貴。」
「いや、良いんだよ。しかし、とんだ噂が立ったものだな。
近いうちにことの真意を確かめさせた方が良いかも知れんな。
どうしたXANXUS、顔色が優れんようだが。」
対人間に対しては態度がデカイが、XANXUSはオカルト系の話がめっぽう苦手だった。
「な、なんでもありません。父様。」
「そうかい?」
「何だやっぱ餓鬼だな。幽霊が怖いか?」
意地悪くマッシーモが混ぜっ返したので、XANXUSは頬を高潮させて立ち上がり、
「そ、そんなことあるかっ!」
と叫ぶとリビングを飛び出した。
もうこれ以上怖い話を聞かされるのは嫌だった。
リビングを飛び出すと、廊下を走り庭に出た。
広い庭には、夏を彩る花々が咲き乱れ、小さな噴水の周りには小鳥達が遊んでいた。
庭に面したテラスの一角では、老女がいすに座り豆を剥いていた。
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