最近、改めてこの本を読んでみた。
前に書いた
の前に出ていた本。
この「家日和」の中で好きなのは『ここが青山』という短編。
ある日、突然会社が倒産してしまった主人公・湯村裕輔。
自分の中でも整理がつかないまま、妻・厚子に報告。
夕方になって帰宅すると、厚子が翌日から働きに出ることが決まったと言う。
このあたりの、ご都合主義的な展開は、この際問題ない。
大事なのはここからだから。
裕輔はなんとなく救われた気持ちになり、翌日の朝食の支度をすることにした。
最初の炊事は散々なものだった。
味噌汁は美味しくなく、アジの干物は焼き過ぎ。
かろうじてご飯だけが何とか食べられるものだった。
でも、厚子も幼稚園児の息子・昇太も文句を言わず食べてくれた。
厚子を見送り、昇太を幼稚園に連れて行くと、家事に取りかかる。
家事にやりがいを見出した裕輔は、数日のうちに色々なことをほぼ独学でマスターしていく。
倒産した会社の同僚から再就職の誘いもくるが、あまり乗り気ではない。
「頭の中にあるのは、息子の弁当と、今夜の献立と、上手なアイロンのかけ方だ。」という文章も出てくる。
近所の人たちから、憐みの目で見られていることを知った湯村夫妻。
それでも、しばらくはこの状態を続けて行くことになりそうだ…。
会社の倒産という大きな出来事から、世間的には「男女逆転家庭」と見られがちな生活を送ることになった湯村家。
裕輔が、昇太に何としても「ブロッコリー」を食べさせようと悪戦苦闘している姿を見ると思わず笑ってしまう。
今の生活ぶりをかつての同僚に話すと「針のむしろ」と評され、心外な気分になる様子も共感できた。
子どもが幼稚園だからできることなのかもしれないけど、このまま「専業主夫」も悪くないんじゃない?と思わせてくれる一篇だった。
本当に、「その家庭によって価値観は違うのだから、あまり干渉すべきではない」ということを痛感した。
タイトルの「青山」は、「人間(じんかん)いたるところ青山(せいざん)あり」から。
これを「にんげんいたるところあおやまあり」や「にんげんいたるところせいざんあり」と読む人物を登場させているところに、
作者のこだわりのようなものを感じた。
最後には裕輔の父がきちんと読むということで、その意味の説明もしてくれている。
高校の時に言葉は習ったし、意味も何となく覚えていたけど、噛み砕いて解説してくれてより理解が深まった気がする。
さて、ラストで裕輔がたくらんでいた「ブロッコリーをチョコレートでコーティング」、上手く行ったのだろうか(笑)
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