受刑者がロールレタリングで書いた手紙。実際には届かない相手に向け、素直な心情がつづられている 手紙に本心を書き出す心理療法で、長期受刑者の更生を支える取り組みを、立命館大産業社会学部の岡本茂樹教授(53)が熊本刑務所(熊本市)で続けている。殺人などの罪を犯した受刑者が、被害者や家族へ送ると想定した文章をつづり、自らその返信を相手の立場で書く「ロールレタリング」(RL)を通し、生き方や命の重みを見つめている。
RLは1980年ごろ、加害者が自己の内面と向き合う技法として、日本の少年院の現場で生み出され、臨床心理士でもある岡本教授は2006年、重罪や累犯の長期受刑者が服役する熊本刑務所の篤志面接委員に就任。親や教師の言葉や行動で傷つき、成人後も感情を抑圧する傾向を抱えた受刑者が多いと感じ、面接指導にRLを採り入れた。
殺人罪などで無期懲役の判決を受けた男性は当初、「被害者にも非があった」と話していた。父への思いを中心に約2年で計9通の手紙を書き、厳しい父の教えで虚勢を張る生き方が身に付いていたことや、愛情に飢えていた寂しさを文中で明かした。被害者に宛てた8通目では、犯行の本当の動機は自分の体裁を守るためだったと気付いたと記し、素直な謝罪をつづった。
男性は以前、「希望が見いだせない」と自殺を図ったこともあるが、RL後は「自分が変われたと他の受刑者にも伝え、助けてあげたい」と意欲を口にした。
岡本教授は06年からの5年間で、殺人や傷害致死の罪で服役する受刑者20人の指導にRLを用いた。個人差はあったが、「人に頼るのが極度に苦手」など犯行につながった自分の特性に気付き、「更生の決意が高まった」という感想が多かった。
RLは全国の少年院に広まった一方、刑務所での導入は進んでいない。岡本教授は「自己理解がないと、他者への理解も反省もない。心の奥底の否定的感情を表に出すのはつらい作業だが、努力をたたえる支え手の存在があれば、長期受刑者にもRLは有効」と話す。
無期懲役刑に服す30代の男性受刑者がロールレタリングでつづった言葉の抜粋】
1通目・父親について「今でも尊敬しております。自分より弱い女、子どもに手を出す奴(やつ)はくずだ!と何度も話していました」
4通目・私から父親へ「親爺(おやじ)はナゼあのタイミングで自殺したのですか?私はどんな存在だったのでしょう」
6通目・父親から私へ「くだらんことを考えず、漢(おとこ)らしく生きていけ」「もう父さんが居なくても大丈夫だろうとの思いから自殺した。つらい思いや苦労をさせてゴメン!」
8通目・私から被害者へ「私が目を向けるべきなのは『格好をつけるがために(被害者の)命を利用した』私の醜い心です。何でこんなことをしてしまったのだろう…。本当にごめんなさい」
9通目・私から父親へ「ほめられたい、愛されたいと精一杯だった。お父さんの理想の男になろうと無理して背伸びし、自分をつくた。お父さん!心からの愛が欲しかった!」