

昨年建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受賞した日本を代表する建築家の一人伊東豊雄さんが、新競技場を造らず現競技場の維持改修で済ませる代替案をまとめ、十二日に公表するという記事が10日付東京新聞1面に掲載された。現国立競技場の解体が7月に始まるというが、五輪史上最大規模となる新競技場は立地する明治神宮外苑の歴史的景観を壊し、建設費を肥大化させるとの批判を招いている。代替え案によれば、仮設の観客席などで大幅な規模の縮小やコストの削減が見込めるという。代替え案作成を提案した人類学者の中沢新一さんは、「今の日本は、国土強靱化の名の下、大規模な建築物をどんどん造ろうとしている。おかげで人手不足、資材不足が生じ、これを東京に回すことで、東北の復興は決定的に遅れる。安倍晋三首相の言う東京五輪との両立は矛盾している」と指摘しているが、筆者も大いに同感である。
大規模な建築物や整備された高速道路網は、経済成長と繁栄の証しであるように考えられてきた。しかしそれらの建設には、セメントやアスファルトと混ぜる骨材として膨大な量の砂が必要である。砂はあって当然のよう使われているが、ひとたび使われた後は骨材としての資源価値を失い、建造物は老朽化すれば瓦礫への道を辿る。世界では砂の需要拡大で、生態系に壊滅的被害を及ぼす海底の砂の採取や陸上の砂の盗掘、違法取引など砂を巡る争い(サンド・ウォーズ)が起こっている。砂は限りある資源である。これまでのような経済成長至上路線を歩み続けることは、将来の世代の負担を増やし続けることになる。心ある人々が提言している量的幸せ追及から質的幸せ追及へ本気で転進を考えるべき時になっている。
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