巣立ち

うん。

いい天気。

いい風も吹いている。

儀式をするにはもってこいの日だ。


僕は今日、一人前になる。


僕は鳥だ。

ついこないだ生まれたんだ。

鳥が飛べないで鳥とは呼べない。

必ず、今日、一人前の鳥になってやる。


「じゃあ、お母さん、ちょっと食料取ってくるわね、いい子にしてるのよ」

「いってらっしゃい。僕もう腹ペコだよ」


よーし、行ったぞ。

始めようか。

飛び方は知ってるんだ。


こうやって…羽を広げて…

こう…必死に羽ばたくっ…


ダメだ。

そうだ！風の力を利用しよう！




今だっ！




………


あ。

落ちちゃった。

どうしよう…


あ。

人間だ。

人間…

お母さんから聞いたことがある。


人間は鳥が大好きなんだそうだ。

好きだからといって仲良くしてはいけない。


なにを血迷ったか、鳥を食べるらしい。

身はもちろん、皮、心臓、内臓、尻尾、羽…

考えるだけで恐ろしい…


このままじゃ、ダメだ。

逃げなきゃ…


………


あ。

捕まった。



ヤバイ、食われるぞ。

どげんかせんといかん。


「やぁ！人間さん！会いたいと思っていたよ、君、僕を食べるつもりだろう？でも残念だなぁ…いやね、そりゃ僕も君に食べてもらいたかったよ？あぁ、本当だ。でもよく見てごらんよ、僕はまだ子供なんだ。食べられるとこなんてないんだよ。大きくなったらまた戻ってくるから今日のところはとりあえず離してくれないかな？」


ダメだ。

人間はなんてバカなんだ。

まぁ、僕もちょっと早口だったけど、こいつぁバカだ。

なんにも伝わってねぇ。


水を飲ませてきやがった。

本当に大バカだ。

今度はパンを食わせやがった。

バカにもほどがある。


…？

なんだ？なんだ？

なんで外に出すんだ？


外だ！

外だ！外だ！外だ！


おかぁさん！

おかぁさん！

おかぁさん！

助けて！僕はここだよ！

おかぁさん！


「坊や！」

「お母さん！」


あ！

飛べた！

僕、飛べたよ！

お母さん！僕、飛べた！


「坊や、無事でよかった。もう無茶しちゃダメよ」

「お母さん、聞いてよ、僕人間に会ったんだ。でも勇敢に戦ったんだよ！あのね…



実話です。