8月になった。またセミが泣いて、クラクラする。
夏の空を眺めていると、なにも言えない気持ちになってゆく。
なにも言えない胸に、青空と遠雷が侵入し、突然の土砂降りの雨は、我々の十字架の記憶をあぶり出そうとしているみたいだ。
(アア オ母サン オ父サン 早ク夜ガアケナイノカシラ)
というコトバが原民喜の鎮魂歌にあり、こめかみ辺りに突き刺さったままになっていて何故か分からない。
これほど声に出して読むことが困難な詩を知らない。
年々狂い暑くなるこの8月の灼熱の中で、私たちが心と呼ぶものの本当をさがし続けるならば、いつか8月の空は本当に明るく青くなるかもしれないが、どうなのか。
あまりにも、なんとあまりにも、言葉をうしない続けるのだろうか、何も言えない言葉を知覚したか、発話し難い言葉ひとつを言葉し得たか、まだ無い言葉を言葉しようとしたか、夏の空は問うてくる。未来に伝える、なにかひとつの言葉を、私は持っているかどうか。
8月6日の、8月9日の、真夏の朝が、また私に問う。
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Stage info. 櫻井郁也/十字舎房:公式Webサイト
ただいまHPでは7月に行った新作公演の記録を公開しております。作品制作中に記されたテキストや過去の公演写真なども掲載しておりますので、ぜひ、ご覧ください。