櫻井郁也ダンスブログ Dance and Art by Sakurai Ikuya/CROSS SECTION

◉新作ダンス公演2024年7/13〜14 ◉コンテンポラリーダンス、舞踏、オイリュトミー

河瀬直美さんの『光』

2017-05-31 | アート・音楽・その他
河瀬直美監督の映画『光』を観ました。

はじまった途端に息を呑んで、進んでゆく物語に入り込みながら、時に、衝撃的な眩さにクラクラして、時に、懐かしい写真を見つめるような気持ちになり、時に、こんなに近づいてよいのかと戸惑うくらい生々しさを感じながら、観ました。
「光」は映画をめぐる映画でしたし、みる、ということをめぐる映画だとも思いました。スクリーンそのものが人の網膜のように繊細に感じました。

僕は奈良に生まれ育ちましたから、この映画の河瀬直美監督は奈良の人だときいて最初は興味をもったのでした。今回も、近鉄奈良の駅前だ、八軒町のバス通りだ、それからあれは、、、と愛おしい故郷の記憶をも追いながらも、観ていました。初めて観た「萌の朱雀」では吉野でしたが、その風景が人の悲しみを包み込んで生きているようで何故かわからないほど泣けて泣けて、その何年かあとの「火垂」という作品では、もろに僕の生まれ育った奈良町の元興寺あたりが舞台だったのですが、そこに映り込んだ切なさというのか、ひとのこらえきれない思いと町のそこはかとないたたずまいに、完全にとりこになってしまいました。

この人の映画は、1カット1カットすべてのカットから、何かが溢れるのです。今回の『光』でも、映画がすすむうち、僕の心は、郷里よりももっと遠い故郷、懐かしくて哀しくなってしまうなような記憶の源流のほうに連れてゆかれるのでした。そしてドラマと並行しながら、今までにかかわりあったひと、ひとりひとりの記憶も掘り起こされてゆくようでもありました。

『玄牝』、『沙羅双樹』、『垂乳女』、、、、忘れがたい作品がたくさんある。そう、この人の映画の特徴は僕にとっては「忘れがたい」ということかもしれません。
感動したとか共感したとか言うよりも、やはり「忘れがたい」そんな感じなのです。

他人を楽しまそうとか、語りかけようとか、ではなくて、あるがままの光と影がほのめいているようだなぁとも思いました。
監督ご自身が大切にされていることを本当に大切に撮影されているのでしょう。だからこの人の映画は、忘れがたい、体験になるのだと思います。大切にしていることが自然に伝わるのだと思います。

ダンスと映画はとても違うようですが、僕はこの河瀬直美さんという人の映画から何回も何か心の糧をもらっていて、踊りの励みになっています。そして、スピリットの点では素晴らしいダンスに触れたときと同じ震えを感じるのです。そして、勝手に感謝しています。

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