毎年、春から夏に移りゆくいまごろになるとこの絵が公開される。見るたびに眩しさを増しているように、このごろ感じる。なぜなのだろう。
かきつばたの花が咲く庭とこの絵のある展示室を行ったり来たりして一日をすごしていると、僕は、現実というものから次第に切り離されてゆくような心地になる。
金箔の反射光と描かれている燕子花がまぶしくて、この絵の前に佇むたくさんの人が影のように見える。
この絵には実に奇妙な力があるように僕は勝手に思っている。
たとえば、すべての流れるものをピタリと停止させ凝固させるような力を感じる。
また、たとえば、すべての立体を二次元の光と影に分解してしまうような魔力を感じる。
この絵は、花の姿を借りてじつは、この世になくあの世にさえない物質を表してあるのではないか、などと、ばかなことをバクゼンと思うことも、ある。
(photo上=光琳の燕子花図屏風の一部:根津美術館蔵/下=同館の庭園に咲いているカキツバタ)