「世の中の答えの9割は本に書いてあると僕は思います。
なので僕は興味があると思った本全てに目を通してきました。
人生を変えた本、価値観を変えた本、新しい見解を見出してくれた本もあれば、中には僕の存在そのものが見当違いであることに気づき、真実に絶望し余計に悩みに苛まれてしまう本にも出会いました。
かつての僕は、世界中にある本すべてを読了すれば神にでもなれるんじゃないかとさえ思っていたこともあります。
その思いは僕なんぞに不釣り合いな、単なる驕りかもしれません。
ですが、僕にとって神になりたいという気持ちは、ただ優越感を抱くためのものには留まらず、
己の不完全さから来る、形容し難い漠然とした恐怖を何とか呑み込むための感情でした。
全知全能を神と仮定するならば、現世にある本をありったけ読んでしまえば、なんでも知っている気になれて、僕の恐れがいつか消えるはずではないか。
そう思っていました。というか、今でもそう思っていたいのです。
なので、こうして今まで本を読んできたのですが。
無理でした。無理らしいんです。
どうやら本に書いてあることを統べて鵜呑みにするならば、どうやら僕は実力不足で神にはなれないそうです。本に出逢えば出逢うほど、僕がどれだけ無力であるかが書いてある。
どうしてみんな神じゃない自分に満足して呼吸ができているのでしょうか。
僕は、それは人間特有の諦めなのかと思っていたのですが、どうやら違うらしいのです。
神じゃないことが当たり前なので、答えにありつけるわけでもない、それに成れるわけでもない事柄に、わざわざ時間を割いて熟考なんかしてるほうが馬鹿なんですってね。
なんででしょう。
だって怖いでしょ。全部自分が現世を知ってないと、怖いでしょ。
全部自分が主導権を握ってないと、怖いでしょ、誰かに握られたら、怖いでしょ。
恐怖を消せないことが、怖いでしょ。
もうあんな苦しい思いなんて二度としたくないから怖いでしょう。
満足が行くまで僕にすべてを握らせてください。
まあ無理なんですけど。
僕みたいなやつは、考えすぎてる無謀な馬鹿だそうです。
ですよね。僕もそう思います。
どうか、腹の底からすべての空気を出し切って嗤ってください。
神だったら嗤い返してやれるのに、出来ない。
神だったらな、いいのにな、いいのにな。良かったのにな。
なーんてね。
ほら、僕なりにやっと諦めかけてたのに、また奇妙な本を拾ったせいで、悩み始めました。
その本は誰が書いたんですか、誰が読んでいたんですか、それは正解ですか。
本を落とした何処かのあなたは、
本を書いた何処かのあなたは僕の何なんですか。味方ですか、それとも敵ですか。
これから僕はどうなるんですか。
教えて下さい、教えて下さい。知ってることすべて教えてください。
神にならなくていいと思えるくらい安心する方法を教えて下さい。なにをもったいぶっているのか、わかりません。僕にわからないという状態を作らせないでください、お願いね。」
「わからん 多分」