ASUSは、開発コードネーム「Tiger Lake」こと第11世代Coreプロセッサ搭載のZenBookシリーズを発表した。今回、そのTiger Lake搭載ZenBookシリーズのなかから、ディスプレイが360度開閉するコンバーチブル型2in1モバイルPC「ZenBook Flip S UX371EA-HL003TS」をいち早く試用する機会を得たので、スペック面を中心に紹介していく。発売は2020年11月25日で、価格は21万8,000円。
ZenBookシリーズらしい高品質な薄形筐体
「ZenBook Flip S UX371EA-HL003TS」(以下、UX371EA)は、ASUSのプレミアムモバイルノートPC「ZenBook」シリーズに位置付けられている製品だ。ZenBookシリーズは、筐体素材にアルミニウム合金を採用するとともに、細部までこだわった加工によって高級感を高めた筐体が特徴となっているが、その点はUX371EAも同じだ。
筐体は、天板と底面シャーシにアルミニウム合金を採用し、重厚な印象を与えるジェードブラックで塗装。また、天板にはZenBookシリーズで伝統的に受け継がれている同心円状のヘアライン処理が施されている。これによって、見る角度や光の当たり具合によって色合いが変化し、ほかの製品にはない独特な質感が実現されていると感じる。加えて、天板とキーボード面の側面角にダイヤモンドカット加工を施しゴールドで塗装することで、デザイン的なアクセントを与えるとともに、高級感も増している。
また、強度に優れるアルミニウム合金の採用によって、堅牢性にも優れるという印象だ。ディスプレイ部や本体をやや強い力でひねってみても大きく歪むことがなく、非常に安心感がある。特にUX371EAはディスプレイが360度開閉するコンバーチブルスタイルを採用し、クラムシェルスタイル、テントスタイル、スタンドスタイル、タブレットスタイルの4種類の形状での利用に対応しているが、剛性の高さからいずれの形状でも安心して利用可能だ。
合わせて、ヒンジは「リフトアップヒンジ」を採用。ディスプレイを開くとキーボード面後部を持ち上げ、キーボード面に角度がついて快適なキー入力をサポート。さらに底面に空間ができるため、冷却性能も高まる。
本体サイズは、305×211×13.9mm(幅×奥行き×高さ)となっている。ディスプレイは13.3型だが、4辺狭額ベゼル仕様とすることでフットプリントを小型化。コンバーチブルスタイルながら13.9mmと薄型を突き詰めている点も特徴。クラムシェルモバイルPCと比べても遜色のない薄さで、2in1仕様ながら携帯性も十分高いレベルにあると言える。
重量は公称が約1.23kg、実測では1219.5gだった。13.3型のモバイルPCとして考えると、1.2kgを超える重量はやや重い部類で、実際に本体を手にしてみてもずっしり重いと感じる。個人的にはもう少し軽いと嬉しいところだが、全体の質感や、2in1仕様であることなどを考えると、まずまず納得できる重量だ。
ペン入力にも対応する4K有機ELディスプレイ
ディスプレイは、3,840×2,160ドット(4K)表示に対応する13.3型有機ELディスプレイを採用している。この有機ELディスプレイは発色性能に優れており、DCI-P3カバー率100%の広色域表示に対応するとともに、PANTONE認証も取得しており、色再現性に関しても高いレベルとなっている。
また、100,000:1の高コントラスト表示に対応するとともに、DysplayHDR 500 True Blackもサポートしており、明暗差の激しい映像も破綻なく表示できる。この他、輝度は0.0005~500nitsの広範囲に対応し、応答速度も1msと十分に高速だ。
実際に写真や4K HDR映像を表示してみたが、表示される色の鮮やかさはもちろんのこと、明るい場所から暗い場所までくっきり表示される点はさすがのひと言だ。これなら、プロの映像クリエイターも納得の表示性能を備えていると言っていいだろう。
ディスプレイ表面は光沢処理となっている。個人的には非光沢処理のディスプレイが好みで、UX371EAのディスプレイは外光の映り込みが気になる印象だった。このあたりは好みもあると思うが、文字入力が中心の作業を行う場合には気になりそうだ。
また、ディスプレイはタッチ操作および付属のスタイラスペンを利用したペン入力にも対応している。タッチ操作は10点マルチタッチ。また付属スタイラスペン「ASUS Pen」は4,096段階の筆圧検知に加えて Microsoft Pen protocol(MPP) 2.0にも対応しており、傾き検知もサポートしており、プロクリエイターも納得の仕様となっている。実際に使ってみても、比較的素早いペン先の動きにもしっかり追従し、軽快なペン入力が可能と感じた。
ところで、このASUS Penにはマグネットが内蔵され、ディスプレイ背面の天板上部に装着できるようになっている。本体内部に収納できるわけではないものの、どこに置いたか忘れて探すこともよくあるため、本体に装着しておける点は嬉しい特徴だ。
フルピッチのキーボードとテンキー機能内蔵のNumber Padを搭載
キーボードは、ほかのZenBookシリーズ同様にキーの間隔が開いたアイソレーションタイプのものを採用している。キーボードバックライトを内蔵する点も従来同様だ。
ただUX371EAでは本体の側面ぎりぎりまでキーを配置することで、主要キーのキーピッチは19.05mmとフルピッチを確保。これまでピッチが狭くなることの多かったEnterキー付近のキーもフルピッチを確保している点は好印象。ただし、縦のキーピッチは実測で約16.5mmとやや狭くなっている。慣れれば問題なくタッチタイプが可能とは思うが、デスクトップ用のフルサイズキーボードと比べると、縦のピッチが狭いことで違和感を感じる部分もありそうだ。
キーストロークは1.35mmと、薄形の割にはしっかりとした深さを確保。キータッチは、固すぎず柔らかすぎず、標準的な固さという印象。クリック感もしっかり感じられるため、キータッチは比較的好印象だ。合わせて、キーボード面の剛性も十分に優れているため、強めの力でタイピングする場合でも快適だ。
キー配列については、基本的には日本語キーボードの標準配列となっているが、Enterキーの右側にも間隔を広げることなくキーを配置している点はかなり気になる。Enterキーの右にキーを配置することは誤入力を誘発することにつながるため、できれば避けてほしかった。どうしても搭載したいなら、キーを小さくしてもいいのでもう少し間隔を広げるなどの配慮をお願いしたい。
ポインティングデバイスは、クリックボタン一体型のタッチパッドだが、テンキーとしても利用できるASUS独自の「Number Pad」を採用。タッチパッド右上角を長タッチすることで、タッチパッド面にテンキーがイルミネーション表示される。テンキーを表示している場合でも通常のタッチパッドとしても利用可能となっているため、利便性もなかなか良好だ。
タッチパッドはかなり面積が広く、ジェスチャー操作にも対応しており、軽快な操作が可能だ。ただ個人的には、キー入力時に手のひらがパッドに触れて誤操作される場面が何度かあったため、できればひとまわりサイズを小さくしてほしいと感じる。
Tiger Lake採用など基本スペックも充実
CPUは、冒頭でも紹介しているようにTiger Lakeこと第10世代CoreプロセッサであるCore i7-1165G7を採用。性能は後ほど検証するが、Tiger Lake採用によってCPU処理能力はもちろん内蔵GPUの大幅強化によって優れた性能が期待できる。
メモリは標準でLPDDR4X-4266を16GB搭載。メモリ増設は不可能だが、標準で16GB搭載している点は嬉しい。内蔵ストレージは容量1TBのPCIe SSDを搭載する。
無線機能は、IEEE 802.11ax(Wi-Fi 6)準拠の無線LANとBluetooth 5.0を標準搭載。ワイヤレスWANには対応しない。
生体認証機能は、ディスプレイ上部にWindows Hello対応の顔認証IRカメラを搭載。こちらは92万画素Webカメラとしても利用できる。
外部ポートは、左側面にHDMI 1.4とThunderbolt 4×2、右側面にUSB 3.2 Gen1の各ポートを用意。Thunderbolt 4ポートはデュアル4Kまたはシングル8Kの映像出力に対応。また、USB PDに対応し、最大65Wで電力を入力できる。加えて、USB PD認証以外のACアダプタにも対応しており、最小4.5Wの給電にも対応。実際に、スマートフォン向けのモバイルバッテリでの給電も確認した。これにより、寝ている間にスマートフォン用のACアダプタでバッテリを充電するといったことも可能だろう。
本体にはオーディオジャックが用意されないが、付属のUSB Type-C接続のオーディオジャックアダプタを利用することで有線ヘッドフォンが利用可能となる。このオーディオジャックアダプタはハイレゾオーディオ対応のため、ハイレゾ対応ヘッドホンを利用した高音質サウンドも楽しめる。このほか、USB Type-A接続のGigabit Ethernetアダプタも標準で付属している。
付属ACアダプタは、出力65WのUSB PD準拠となっている。ただ、プラグが折れる仕様となっていない点と、ややサイズが大きい点は残念。重量は実測で216.9gだった。
Tiger Lakeらしく十分なパフォーマンスを発揮
では、簡単にベンチマークテストの結果を紹介しよう。利用したベンチマークソフトは、UL LLCの「PCMark 10 v2.1.2506」、「3DMark Professional Edition v2.15.7088」、Maxonの「CINEBENCH R20.060」と「CINEBENCH R23.200」の4種類だ。テストは、CPUクーラーの動作モードを「パフォーマンスモード」に設定して実行している。また、比較としてRyzen 7 4700Uを搭載するASUSの「enBook 14 UM425IA-AM016TS」と、Core i7-10710Uを搭載するパナソニックの「Let's note LV9 CF-LV9KDNQR」の結果も加えてある。なお、CINEBENCH R23.200はUX371EAのみ計測となっているため、参考値として見てもらいたい。
結果を見ると、PCMark 10とCINEBENCHの結果では、おおむねZenBook 14やLet'snote LV9と同等以上のスコアが得られているものの、なかにはスコアが劣っている部分も見られる。ただ、スコアが劣っている部分については、マルチスレッド処理がスコアを左右する項目が中心。Ryzen 7 4700Uは8コア、Core i7-10710Uは6コアに対し、Core i7-1165G7は4コアなので、この結果はある意味当然とも言える。そういったなか、CINEBENCHのシングルコアの結果はトップのスコアとなっていることから、CPUコアの処理能力は十分に優れると言える。
ZenBook Flip S UX371EA UX371EA-HL003TS |
ZenBook 14 UM425IA UM425IA-AM016TS | Let's note LV9 CF-LV9KDNQR | |
---|---|---|---|
CPU | Core i7-1165G7(ターボブースト時最大4.7GHz) | Ryzen 7 4700U(2.0/4.1GHz) | Core i7-10710U(1.10/4.70GHz) |
ビデオチップ | Intel Iris Xe Graphics | AMD Radeon Graphics | Intel UHD Graphics |
メモリ | LPDDR4X-4266 SDRAM 16GB | LPDDR4X-3733 SDRAM 16GB | LPDDR3-2133 SDRAM 8GB |
ストレージ | 1TB SSD(NVMe/PCIe) | 512GB SSD(NVMe/PCIe) | 512GB SSD(NVMe/PCIe) |
OS | Windows 10 Home 64bit | Windows 10 Home 64bit | Windows 10 Pro 64bit |
PCMark 10 | v2.1.2506 | v2.1.2177 | |
PCMark 10 Score | 4788 | 4975 | 4462 |
Essentials | 9888 | 8475 | 9447 |
App Start-up Score | 13073 | 8413 | 13032 |
Video Conferencing Score | 8304 | 8634 | 7926 |
Web Browsing Score | 8906 | 8383 | 8163 |
Productivity | 6618 | 7603 | 7270 |
Spreadsheets Score | 6054 | 9608 | 8056 |
Writing Score | 7235 | 6017 | 6562 |
Digital Content Creation | 4553 | 5188 | 3512 |
Photo Editing Score | 7491 | 7562 | 4259 |
Rendering and Visualization Score | 2547 | 5118 | 2372 |
Video Editting Score | 4948 | 3608 | 4289 |
CINEBENCH R20.060 | |||
CPU | 1763 | 2706 | 1935 |
CPU (Single Core) | 496 | 478 | 462 |
CINEBENCH R23.200 | |||
CPU | 3576 | - | - |
CPU (Single Core) | 1058 | - | - |
3DMark Professional Edition | v2.15.7088 | v2.12.6964 | v2.11.6911 |
Night Raid | 13961 | 12275 | 6090 |
Graphics Score | 18083 | 13387 | 5980 |
CPU Score | 6092 | 8348 | 6799 |
Sky Diver | 11927 | 10721 | 5000 |
Graphics Score | 13051 | 10809 | 4553 |
Physics Score | 8464 | 11101 | 10156 |
Combined score | 11558 | 9640 | 4885 |
Time Spy | 1542 | 1119 | 486 |
Graphics Score | 1404 | 990 | 421 |
CPU Score | 3483 | 4332 | 3950 |
それに対し、Tiger Lake最大の特徴である統合グラフィックスの性能は、3DMarkの結果を見ると明らかで、CPU処理が関わってくる部分を除いてトップのスコアが得られている。Intel製プロセッサの統合グラフィックスは、AMD製プロセッサの統合グラフィックスに対して大きく劣る状況が長く続いていたが、今回の結果から、Tiger Lakeによってその状況が払拭され、優れた3D描画能力を発揮するようになったと言っていいだろう。さすがにゲーミングPCレベルとは言えないが、表示設定を落とすことで3Dゲームも十分にプレイ可能なレベルと感じる。
次に、バッテリ駆動時間だ。UX371EAには容量67Whのバッテリを内蔵しており、公称の駆動時間は約13.4時間(JEITAバッテリ動作時間測定法 Ver2.0での数字)とされている。それに対し、Windowsの省電力設定を「バランス」、電源モードを「より良いバッテリ」、バックライト輝度を50%、キーボードバックライトとNumber Padをオフ、無線LANを有効にした状態で、PCMark 10のBatteryテスト「PCMark 10 Battery Profile」の「Modern Office」を利用して計測したところ、9時間12分を記録した。
4K有機ELディスプレイを搭載するため、バッテリへのインパクトはかなり大きいものの、それでも9時間以上の駆動時間を確保できている点はかなり優秀だ。使い方にもよるが、1日の外出程度ならバッテリ残量を気にせず利用できそうだ。
Tiger Lakeに4K有機EL搭載で21万8,000円はコスパに優れる
UX371EAは、Tiger Lake搭載にメモリは標準で16GB、内蔵ストレージも1TBと充実したスペックに加えて、圧倒的な発色性能を誇りペン入力にも対応する4K有機ELディスプレイの搭載など、プレミアムモデルに相応しい仕様を実現。また、ZenBookシリーズということで質感や高級感あふれる筐体も魅力がある。それでいて販売価格は21万8,000円なのだから、コストパフォーマンスも圧倒的と感じる。
細かな部分を見ると、やや重量が重かったり、キーボードの配列に気になる分もあるが、全体的には完成度は群を抜いている。とにかく、仕様面だけでなく価格的にも満足できる2in1モバイルパソコンを探しているなら、真っ先に考慮に入れるべき製品と言っていいだろう。
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