まるで生耳で聴いているかのように自然な外部音取り込み
あらためて言及するまでもありませんが、イヤホンというジャンルは成熟した商品ジャンルです。近年新たに生まれたTrue Wireless Stereo(TWS)であってもそれは同じ。近年、ノイズキャンセリング機能を持つ製品が登場し始め、ソニーがWF-1000XM3を投入したことで「このジャンルも成熟したか?」と思ったのですが、まだ先がありました。
まずはAirPods Proの"ここが凄い"と思った点を列挙したいと思います。
- 全帯域で高いノイズキャンセリング効果
- 外部音取り込みモードにおける環境音の自然な再現
- 低域ノイズを大幅に下げつつ耳への圧迫感・閉鎖感が極小
- 密閉性と装着感の両立
- 軽さとマスの集中、イヤーピースの良さからくる安定感。ランでもOK!
- ほぼゼロと言っていいレイテンシの小ささ
いずれも、"ちょっといい"は超えていて、とても高いレベルで実現されています。音質は"驚き"の中には含めませんでしたが、EarPodsやAirPodsの音質に満足していなかったわたしもこの製品ならば不満はありません。
オーバーイヤー型に近いノイズキャンセリング効果
ノイズキャンセリング効果を持つヘッドフォン/イヤホンは、比較的高い周波数領域はイヤーピースや全体のメカニカルな構造で遮蔽し、低い周波数ほどアクティブノイズキャンセルで除去しています。AirPods Proは、比較的浅い収まりのイヤーピースに加え、外耳道の圧力が高まって違和感を覚えないように空気抜きがありますから、一般的なカナル型イヤホンよりもそれ自身の遮音効果は低いと考えられます(実際、アクティブノイズキャンセルをオフにすると遮音性の低さがわかります)。
ところが使ってみると、かなり広い帯域で大幅なアクティブノイズキャンセルがかかっていることに気づきます。しかも特に中低域から低域にかけてのノイズ低減効果が際立っており、電車やバス内でのノイズ緩和はTWSではナンバーワンのWF-1000XM3を明らかに超える効果を発揮していました。
ノイズキャンセリング効果を高めるには、ある程度は耳栓的な要素も必要になりますが、AirPods Proはカナル型特有の圧迫感なしに高いノイズキャンセリング能力を発揮していることに驚きました。
装着したまま生活していても違和感のない"外部音取り込みモード"
AirPods Proには"外部音取り込みモード"という、ノイズキャンセリング用マイクロフォンから取り込んだ環境音を、ドライバユニットを通じて再生するモードがあります。同様のモードはソニーのノイズキャンセリング製品にもありますが、AirPods Proで驚かされるのは、環境音再現の自然さです。AmbieやXperia Ear Duoといった製品のようなオープンエアの開放感はありませんが、周囲の状況を把握するという意味では、極めてよくできていて、しかも肝心の再生音楽の質感に大きな影響を及ぼしません。
iOS 13.2から加わったiMessageの音声読み上げ機能と合わせて、単なるノイズキャンセリングイヤホンではなく、元祖AirPodsが持っていたヒアラブルデバイスとしての性格と、極めて優秀なノイズキャンセリングイヤホンの性能とを兼ね備えるところに本機の作り込みの深さを感じます。
ノイズキャンセリングの性能も確かに凄いのですが、最も驚いたのはこの外部音取り込みモードの自然さです。
外耳道への圧迫感が些少ながら密閉度は高い
AirPods Proにはドライバユニットの背面に空気の通り道を作り、イヤホン内外の圧力を均質に保つことで快適性を引き出していると書きましたが、一方で外耳部分と外の空気はしっかりと密閉します(そうでなければ良いノイズキャンセリング効果は得られません)。AirPods Proの場合、通話用マイクが仕込まれている、いわゆる"うどん"の部分があるため、楕円イヤーピースであることを意識せずにサッと装着でき、また外耳の形状にフィットしやすいことからイヤーピースを柔らかくできたようです。
S、M、Lのイヤーピースのうち、Sサイズがちょうど良かったのですが(Mサイズでも問題はありません)、このコシの強さと形状が絶妙で、圧迫感は最小限にも関わらずしっかりと密閉してくれます。密閉度はAirPods Proの設定(iOSのBluetoothメニューからAirPods Proの「I」アイコンをタップ)にあるテストで確認できます。
謎の超低レイテンシ
最後にその理由がわからないのですが、iPhoneとともに使った場合にものすごく低レイテンシでつながるのです。動画でレイテンシを感じないといったごまかしのレベルではなく、アクションゲームを遊んだり、ガレージバンドでAirPods Proでリズムを聴きながらキーボードを叩いても、まったくズレを感じないぐらいの同期具合。Android端末とつないでみると、AACとSBCにしか対応していない(apt-Xには未対応のためAACに対応していないAndroid端末とつなぐとSBC接続となる)と思われますが、AAC接続ならレイテンシは大きくなるはず。果たして、どのような手順でつないでいるのか不明です。
この点についてAppleに質問しても、答は教えてもらえませんでした。一部では"独自コーデックでは?"という噂もありますが、AACのままプロトコルを工夫している...というのが有力なところでしょうか?
AirPods ProはBluetoothで接続されるため、必ずしも接続する側の機器がApple製品である必要はありませんが、端末や端末のOSとタイトに統合されているうえ、ファームウェアのアップデートはiOSデバイスからしか行えません。事実上、iPhone/iPad向けに設計されている製品と考えたほうが良さそうです。
ただの耳栓としてさえ快適
AirPods ProをはじめとするTWSは、音質に関してはマニアックに、解析的に評価することよりも、使用フィールのバランスが大切でしょう。もちろん、音質が悪いとなれば問題ですが、その点ではAirPods Proに問題はありません。Appleによるとノイズキャンセリングにも利用している"内側"の音を計測するマイクロフォンの情報を再生している音楽の情報と照合しながら、人によって異なる外耳道の特性に合わせた補正をするそうですが、たしかに実に"まっとうな"音がします。とっても優等生なんですね。
これは他のApple製品にも共通する特徴ですが、歪っぽく聞こえる要素が極力排除されているため、特に高域のささくれだった擦過音が目立つような減少は皆無です。一方でエッジ感には乏しく、中低域のエネルギー感は物足りないという人もいるでしょう。
今年はTWSのSoCを開発しているQualcommが「QCC51xx」シリーズを出荷し始め、2万円以上のTWSは軒並みノイズキャンセリング機能付きになっていきそうです。しかし、ここまで完成度が高い製品が2万7800円(税別)で販売されていると、iPhoneユーザーにはAirPods Proが第一の選択肢になるでしょう。
もっとも成熟しつつあると思っていたジャンルでも、ここまで進歩できることがわかったのですから、ソニーを含め他社がさらに上回ってくることにも期待したいですね。