えりこのまったり日記

グダグダな日記や、詩的な短文、一次創作の書き物など。

アイデアショック

2018-08-25 21:51:20 | 星野源
アイデアの配信がスタートしてからこのかた、毎日聴いて毎日MV見てる。
今まで、新曲が出てもここまでのめり込まなかったのに。


星野源という人の、頭の中はどうなってるのかな。
今まで、まあまあ軽いファン心で、素敵な曲だの可愛いだの言ってはいた。
いや、ほんとにそう思ってたんだけど。


おげんさんで演奏した曲、全部編曲。
MVの喪服のような衣装。
明るい笑顔の1番から、闇を纏うような表情が覗く2番。
2番でガラッと変わる曲調、歌詞。
弾き語りのフレーズ…
配信開始日に聴いてから、耳から離れなくて。


これから、どう変わっていくんだろうと思わせるシングル。
取り巻く環境が変わって、戸惑ってはいたんだろうけど。
もうそれを過去みたいに語って、前へ進む人。
どうなって行くのか、追いかけずにはいられない。


どうせハマるなら、このくらいハマった方が楽しいよね。
あの時、コウノドリを、逃げ恥を見た自分、良くやったわ!



過去を振り返る

2018-08-16 07:44:24 | 星野源
ファンになったと自覚してから、1年半くらい。
YELLOW DANCERから入った私は、strangerより前は掘らないことにしようと思ってました。


手術後から音楽の方向が変わってきた印象があったので、
その前はいいかな~って思ってた。


でも最近、『くせのうた』やら『老夫婦』やら、『グー』やらを聞く機会があって。
それが全部、心地よくて沁みてくる。
結果、あーもっと聞きたい!と思ってしまった。
で、『ばかのうた』と『エピソード』両方購入。


これからじっくり聞くつもり。
ここまで掘ったら、次はどうなるんだろう。
…初回限定盤?
もう、YELLOW DANCERと恋の初回限定盤は買ったわ…
『ひとりエッジ』と『メトロック』目当てで。
いま欲しいのは、『知らない』の初回限定盤。



まだまだ掘れるところはたくさんある。
こんなに深い沼だとは…

年上のあなたへ⑥大好きな人

2018-08-11 21:59:38 | 書き物


4月に軽音のサークルに入り、ゆる~く活動しはじめた。
誰かのライブを手伝ったり、コーラスで参加したり。
バンドやらないかって誘われたけど、バンドは高校で懲りたから、やめとこうと思った。
始終サークルに入り浸っていた訳じゃないから、時々優ちゃんに会いたくなった。
でも、あんな約束しちゃったから、連絡しづらくて。
サークルに参加したって、クラスに男の子がいたって、私の性格じゃそんな世界が広がることはなかった。
優ちゃんは、考えすぎだよ…
たまにサークルの写真を送ったのは、私世界を広げてるわよってアピール。
サークルで仲良くなったのは、同期と先輩何人か。
そのグループで、飲みに行ったり花火大会に行ったり…バーベキューなんかもした。
楽しかったけど…こういうこと優ちゃんとしたいなって思っちゃったんだよね。
グループでわいわいやってる人たちは、普通に仲がいい。
その中でも、先輩の竹本さんはいつも面倒を見てくれて、分からないことは教えてくれる。
気がつくと、近くにいることが多くなった。
なんとなくだけど、家庭教師をしてたころの優ちゃんに似てるかもしれない。
気が合うなとは思うし、なんとなく視線を感じる。
優ちゃんがいなかったら、惹かれていたかもしれない…
でもやっぱり、私は優ちゃんが好き。
他の人を知っても、私の中の優ちゃんは揺るがなかった。



12月、そのグループで、忘年会をすることになった。
お店は、あの神社がある駅の飲み屋街にある。
優ちゃんの会社に近いと思ったけれど、まさか店にいるなんて。
しかも、手首を掴んで連れ出すってなんなの!?
先輩たちは唖然としてて、優ちゃんはやたら強引で。
こんな強引な人じゃないのに。
居酒屋のビルの外に出ても、まだ歩くらしい。
「優ちゃん、そんな引っ張らなくても付いて行くから」
「…そうか」
ようやく、手は繋いだままだけど普通に歩いてくれた。
「ねえ、どこ行くの?もしかして…」
「もしかして、だ」
「なんで?」
「話が、あるんだ」
今さら、なんの話?
私はまだ20歳になってないのに…



神社の参道に入ると、春先に話したおみくじを結ぶ場所にたどり着いた。
夜の20時を過ぎていて、灯籠は灯っているけれど、ここはそこまで明るくない。
くるっと振り返って私に向き合った優ちゃんは、困ったような、恥ずかしそうな、微妙な顔。
「結、ここで俺がグダグダ言った約束のことなんだけど」
「うん…私、まだ20歳じゃないよ」
「わかってる。それ、忘れてくれないか。あの約束、チャラにしてくれ」
「…どうして」
向かいあった優ちゃんを見上げると、少し俯いて言葉を探してるみたい。
ふいに、顔を上げると両腕を私の肩に置いた。
「俺が勧めたとおり、結がサークルで楽しんでるのは、写真を見て分かった。だけど…」
「?」
「サークルの仲間だとは分かっているけど、だんだん耐えられなくなって…」
「耐えられないって、どういうこと?」
「だから、結が他の男と楽しそうにしてるのがだよ!」
「…それって」
「ヤキモチだよ、ヤキモチ!結の世界を狭めたくないなんて言っといて…みっともない有り様だよ」
肩に置かれてた両腕が、そっと背中にまわる。
優ちゃんに包まれて、優ちゃんの温もりを感じた。
私は嬉しくて頬が熱くなった。
「優ちゃんがヤキモチ焼いてくれるなんて、嬉しい」
優ちゃんの胸に顔をぎゅっと埋める。
優ちゃんの声が、頭の上から聞こえた。
「10も年上で、独占欲が強くて、理屈っぽい男だよ。それでもいいのか?」
「うん。優ちゃんだからいいの」
優ちゃんのドキドキを感じて顔を上げると、視界が優ちゃんの俯いた顔だけになる。
柔らかい唇が触れ、私の心臓もとくん、と跳ねた。



優太


結を連れて行ったのは、あの神社。
去年、あの約束を俺から言い出したおみくじを結ぶ場所まで歩いた。
結に顔を向けると、分かったような分からないような、微妙な顔をしている。
正直、大人の男のつもりであんな約束を言い出した。
なのに、これから結に言うことはみっともないことだ。
でも、言わずにはいられないんだ。
「結、ここで俺がグダグダ言った約束のことなんだけど」
「うん…私、まだ20歳じゃないよ」
「わかってる。それ、忘れてくれないか。あの約束、チャラにしてくれ」
やっぱり…なんでと顔に書いてある。
俺は結の肩に両手を置いて、言い聞かせるように言った。
「俺が勧めたとおり、結がサークルで楽しんでるのは、写真を見て分かった。だけど…」
「?」
「サークルの仲間だとは思うけど、だんだん耐えられなくなって…」
「耐えられないって、どういうこと?」
「だから、結が他の男と楽しそうにしてるのがだよ!」
「…それって」
「ヤキモチだよ、ヤキモチ!結の世界を狭めたくないなんて言っといて…みっともない有り様だよ」
結が目を見開く。
中学のときから変わらない、ビー玉みたいな目。
それを見たら結がたまらなく愛しくなって、肩に置いた手を、背中にまわした。
「優ちゃんがヤキモチ焼いてくれるなんて、嬉しい」
小さな声で呟いて、俺の胸に顔を埋める。
俺は、なんであんな約束なんて考えたんだろう。
こんな可愛い結が、他の誰かのものになってたかもしれなかったのに。
心配性の大人は、それでもまだ確認したくなる。
「10も年上で、独占欲が強くて、理屈っぽい男だよ。それでもいいのか?」
「うん。優ちゃんだからいいの」
結の言葉に胸がきゅっとなる。
また、こんな気持ちになれるなんて。
顔を上げて潤んだ瞳で見上げる結の唇を塞ぐ。
もう、高校生じゃない。
生徒でもない。
恋人の柔らかい唇を、愛おしむように包んだ。
唇を離すと、結が俺を見上げて言った。
「ずっとずっと、大好きだったんだよ、優ちゃんのこと。ずっと、こうなりたかったの」
「待たせて、ごめん。」
高校の制服を見せた時も、花火大会で泣いてた時も。
いつも俺の気持ちを待っていた結。
ようやく2人同じ気持ちで立てたんだ。
「さあ、行こうか」
「どこへ行くの?」
「とりあえずなんか食べよう。腹減ったよ」
「もうっ優ちゃんが無理矢理連れ出すからだよ」
「ごめん、ごめん。何が食べたい?」
「優ちゃんと一緒だったらどこでも…さっき、ファミレスの前通ったよ」
「じゃ、そこにするか」
「うん!」
指を絡めて、空腹を満たすため、2人歩き出した。














年上のあなたへ⑤約束

2018-08-11 21:56:42 | 書き物




優ちゃんが連れて行ってくれたお店は、イタリアンレストランだった。
広い店内を抜けて案内されたのは、個室。
メニューを渡されて2人になったとき、つい言ってしまった。
「優ちゃん、個室って…こんな気張らなくても良かったのに」
「結も大学生だろう?こんなのを経験してみても、いいんじゃないか」
「うん…ありがとう」
少し緊張したけれど、料理もサービスも素敵だった。
大人扱いされて、丁寧にサービスされてモヤモヤを忘れるくらい、嬉しくて。
忘れたのは、一時だったけれど。



お店を出てそぞろ歩く。
当たり障りのないことを話していても、優ちゃんに聞きたいことが頭に浮かぶ。
駅に向かう途中で、あの神社の前に差し掛かった。
「ねえ、ちょっとここに寄ってもいい?お礼のお参りをしたいから」
「ああ、それいいな。行こう」
2人並んでお参りしていると、去年を思い出す。
制服の私を、そっと包んでくれた…
お参りして石段を降りると、去年おみくじを結んだ場所が見えた。
立ったまま見ていると、優ちゃんが私の肘を取って引っ張る。
「結、ちょっとこっちに来て」
「え、」
私が見ていた場所に引っ張られ、2人向き合った。



「優ちゃん、なんで…」
「結が聞きたいこと、見当はつくよ」
「そうなの?」
「俺から、言っておこうと思って」
何を言われるんだろう。
やっぱり、私はあくまでも生徒…そんなことなのかな…
私をじっと見てから、優ちゃんが口を開いた。
「去年、結に言ったこと、したこと…あれはあのときの気持ちのまま、行動したことだったんだ」
「気持ちのままって…」
「結が好きだから」
「…ほんとに?私はまだ生徒のままなのかもしれないって思ってた…」
「花火大会のときはまだ、自分の気持ちに自信が無かった。でも、去年結の涙を見ていて、気がついたんだ」
優ちゃんがまっすぐ私を見て、言ってくれてる。
でも、にわかには信じられなくて、聞いた。
「優ちゃん…私、喜んでいいの?優ちゃんと両思いになれたって、喜んでいいの?」
「結、俺は…」
「私、初めて教えに家に来てくれたとき、優ちゃんを好きになったの」
「そうだったのか…」
「彼女がいるって知ったから、気持ちを言ったらいけないと思ってた。でも…彼女さんには分かってたみたいで…申し訳なくて」
「そんな、結のせいだけじゃないから」
「それでも…それでも好きって言ってくれるの」
「うん。誤魔化したってしようがない。俺は、結が好きだよ」
「嬉しい…」
涙ぐんだ私の手を、優ちゃんが取った。
「結、でも、提案があるんだ」
「提案…?」
優ちゃんの顔を見ると、すごく言いにくそうだ。
イヤだ。
何を言おうとしてるの?
「結はまだ19歳だよ。俺より10も年下で」
「今更、そんなこと?」
「今、俺に縛り付けていいのかって、まわりを見なくてもいいのかって思ってしまうんだ」
「縛るだなんて。彼女として付き合うのに、そんなことにはならないよ」
「俺は来年30になるんだよ。結婚も考えたい。付き合うなら、そういうこともついてくるんだ」
「結婚…」
「だから。付き合うのは結が20歳になってからにしないか」
「来年ってこと?」
「そうだ。それまでは、サークルに入るなり、クラスの男と友達になったり、色んな人と知り合ったらいい」
「…私が、他の男の人に気を引かれてもいいっていうの」
「色んな人と知り合って、そうなったんならしようがない」
「そんな…」
「とにかく、今結の世界を狭めたくないんだ」
「私はただ、大好きな優ちゃんといたいだけなのに」
「結に後悔して欲しくないんだ」
…もう、何を言ってもムダなのかな。
納得出来なかったけど、結局押しきられた。
優ちゃんに送られて帰ったけど、2人とも言葉も少なくて。
よく、分からない。
私の世界って何?
後悔して欲しくないって。




優太


結から久しぶりに連絡があって、ホッとした。
進学先も決まったようで、本当に安心した。
そうしたら、去年の神社でのこと、俺の気持ちを話しておきたくなった。
連絡が来ない間に、色々考えたことだった。
4ヶ月ぶりなだけなのに、結はすっかり大人に見えた。
制服を着ていないからか。
隣を歩いていると、もう生徒という気は全くしなかった。



食事したあと、ぶらぶらと駅へ戻る。
あの神社に差し掛かったとき、結がお参りしたいと言ったから、今がチャンスだと思ったのだ。
考えていたことを言ったとき、結はすごく不満そうだったけれど…
まだ19の結、これから大学に入って色んな経験をする。
なのに、俺という10年上の男に縛り付けて、いいものだろうか。
結の将来を狭めてしまうような気がして、それでこんなことを言ってしまった。
来年の夏まで、待てるのか。
結の気持ちが変わるんじゃないか。
自分で言い出したくせに、自分の部屋に戻ってから、悶々としてしまった。




5月。
久しぶりに結からのメッセージ。
そこには、大勢の男女との集合写真。
添えられた文には、
「軽音のサークルに入りましたー!」
と、ひとこと。
…男だらけじゃないか。
でも、文句は言えない。
俺が勧めたんだからな。
それにしても、肩に手をかけたりして馴れ馴れしい。
じっと見てしまっていて、ハッとした。
この感情は…結が高校生のときに、バンド仲間のヤツに感じたモヤモヤと一緒だ。
なんてことだ。


8月。
今年は忙しくて、数日間の夏休みは部屋でぐったりして終わった。
そんなとき、また結のメッセージ。
サークルのメンバーと花火大会に行ったらしく、あの青い朝顔柄の浴衣を着た結が写っている。
髪を上げた結は、もう少女なんかではなくて一人前の女に見えた。
そこでまた、肩に手を置く男にモヤモヤする。
俺も大学生のときってこんなだったか?
付き合ってもいない女の子に、こんな風に触れたりしたっけ?
会社で三原さんにこの写真を見せた。
結ちゃんは元気と聞かれたから。
20歳になったら付き合う約束も、突っ込まれてつい喋ってしまった。
全部聞いた三原さんは、呆れた顔をしている。
「いいの、それで?誰かに取られちゃうかもしれないよ。優に取って結ちゃんは、それでもいい存在なの?」
「三原さん、結のこと、どうでもいいと思ってる訳じゃないんです」
「でも、結ちゃんはそう受け取ってしまうかもよ」
「…そうなんですかね…」
「そもそも、妬かないの?こんな男ばっかりのサークル」
「実は…なんかもう、サークルに入ったっていう写真見てからずっと、モヤモヤしてて」
「バッカねえ。そんな約束しないで素直に付き合えば良かったのよ。今からでもいいから、もう付き合おうって言いなさい」
…三原さんの言う通りだ。
俺は大人ぶっていただけなのかも。
でも、今更…
モヤモヤしていても、月日は過ぎる。
結は相変わらずたまにサークルの写真を寄越す。
そこで、気がついた。
いつも同じ男が近くにいる…
結のことを見てるものもあった。
…やっぱり、高校生のときと同じ。
こんなことで、来年付き合うなんて出来るのか。
俺のことなんてどうでもよくなって、結が去って行くんじゃないか。
だんだんハードになっていく仕事。
どんどんネガティブになっていく気持ち。




そうこうしてるうちに、12月。
ようやく仕事も落ち着き、慰労を兼ねた忘年会が開かれた。
職場近くの居酒屋で、同じ課の6人だけだが…
壁際の大きなテーブルに座り、乾杯のビールが配られた。
乾杯!とグラスを合わせて、ふと顔を上げるとちょうど入ってきた、グループが目に入る。
…あれは、結じゃないか。
ストレートの髪を下ろし、明るい茶系のブルゾンに、デニムのスカート。
ずいぶん、シンプルな服になったんだな。
ちょうど反対側の壁際の席についた学生たちは、メニューを見ながらわいわい喋っている。
結の隣には、写真でいつも隣にいた男。
一緒にメニューを覗きこむ2人は、見ようによってはカップルのようにも見えた。
「優、あれ結ちゃんじゃない?」
隣の三原さんに声を掛けられた。
「なに、あれ。くっついちゃって…ちょっと、いいの…あ」
だめだ、もう我慢出来ない。
俺から言った約束だからと思っていたけど、もう限界だ。
「三原さん、俺、」
そこまで言って振り返る。
「いいわよ、行きなさい」
三原さんに、コートを渡された。
鞄とコートを掴み、学生たちのテーブルにつかつかと近づいた。
「あっ優ちゃん!ここで飲んでるの?すごい、偶然!」
笑顔を見せた結の、グラスを持ってない方の手首を掴む。
「結、行くぞ」
「え、行くってどこに?」
「ここを出るんだ。荷物を持って来い」
ぐっと手を引っ張ると、慌ててバッグを手に取る。
周りの学生たちはただ、呆気に取られて固まっていた。
ただひとり、結の隣の男が
「何するんですかっ」
と叫んだけれど、そのまま結を吊れて行く。
「ちょっと!私サークルの忘年会なんだけど!先輩に怒られちゃうよ!優ちゃんだって、忘年会じゃないの!?」
「そんなことは、どうでもいい」
店の外に出ると、繁華街には人が溢れている。
俺はそのまま結を引っ張って歩いた。








年上のあなたへ④大人未満

2018-08-11 21:54:28 | 書き物



年が明けて、入試も無事済んだ。
進学する大学も決まった今、ぽっかりとヒマになってしまった。
去年のあの合格祈願の後から、毎日をバタバタと過ごしてあっという間に本番、合格発表。
ベルトコンベアでバーッと運ばれてしまったようで、何も考える余裕がなかった。
あの神社の夜のことも。


あれから、私から連絡してない。
余裕もなかったし、怖かったから。
こんなに連絡しなかったのは、初めてだ。
本当は、会って聞きたいことが山ほどあった。
なんで、抱きしめてくれたの?
ごめんって何?
なんでキスしてくれたの?
キスのことを思い出して、そっと唇に触れた。
優ちゃんの唇はやわらかくて…
私の唇を摘まむような、キスだった。
心臓が信じられないくらい暴れて、その場に倒れるんじゃないかと思った。
唇を離すと、優ちゃんの両手が私の肩を擦ってくれて、手を取って歩きだす。
何も話さなくて…話せなくて。
歩いているけど、ずっとふわふわしてた。
家の前まで送ってくれて手を振った。
けれど、優ちゃんが遠ざかったらハッて我に返った。
神社での2人は、何だったんだろう。
何が起こったんだろうって。
でも、それからは考えたくても、無理だった。
勉強に打ち込まなきゃいけなかったから…
自分の部屋に籠っていてもしようがない。
ベッドに転がっていた体を起こし、買い物にでも行こうと思った。
でも、その前に。
一応、進学先くらいは優ちゃんに知らせておこう。





地元の駅から五駅過ぎると、大きなターミナル駅。
デパートがあって、駅チカのショッピングモール、居酒屋が集まってる繁華街もある。
それに…優ちゃんの会社。
あの、神社も。
通学用の服でも見ようかな。
そう思って、ショッピングモールの方へ足を向けたとき。
「優の生徒さんの結ちゃんだっけ?久しぶりね」
振り返ると花火大会のときの…
「三原さん…?」
「そうよ、覚えててくれて嬉しい!」
駅前の人が行き交う広場で、思わず手を取り合った。
「ね、これから買い物?良かったらちょっとお喋りしない?」
「ほんとですか?します、します」
明るくてサバサバした三原さんと、また会えたのは嬉しかった。
三原さんと入ったのは、モールの5階にあるカフェ。
ファッションメーカーが経営するカフェで、内装、メニュー、働いている人達の制服…どれをとってもお洒落。
だからか、客の殆んどが女性だ。
テーブルに運ばれてきたふわふわのパンケーキを前にして、私達は色んなことを話した。
「結ちゃん、今年大学生だよね。すっかり大人になったね」
「はい、花火大会のときは、まだ高2だったので…」
「もう、行く学校決まったんでしょ?」
「決まりました。もう、ほんとホッとしましたよ~」
「おめでとう~そうよね、解放されてホッとするよね」
ニコニコして話を聞いてくれる三原さんは、長い髪をふわっとまとめていて、ナチュラルメイクが似合ってる。
大人でキレイな人だけど、サバサバしていて何でも話せる気がした。
…三原さんなら、このモヤモヤを聞いてくれるかも。
優ちゃんの言葉の意味も。



花火大会の時の事情。
初めて家庭教師に来てくれた優ちゃんを、好きになったこと。
でも、彼女がいるのを知ったから、せめて生徒としてメッセージをいれてたこと。
なのに、自分のことが原因で別れたと聞いたこと…
「優ちゃんと彼女さん、結局私のことが原因で別れたみたいで…それがショックだったんです。でもそれよりショックだったのは、優ちゃんが私の好きな気持ちを、違うよねって言ったことで…」
もう去年のことなのに、思い出すと鼻の奥がツーンとしてくる。
「やっぱり、迷惑なんだって悲しくなって。やけになって、好きってこと、言っちゃったんですけど」
「それで?優はどんな反応をしたの?」
「そーっと肩を抱いて、泣きながら言わせてごめんって…それで…」
「あ、もしかして」
「…はい…」
それを言った途端、三原さんがバタバタテーブルを叩いた。
「三原さんっどうしたんですか?」
「も~優ったら正直なヤツ」
「え?どういう…?」
パンケーキを食べていたフォークを置いて、三原さんに聞いた。
「結ちゃんに取ったら、あくまでも先生のスタンスだった優が、そんなことしてきてビックリだったんじゃないの」
バタバタを、やめて優しく私を見て言ってくれる。
「そうなんです…なんだか、聞きたいことだらけで…」
「きっと優の中ではまだまだ子供だと思ってたのね、結ちゃんのこと。だから、花火大会の時も結ちゃんの告白にも心がぐちゃぐちゃになったんだよ。それで、本能的に自分に正直になったんじゃないの。きっと優にとっては、結ちゃんは特別な存在だと思うよ」
「そう…なんですかね…」
「聞きたいことは、優に直接聞いたら?あ。」
「どうしたんですか?」
「そろそろ合格したか分かるはずなのに、連絡来ないって寂しがってたわよ」
「そうだったんですね。私、ちょっと意地になってたかも…でも一応、進学先は知らせました、さっき」
「さっき?そっか。これから、結ちゃんから連絡取ってみてもいいんじゃないの」
「そうですね…学校始まる前に連絡してみます」
連絡来なくて寂しいだなんて。
だったら、優ちゃんからくれればいいのに。
不貞腐れた気持ちになったけれど、三原さんと色々な話が出来たのは良かった。
外に出たら、もう夕方。
モールの前で三原さんと別れて、駅ビルで服を眺めてぶらぶらする。
服、欲しいけど迷うなあ。
結局、七分袖のシャツを買って店を出たときに、スマホが震えてるのに気づいた。
…優ちゃんから、メッセージだ。
私が、進学する学校を知らせたからかな…
近くのベンチに座って画面を見る。
それは、意外な誘いだった。
え、進学祝い?今日、今から?
待ち合わせに指定された時間までもう、一時間もない。
行きますとだけ返事をして、待ち合わせ場所に向かった。



待ち合わせ場所の駅前に着いたら、もう優ちゃんが立っていた。
「優ちゃん!」
4ヶ月ぶりの優ちゃんは、ちょっぴり疲れてるように見える。
「結、急に呼び出してごめん。週末の方が都合が良いかと思って」
「気にしないで。出てたからちょうど良かったの」
「進学祝いと思って、いい店を探してみたんだ。行こう」
優ちゃんのそばにたつと、神社でのことを思い出す。
…ここで聞いてもしようがないよね。
優ちゃんと並んで、歩きだした。