JRと私鉄は駅名の外国語併記の際、日本語の発音/呼称を表わさない中国漢字を使うのではなく、表音文字ピンインで表記すべきだ

駅名の外国語併記に中国漢字が使われている。しかし中国漢字は日本語の音を消してしまう。この大欠点をなくす代替策を提言する。

中編その2 日本語音を消してしまう中国漢字は駅名の外国語併記に使うべきではない

2023年11月25日 | 社会問題
第6章:中国漢字による駅名併記がもたらす残念な現実

駅名併記の現状を見てみよう。例えば東京の原宿駅では”原宿”という簡体字が使われている(この場合日本漢字と同じ)、これでは中国語話者は [ yuansu 2声と4声] としか読まない。 小田原駅は [ xiaotianyuan 3声と2声と2声] のように発音されることになり、池袋駅は [ chidai 2声と4声] と読まれてしまう。
同じ併記駅名であるラテン文字駅名とハングル駅名に比べると、この現状は見過ごせません。
なお駅という日本漢字は簡体字では 站 という字体で表記される、このような漢字字体の違いのことはここでは当テーマから外れるので、この場ではそのままにしておきます。

当ブログ前編に載せている【はじめに】の中に、ほとんどの日本人が認めるであろう大前提を掲載しています。この場でそれを再掲載しますので、確認してください。
「駅名の外国語併記の主目的は、第一に鉄道やバスに関して外国人利用者の便宜を図る、利用を助ける、ことであり、第二に外国人利用者に日本語での駅名を、正確ではなくてもいいからできるだけ知ってもらう、そのように発音してもらうことにある、と理解してもいいでしょう。」
この2つは他言語(外国語)による駅名併記をするレゾンデートル(存在理由)となっている。
なお、それでも第二の点に疑問を呈する人がいるかもしれませんので、傍証をあげておきます。


第7章:駅ナンバリング方式を考える

現在、首都圏の JRの駅には数字と記号を組み合わせた駅番号が付けてありますね。JR東の2016年4月付け公告をネットで探した。以下はそれからの引用です:
訪日外国人旅行者の方をはじめ、すべてのお客さまによりわかりやすく、安心して鉄道をご利用いただくために、首都圏エリアへ「駅ナンバリング」を導入します。多くの路線が乗り入れる駅については、それぞれの路線記号や駅番号とは別に、アルファベット3文字からなる「スリーレターコード」を表示します。 ー以上で引用終わり。

例えば新宿駅は SJK(コード)及び JY17(路線記号と駅番号) と付けてある。仮に駅名の日本語の発音が大して意味を持たないのであれば、ラテン文字などによる複数言語・文字併記を止めて、外国人向けには全てこの駅ナンバリング方式に統一した方が、すっきりし且つ効果的なはずだ。
しかし駅ナンバリング方式実施から7年近く経った今でも、複数言語併記は変わらず表示されている。

一体鉄道・バスの外国人利用者はどの程度駅ナンバリングを参照しているのだろうか?  どう考えても、外国人の間ではもっぱらラテン文字やハングル表示の駅名の方を参照・利用している割合がずっと高いだろうと推測される。駅ナンバリングだけを参照する外国人乗客もいるだろうが、少数派だと推測される。

なぜなら人は無味乾燥なこの種の数字記号よりも、馴染んだ自国の地名の調子とは異なるために覚えにくいが、それでも具体的な地名の方を好むからです。こういう好み・傾向はどの国の人たちでも変わらないとみなしてよいだろう。
だからこそ、具体的な駅名における、日本語風の発音が大切なのです。

〈ラテン文字表記の駅名を読む場合〉
ラテン文字表記を見て、各外国人はそれぞれの母語に備わったアクセント、音韻を反映しながら発音するまたは頭の中でその音を確かめるのだ。

当ブログの【序論】に書いたように、駅名に併記されたラテン文字の読まれ方においては、日本人が期待するようにはまず発音してもらえない。しかし外国人が読む際に基となる音は日本語音であることから、彼らの発音はその日本語音と全く違った別音にはならない。

日本語を知らない外国人によるラテン文字の読まれ方に関しては、当ブログ開始と同時に掲載した【序論】の中で、多くの例をあげて細かに説明してありますので、是非ご覧ください。

〈ハングル表記の駅名を読む場合〉
ハングル表記の場合はラテン文字表記の比べてより日本語音に近く発音される、なぜなら【前編】に書いたように、ハングルは音を写す点で好適な表音文字であり且つハングルを使うのはほぼ韓国・朝鮮人に限定されるからだ。ハングル駅名を様々な外国人が読むことはない。
【前編】の第1章で、「このことを是非覚えておいてください。」とIntraasia は書きました。そのことは今ここで中国漢字との比較をする際になって、より意味を持つのです。

〈中国漢字で表記の駅名を読む場合〉
一方、簡体字と繁体字で併記された(翻字した)駅名の場合はそうはなりません、つまり日本語音のようには発音されない。翻字された駅名の発音は日本語音とはかけ離れた音になってしまう場合が圧倒的に多い(中には似た音になる駅名もあるだろうが、その割合は非常に低い)。

一般論として、簡体字や繁体字で駅名を翻字することは”地名や氏名や固有名詞における原音の尊重”という原則が失われてしまうのだ。駅名併記に中国漢字の使用を決めた決定権者らは自ら原音尊重を放棄した、これは問題視すべきだと Intraasia は主張します。

〈補助的手段として駅ナンバリングの有用さ〉
なお駅ナンバリング方式が無駄だということを Intraasia は説いているのではない。駅ナンバリングは補助的手段としては良い試みだと思う。例えばスマートフォンの検索で、駅ナンバリングの記号番号を打ち込んで検索するような場合は駅ナンバリングが便利であろう。
また駅名を覚えたり識別する方法として、具体的な名称の頭に駅ナンバリングを付けて覚えるまたは区別する、といった利用法もあるだろう。例えば "JY02 Kanda" (山手線の神田駅)、 "G13 Kanda"(銀座線の神田駅)、

だから駅ナンバリングは外国人の間で今後も鉄道利用における補助手段として使われていくことでしょう。もちろん日本人利用者の中にも、駅ナンバリングを使う人たちはいることでしょう。そこで駅ナンバリングのことをもう少しだけ論じます。

〈駅ナンバリングに関して補足〉
渋谷は東京の有名地の1つですね。幾つもの路線が交差し且つ駅名は同じだが路線によって駅の場所が異なる、渋谷駅を例にする:「明日夕方6時に半蔵門線の渋谷駅の南口改札前で会いましょう」、日本人は一般にこのように言うと思われる。
しかし都内の地理や路線に慣れていないまたはその知識がごく少ない外国人の場合なら、「・・・・Z01 Shibuya の南口改札前で・・・・」と表現した方が、互いに分かり易いと考えられる。

ちなみに渋谷駅には幾つもの「駅ナンバリング」が付与されている:JY20 山手線の Shibuya駅、JA10 埼京線の Shibuya駅、JS19 湘南新宿線の Shibuya駅、Z01 半蔵門線の Shibuya駅、G01 銀座線の Shibuya駅、まだ他にもありますが省略。

なお、東京メトロや首都圏の大手私鉄でも駅ナンバリングを採用している(首都圏大手私鉄の全ての社までは調べていないので、”全て”の表現は控える)。

ところで、京阪神など他の大都市圏でもこの駅ナンバリングを取り入れたところがあるのだろうか?
こういった情報なら知っているよという方は、気が向かれましたら、当ブログのメッセージ機能を利用して情報提供していただければありがたいです。

このブログの目次をここに掲げておきます。
目次
序論 新しくブログに掲載する作品のテーマを導く
前編 はじめに、 第1章、
中編その1 第2章、 第3章、 第4章、 第5章、
中編その2 第6章、 第7章、 第8章、
中編その3 第9章、 第10章、 第11章、
後編 第12章、 第13章、 第14章、 おわりに、

2023年12月末の注記:ブログは新しい記事が先の記事の上に掲載される、つまり古い記事ほど下方になる仕組みだ。しかし当作品は1冊の本を模して書いてあるので、それでは読みにくい。そこで今回上記の目次の順序になるように、それぞれの編を入れ替える/ 移すことにしました。

第8章:駅名併記に用いる文字種は表音文字であるべきだ

傍証及び駅ナンバリングの件は終えて本題に戻ります。
駅名併記の文字についてまとめておこう。ラテン文字は日本語音を、地名によって差はあるが、かなりの程度正確にから間違われない程度に似ているまで、示すことができ、現実に外国人からそのように発音されている。

ハングルが日本語音を写す点での長所を持っていることは既に前編で述べた。

参考として:韓国語で使われるハングル文字についてまとめて書いたのは、Intraasia が主宰するツイッターの言語シリーズ【いろんな言語のこと、あれこれ】の第90回(2019年2月17日)から第110回(2019年3月9日)頃までです。

〈音を写す点では一般に表音文字が向いている〉
ラテン文字とハングルの両文字体系は表音文字である。一般に音を写すという点では、表音文字の方が表意文字より適していることは明らかだ。
表音文字の別の例として、ヒンディー語で用いられるデーヴァナーガリー文字で日本地名を書きます。便宜的にカタカナによる発音表記も付記する:
कगोशिमा カゴーシマー、ओसाका オーサーカー、 सेंदाइ センダーイ、 नेमुरो ネムロー、

上記の地名は漢字では 鹿児島、大阪、仙台、根室の順です。ヒンディー語の音韻体系に沿って時に短母音、時に長母音にしているが、日本語音をかなり忠実に写していることがおわかりでしょう。デーヴァナーガリー文字は表音文字の中でもより音を写しやすい文字だと言ってもいいだろう。

なお表音文字はすべからく他言語の音を良く写して駅名の併記に向いている、ということには必ずしもならない。【序章】ではアラビア文字を例に出してその向いていない理由を説明した。

中国漢字は簡体字も繁体字も表意文字である(むしろ表語文字と呼んだ方が良いが)。だから既述したように、日本漢字の音を写すことにはまったく不向きで不適である。
この第8章の記述内容は最重要点です、みなさん、是非注目してください。

〈表音文字のピンインは日本語音を写しやすい〉
中国漢字には”ディスコ”を”迪斯科”と表記するような音訳方式もある、発音は [ dí sī kē ]なので音がよく似ている。しかし現代中国語では意味を取って訳す方式の方が多いそうだ。例:インターネットは 网络 [ wǎngluò ]、コンピュータは 电脑 [ diànnaǒ] 、

結論的に言えば、中国語・華語による日本語地名の音訳は、”迪斯科”式の意味のない中国漢字の羅列よりも、ピンイン(拼音)を使った方がスッキリしてはるかに分かり易い。
なにせピンイン(拼音)は漢字と違って表音文字なのです。
中国語・華語話者に日本の駅名を日本語音で知ってもらう、できるだけそのように発音してもらうには、まさにピンイン(拼音)こそ好適、好都合だ。

前編や中編その1で細かに書いたことの要点をここに掲げましょう。

1. そもそもピンインは中国で半世紀以上前に考案されてその後中国全国に普及した。さらに今や東南アジアの華人界における華語教育でもピンインは圧倒的に教えられているのだ。
台湾人にとってのピンイン(拼音)はどうなのかを、学者・専門家の書籍から引用しておきます:「台湾では伝統的に発音表記にはカタカナに似た注音符号を使っていますが、近年はローマ字表記に大陸と同じピンイン方式を採用しています。」ー 白水社刊 池田巧著『中国語のしくみ』2014年発行から。

2. JRと私鉄の駅名を外国語併記するに際して、中国語・華語の場合はピンイン(拼音)を用いない手はない、いや是非使うべきである。
「ピンインは1977年以来中国語の正式なローマ字表記法として世界的に公認され」ています。

3. そこで上記の駅の例でいえば、原宿は[ ha la ju / zhu ku] 、小田原は [ ou da wa la] 、池袋は [ yi gei / kei bu ke lo] のようにピンイン(拼音)で綴っておけば、それなりに日本語音に近く発音されることになる。

4. なお中国語・華語による駅名併記において、最終的に各駅名をどのようなピンイン綴りにするかは日本人の中国語学者・専門家に決めてもらう。

「最終的に各駅名をどのようなピンイン綴りにするかは中国語専門家に決めてもらう」と書いたのは、日本語単語の音をピンインで写す(音訳する)際、多少のゆれが起きるからだ。そこで日本地名の最も適当と見なせるピンイン綴りは専門家に委ねるということです。

〈ピンイン化するのは駅名だけ〉
誤解なきように念を押しておきます。ピンイン(拼音)化するのは、駅名だけである。鉄道や駅の案内・説明文や注意書きにはもちろん、中国語・華語を用いる。 中国語・華語話者に鉄道や駅からの伝えたい情報・意図を分かってもらうためですから。

中編その3に続く


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中編その3 大多数の中国人と華人に馴染みのあるピンインは駅名の外国語併記に向いている

2023年11月21日 | 社会問題
第9章:地名をわざわざ中国漢字化して、日本語音を消してしまう理不尽さに気がついて欲しい

〈駅名から地名の由来を知ってもらう必要はない〉
中国語・華語話者に駅名の文字が意味するものを知ってもらう必要はない。例えば東京都にある赤羽(駅)の場合、その漢字の意味は赤い羽根だが、単に漢字の意味が分かっても仕方がない、その漢字がどういう経緯で地名となったとか、地名とのつながりがわからないからだ。

つまり地名の由来は書かれた漢字からだけでは分からないことが非常に多い。そもそも一般に地名の由来など圧倒的大多数の日本人だって知らないし、交通機関利用者がそれを知っておく必要性はない。知りたい人は地名由来に関する本を探して読めばいいのだ。

〈ひらがな地名を中国漢字化するのは愚かな行為〉
地名には種々ある。漢字を音読みした地名、訓読みした地名、当て字の地名もある。またひらがな地名は近年増えたそうだし、カタカナ地名はもう珍しくない。駅名は当然、地名の呼ばれ方を反映している。
だから漢字をどう発音するかは大事ですね。日本文字を知らない外国人にとってはひらがな/ カタカナ地名も翻字する必要がある。その際、ラテン文字とハングルは日本語音を表記する(つまり音訳している)ので問題は出ない。

一方繁体字と簡体字を使うことはひらがなをわざわざ中国漢字化することにもなる。その結果、発音される音がひらがなの音と全く異なってしまう、要するにひらがな駅名が全く別音の駅名になってしまうのです。駅名の中国漢字化は愚かな方法と評するしかない。

例をあげる。さいたま新都心駅は地方自治体のさいたまを反映した地名だろう。簡体字版の路線図では”埼玉新都心”と書かれている。地名がひらがな音そのままなのに、わざわざ漢字化した中国漢字はそれを全く反映しないのだ。発音はピンイン表記で [ qíyù xīn dō xīn ]です。”さいたま”を [ qíyù] と発音されてはまるでどこか別の地みたいだ。

一方ラテン文字とハングルで書かれた併記駅名を読む諸国の外国人と韓国・朝鮮人は、まがりなりにも[サイタマ] と日本語音で発音するのです。

わざわざ中国漢字化して日本語音を消してしまうというこの理不尽さに、JR と私鉄の日本人利用者の大多数は気がついていないのでしょうか?
Intraasia が”理不尽”ということばを使ってこのことを批判する背景と根拠は、当ブログをこれまでお読みになってきた方々ならもう既にお分かりになることだと思います。

ひらがな地名のことを続ける。北海道のえりも町は現在ではひらがな名の自治体だ。鉄道路線は通っていないがこの地名を付けたバス駅(バス停)名があるので、それを繁体字化すると 襟裳 となってしまう。その場合中国語・華語音では [ jīn shang ]と発音する。

宮崎県のえびの市もひらがな名の市だ。調べるとJR線が通っている。地図に載っているえびの駅という駅名は自治体名を反映してひらがな綴りだ。”えびの”が付いた駅は3つある。これらも中国漢字化によって、駅名から[エビノ]という日本語音が消えてしまう。

茨城県のひらがな名の自治体である”つくば市”には鉄道が通っており、そのつくばエクスプレスの終着駅がつくば駅だ。つくばエクスプレスも自治体もつくば駅と表記しているのに、エクスプレスの簡体字版はわざわざ 筑波 と漢字に戻している。
当然 [ツクバ] という発音は消えてしまい、中国語・華語音の [ zhù bō] という音になってしまう。
ひらがな駅名は駅名併記に中国漢字を使うことの愚かさを如実に示す例にもなっている。
ちなみに「つくば」の中国語・華語による併記名称において、ピンインを用いて [ci ku ba]と綴れば、その音はひらがな音にかなり近づくのです。

注意:再度念をおしておきます。 この場で頻出している [ ] 内は、要するにピンインで綴る発音記号ですから、決してローマ字読みしてはいけません。必ずピンインで定める読み方規則に従って発音しなければならない。ピンインを習ったことのない日本人が「おかしな音」だと苦情を呈してもそれは的外れです。

〈漢字を使ったからと言って地名の由来がわかるわけではない〉
姫路、弘前、千葉など使われている漢字からだけでは、地名の意味や由来がほとんどまたはよくわからない地名はごまんとある。例えば、弘前市は弘前藩の名から取ったと推測されるが、その弘前という地名の由来はなんだろう?

「外国人向けにラテン文字綴りで、Himeji, Hirosaki, Chiba と表記する(翻字する)ことでは字の意味や背景が伝わらず不十分だ。しかしながら漢字文化圏の、せめて中国人と台湾人向けだけには中国漢字に翻字しておきましょう」というのが、恐らく駅名に簡体字と繁体字を併記することを決めた側の言い分であろう。

皆さん、この奇妙な論理に気がつきませんか? 日本人にとって漢字そのものの意味は大体またはかなり分かる、しかし駅名は漢字自体の意味から離れて地名を基にしていることが普通であり、他にはその地にある施設名などを駅名に付けているのだ。
一般に、その漢字を組み合わせて現在では地名となっている由来や背景が、別の表現を使えばその漢字がどういう経緯を経て地名となったかが、おいそれとはわからない地名はたいへん多いのだ。

確かに地名の意味や由来を知る上で漢字は重要な要素である。反面、特定の漢字を選んで地名とした理由、すなわち地名の由来や背景が分からない地名の方が、わかる地名よりはるかに多いということも事実である。
ある駅を利用する人たちの間で、漢字を読み書きする日本人の利用者の一体どれくらいの割合が漢字綴りと地名のつながりを知って駅を利用しているのかな?

当ブログの目次をここに掲げておきます。
目次
序論 新しくブログに掲載する作品のテーマを導く
前編 はじめに、 第1章、
中編その1 第2章、 第3章、 第4章、 第5章、
中編その2 第6章、 第7章、 第8章、
中編その3 第9章、 第10章、 第11章、
後編 第12章、 第13章、 第14章、 おわりに、

2023年12月末の注記:ブログは新しい記事が先の記事の上に掲載される、つまり古い記事ほど下方になる仕組みだ。しかし当作品は1冊の本を模して書いてあるので、それでは読みにくい。そこで今回上記の目次の順序になるように、それぞれの編を入れ替える/ 移すことにしました。

第10章:駅名表記を表音文字ですることは利便性を高める

このような実状を確認したうえで、結論づけて言いましょう。訪問者としての外国人や日本語の文字体系を知らない外国人在住者が、駅名併記の表記文字として、ラテン文字、ハングル、ピンイン(この3つはいずれも表音文字で且つ日本語音を写すのに向いている)を通して、駅名を知る、発音することは、彼らにとって大きな利便性がある。日本人にとっても彼らが駅名の日本語音を不十分ながらも知る、発音することは望むところであり且つ歓迎すべきことなのだ。
今ここで書いていることは当作品における根幹の1つです。

駅名に使われる地名の中には、多くはないが、文字から由来が簡単にわかる場合ももちろんある。代表的な例である東京は、”東の京または都(みやこ)”であることは漢字の読める人ならほぼ推測がつくでしょう
東京(駅)を例にとる:日本語名に併記して、Tokyo (ラテン文字)、东京(簡体字)、東京(繁体字)、도쿄(ハングル)と書いてある。
中国漢字の音をピンインで表すと [dōng jīng] となる。[dōng jīng] をあえてカタカナで音を表せば [ドンジン](無気音+無気音)だが、実際の音はそのカタカナを発音する際の音とはかなり違う。既述したように、ピンインは中国語の音韻体系に基づいているからです。

3番目の繁体字は簡体字と同じ発音だ。4番目ハングルの発音は大よそ [トキョ]となる。東京のような地名は誰だって知っているはずだから、事前知識として”東の京 / 都”ということを知っている外国人もいるかもしれない。ただしこの地名は稀有な例ですね。

この例でもわかる様に、ラテン文字とハングルは[トゥキョゥ] という日本語音を基にして表記されているのに、簡体字と繁体字は中国語音を基にしている。だからこそ中国漢字を使わずにピンインで日本語音を写す形で、例えば [ tou ke you]の様に表記すべきだ。

〈駅名の漢字を知りたければ日本漢字を眺めれば十分である〉
現代の圧倒的大多数の中国語話者は、中国と台湾を問わず、漢字が読める。なお華語を話す東南アジア華人の場合は事情が異なる。
だから中国人と台湾人と香港人は、日本漢字から容易に意味を推測できることになる。

ただし次の点を強調します:中国漢字と日本漢字の間には、文字の意味及び使われ方が異なることは決して軽視できないほど普通にある(生じる)ので、”意味の推測がいつも正しいという保証は全くない”。特に文章の場合、単に漢字の知識だけでは日本語はきちんと理解できない。逆も真なりで、日本人にとっても漢字知識だけで中国漢字の文章がきちんと理解できる場合は大変と言えるほど少ない。まして精度の高い翻訳などほぼ無理だ。以上は強調すべき点です。

とにかく中国人や台湾人、及び華語の読める華人は、駅名に繁体字または簡体字が併記してなくても日本漢字が使われていることから、どうしてもその併記された駅名の漢字(そのもの)が知りたければ、日本漢字を眺めればそれでかなり事足りるのです。

何らかの理由で駅名の中国漢字への正確な変換を求める人には不十分かもしれないが、そもそも交通機関利用者に対してそういうことは始めから想定されていない。探求したい外国人は日本漢字と中国漢字の対照表を参照すべきです(スマフォのアプリにこの種のものがあるようだ)。


第11章:駅名はまず第一に、実用的であらねばならない

あらためて言明します。駅名は第一に実用的であり、そうあらねばならない。そして存在する理由の九割位は実用のために存在するのだ。

〈駅名のラテン文字綴りはまさに実用的なことに価値がある〉
この駅名が実用的であることについて、もう少し論じましょう。
駅名併記に用いられている文字種の面で、駅名併記のあるほぼ全てでまずラテン文字(日本式ローマ字または英語風ローマ字)が使われている。駅名併記の普及率からみて、現行の中国語漢字と韓国語ハングルによる駅名併記はラテン文字に比べてまだぐっと少ないだろう。

当ブログ作品の初め頃に書いたことだが、中国漢字とハングルが駅名併記においてどの程度全国的に使われているかを知りたいものです。
こういった情報なら知っているよという方は、気が向かれましたら、ブログのメッセージ機能を利用して情報提供していただければうれしく思います。

駅名としてラテン文字を読む外国人(旅行者であれ、在住者であれ)の大多数は日本漢字とひらがなとカタカナはわからない。だから彼らが駅名に使われた地名に関して、文字から得られるかもしれない背景がわからないのは当然だ。
何よりも駅名にラテン文字を併記していること自体、外国人に地名の意味や由来を知ってもらうことを最初から放棄している。実用第一である駅名だから、それでいい、それで充分なのです。

我々日本人利用者だって、駅名に使われている地名からその背景や由来を推測できない駅名の方が圧倒的に多いはずだ。要するに、駅名とはまず利用者にとって、及び交通機関側にとって、実用面が最大の存在意義を持つ。

どの駅の地名にも歴史的背景とか文化的背景はあるが、この際それはほとんど重要視されない。当然ですよね、駅名を使うのに、いちいち歴史的背景とか文化的背景を知る必要性はない。実用第一なのだから。駅名の利用者が外国人であっても、この原則は当然適用される。だから併記にラテン文字が使われていることは、実用面から好ましいことになる。

併記にラテン文字が第一選択として且つ圧倒的に使われるのは、ラテン文字が世界で一番普及している文字種、ということが最大の理由ですね。

韓国、朝鮮は漢字文化圏に属する、しかし両国とも既にハングル文字を書記体系に取り入れて久しく、漢字はもはや必須ではなくいわゆる教養の範疇に属すると、捉えてもいいようだ (これは読んだ知識であり、実際に見聞したわけではないが)。
表音文字ハングルからは駅名の背景はわからない。日本を訪れる韓国人が、駅名に併記されたハングルに異論あるはずはなかろうし、実用上それが一番適している。

〈駅名併記に中国漢字を決めた人たちの思考の背景にあること〉
では同じ隣国である中国と台湾の人たち向けだけに、なぜわざわざ中国漢字を駅名併記に使っているのだろうか? 駅名併記の言語と文字種を決めた、ごく少数の権限を持った人たちは、駅名併記のラテン文字とハングルを読む人たちに駅名の背景や由来などを知ってもらう、推測してもらうことを最初から考えてもいないのにもかかわらずだ。

そして、JRの駅名併記のあり方を知った各地の私鉄や、地下鉄などを運営する公共企業体の中には、単純にJRに範をとったところが多いのではないかと、推測される。一方 JRに範をとらなくて独自の判断で中国漢字の併記を決めた私鉄、地下鉄もあるだろう。
しかしこの種の決定をした人たちの頭には、ピンイン(拼音)の利点が浮かばなかったか、ピンインの内容をよく知らなかったと思われる。加えてそういう人たちは、”中国、台湾だから即漢字を使う”という固定観念が働いたことは Intraasia の想像に難くない。

これらの根底にあるのは、一部の日本人の中にある奇妙な漢字文化圏の重視意識または一体感であろう。駅名という最も実用面が大切である表記にさえこういった観念・意識を当てはめて、中国と台湾は漢字国だから駅名にも漢字を使うべきだ、と信じ込んでいる。

文化としての漢字圏を考えることは大切なことだし、Intraasia も少なからず興味ある。しかし繰り返すが、駅名の存在意義は何よりも実用面である。日本人は感傷的ともいえる漢字の呪縛から解き放たれて、駅名併記を素直に実用面から捉えることが必要だ。

< ちょっと休憩、コラム>
読者の方たちから誤解されたくないので書いておきましょう。Intraasia は”反中国漢字意識”などは全く持っていない。Intraasia は1980年代前半の数年間、ラジオの中国語講座を聴くことで初めて中国語学習をした。その際簡体字と発音は覚えたが肝心の中国語の方は使えるにはほど遠いレベルに終わった。
その後1990年代に入ってマレーシア移住時代、華語新聞を読むために華語 /中国語を独習して、なんとか読めるレベルを目指した。『マレーシアの新聞の記事から』ブログにおいて、華語新聞から自分が訳せる程度の記事を選んで、そのサイトに頻繁に掲載して、10何年間続けた。
なお『マレーシアの新聞の記事から』は、Intraasia が3種の言語の新聞を翻訳して毎日更新していたブログです。

後編に続く
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