JRと私鉄は駅名の外国語併記の際、日本語の発音/呼称を表わさない中国漢字を使うのではなく、表音文字ピンインで表記すべきだ

駅名の外国語併記に中国漢字が使われている。しかし中国漢字は日本語の音を消してしまう。この大欠点をなくす代替策を提言する。

序論  新しくブログに掲載する作品のテーマを導く

2023年12月30日 | 駅名の外国語表記
新しくタイトルを付けて掲載する作品につながるお話

〈中国人旅行者の発した行き先の発音を考える〉
はっきりいつ頃だったかは思い出せませんが、恐らく2000年代前半か中頃のことではないだろうか、Intraasia は日本を訪れた時にJRや私鉄の駅名に中国語・華語と韓国語が併記されていることに気が付いて、ちょっと意外な思いを感じました。
当時の Intraasia はマレーシア居住(移住)時代であり、時たまごく短期間だけ日本を訪れていた。Intraasia は日本国外に居るとき、日本語のニュース類や記事は、印刷されたものであれネットに載っているものであれ、昔から全く読まないので、日本事情には疎いのです。

駅名の中国語・華語と韓国語併記に関して、その後マレーシアでの移住を終えて去るまで、正直言ってほとんど考察したことはなかった。日本に2010年代中頃から再度住むようになって駅を日常的に使うようになると、中国語・華語の併記に何か違和感を覚えるようになった。

そのことをもっとよく考えるようになったのは、何年か前に(2010年代後期のこと)成田空港で見かけたある出来事がきっかけになった。空港から東京駅へ向かう格安バスに Intraasia が乗り込み座席で発車を待っていると、2人連れの中国人女性が乗ってきた。
彼女たちは運賃前払いに対応する運転士に向かって「yinzuo, yinzuo」と何回も言っていた。運転士は最初少し戸惑ったようだったが、すぐに言っている意味が分かったらしい。yinzuo [インツオ] とは漢字で書くと銀座だ。注:発音のカタカナ表記はあくまでも便宜的です

このバスは東京駅を経由して銀座へ行く。バス停の行き先に、「銀座」に併記して簡体字で「银座」と書かれていたかどうかは覚えていないが、今 Intraasia の手元にある同バス会社発行の紙の時刻表にはちゃんと簡体字、繁体字、ハングルでの停留所名が併記してある。

この2人組女性は、その発音と振る舞いから間違いなく中国人であった。Intraasia はその長年の東南アジア生活経験から、東南アジア華人はこういう発音と振る舞いはまずしないことを知っている。つまりこの2人組は銀座を中国語でまたは中国語として読んでいるわけだ。
格安バスの性格から、中国人旅行者や韓国人旅行者の利用が少なくないことは容易に推測できる。だからそのバス運転士は中国人乗客によるバス停名呼称をそれまでにも何度も聞いたことがあり、その発音の意味を察した、と Intraasia が判断しても間違いはないだろう。

付け加えておく。東南アジア華人の華語と中国人(台湾人については後日触れる)の話す中国語(普通語)は、書記すれば同じ言語だが、その発音などに両者間で微妙に違いがあり、聞き慣れた耳なら、彼らは中国人だろう、いや東南アジア華人だろう、と推測がつく(断定ではない)。

では中国人旅行者は、なぜ銀座を「ギンザ」と呼ばずに「yinzuo」 と呼ぶのか? もちろんそのバス停行き先名にはラテン文字綴りで "Ginza" と併記してある。このような日本語駅名にラテン文字綴りを併記することは首都圏のほとんど全ての駅で昔からほぼ同様であろう 。

ローマ字が外国人にどのように発音されるかの説明

〈駅名のローマ字綴りの読まれ方は様々である〉
駅名のラテン文字綴りは、一般にローマ字綴りと呼ばれているが、英語綴りを模したものも混じっている。だからラテン文字綴りには、日本式のローマ字綴りもあれば、書いた人が英語ではこう綴るはずと思った”英語を模した綴り”もある、と言ってもいいだろう。
要するに、英語の母語話者と非母語話者を問わず、とにかくある程度以上に英語を解する外国人向けに、駅名やバス停名に関して、できるだけ日本語風の発音を知らしめるまたは日本語風に発音して欲しいという期待を、ラテン文字綴りには込めているわけだ。

ここで強調しておくことが1つある。駅名のラテン文字綴りを日本人が期待するように、外国人が発音してくれる保証はまったくない。なぜなら、かなり多くの人は各自の母語の影響を多分に受けて、その母語の発音規則・慣習によってラテン文字を読むからだ。
注:上記では”母語”であり、”母国語”ではない。人はまず母語の影響を受けるまたは残しているからです。母語と母国語をきちんと区別することは必須知識です。

例えば多くの欧州言語話者には、母音と母音の間に挟まれた子音は一般に有声音で読むという規則・慣習がある。例:駅名の恵比寿 Ebisu や大崎 Osaki の s は[ズ]と濁って読まれる可能性が高い。なお確実に [ス] の発音を得る綴りにするには "ss" と s を重ねる方法がある。

何語かの声調言語の母語話者であれば、他言語を発音するときその声調がある程度残るか感じられるのは当然だろう。そこでタイ語話者は日本地名の発音でア行やエ行やオ行の母音を長母音化することが珍しくないだろう、例:品川を [ซินางาวะ シナーガーワ] 。

それはタイ語における発音慣習を反映しているからだ。なおタイ語には子音において同音異字がかなりある。そこで日本語の固有名詞をタイ文字で綴る場合、声調と子音の選び方によって複数の綴り方(綴りのゆれ)があることは不思議ではない。
またタイ語の音韻には[ザ]音の文字がないので、多少工夫する必要がある、例:銀座を [งินซะ ギンザ] または [งินจะ ギンジャ] のように。

駅名に併記されたラテン文字を論じ中です。駅名の大門 Daimon をフランス語話者なら [デモン(鼻音化)] と発音するだろう。フランス語では ai は[エ] となり、mon は鼻音化する規則だ。スペイン語では J は息のやや強い[h] 音だ。例:Japón [ハポン]日本、
そもそもスペイン語アルファベットの J は[ホタ]と読む。
さらにスペイン語では g 文字に関して、ge の場合は je と同じ発音[へ]、及び gi の場合は ji と同じく[ヒ]と発音する。ただし g のその他の組み合わせは [g] の発音だ:gu [グ]go [ ゴ]。

またドイツ語では J は[ユ]音だ、例:jung [ユング]若い、Japan [ヤーパン」日本。
上述のようなことを考えれば、外国語話者によって駅名の十条 Jujo が果たして日本人の期待通り読まれるかな?

まだある、スペイン語では h 文字を発音しない。例:時間 hora は[オラ」と発音。男 hombre は[オンブレ]。試みに駅名 八王子 Hachioji が中南米出身のスペイン語話者によってどう発音されるか、興味あるところだ。" ji " は既に上記で言及しましたね。

このように3つ、4つの言語を取り上げただけでも、既に駅名のラテン文字表記は日本人の期待するようには読まれないことがわかる。逆に、ラテン文字を利用したベトナム文字を、日本人がどう発音しようと、本来のベトナム語音とはかけ離れた音になるのは当然といえる。

ベトナム文字音の例をあげる。anh [アイン]意味:男性に対する2人称単数、không[喉から強い息でホン]意味:否定する語、giờ[ゾー でも日本語のオーではない]意味:何時の時、 dと giと r の文字は[z] の音だ、ただし南部では異なる。ベトナム語は声調を含めて発音の難度が高い言語です。

誤解なきように強調します: ラテン文字綴りが良くないということではない。日本文字を外国人にできるだけ日本語音に近づけて発音してもらうには、ラテン文字綴りが最良ではなくても適している、ことは事実だ。Intraasia は駅名のラテン文字併記に実用面から賛成です。

〈人は母語の影響を受けて文字を発音する〉
実用面という意味を説明しましょう。世界で使われているどの文字を使おうと、他言語の話者は多分に母語の影響を残してその文字を読み、発音する。例えば"A" という文字の母音には、口の狭いア、広いア,口内奥で発生するア、あいまいなアなど幾つもの"ア"があるのです。どの"ア"で発音されるかは話者の母語次第だ。

要するに他言語話者に正確な音を伝える文字種はない、且つそれを正確に発音してもらうとの期待は非現実的だ。言語学の世界で用いられる国際音標記号 IPA は、どんな発音でも正確に表記できるが、相当複雑で難しいので一般使用は論外だ。そこで最大公約数的に文字種を選べば、世界で最も普及しているラテン文字ということになる。

以上新しいテーマにつながる序論として、あれこれ例示しつつ書きました。駅名やバス停名にラテン文字綴りを併記している主たる狙いは、外国人の鉄道やバスの利用を手助けする、外国人ができるだけ利用しやすくする、というものであることは言うまでもありません。
JRと私鉄の駅名のラテン文字併記の狙いは、それに加えて、外国人にすごく正確でなくてもいいからできるだけ、日本語の発音を知ってもらう、そういう風に発音して欲しい、との期待が込められている、と捉えても間違いではないでしょう。

〈Intraasia が新しくブログ上で掲載する作品に関して〉
こういった序論の内容を基にして、2023年10月初旬から掲載する、新しいタイトルを付けた作品の下で論を展開していきます。この作品はかなり長文なので前編、中編、後編にわけて掲載します。そこで、新しい作品をお読みになるときは、是非この序論の部分から読んでいただくようお願いします。

次にこのブログの目次を掲げます。
【 目次 】
序論 新しくブログに掲載する作品のテーマを導く
前編 はじめに、 第1章、
中編その1 第2章、 第3章、 第4章、 第5章、
中編その2 第6章、 第7章、 第8章、
中編その3 第9章、 第10章、 第11章、
後編 第12章、 第13章、 第14章、 おわりに、

2023年12月末の注記:文章が読み易くなるように、序論をブログの先頭つまり最上部に移行した。なお当ブログを始めたのは、この序論部分を最初に掲載した2023年10月の初め頃です。その後約3週間位の間に、前編、中編、後編を順次掲載しました。


今回発表する作品のテーマは広い意味での言語に関する範ちゅうに属しますので、Intraasia が2018年以来ツイッターの場で毎日連載している『いろんな言語のこと、あれこれ』シリーズの一環としてのブログ版です。なお今回の新作は Intraasia がこれまで発表してきた数々の作品とは幾分狙いが異なります。
注: Intraasia はツイッターを自作品の発表の場としてだけ利用しており、いわゆる”一般的なツイッター行為・活動はしておりませんし且つ今後もそうするつもりはありません”。

〈ツイッターで発表した作品と今回のブログ作品との関係〉
当ブログで掲載する作品のいわば原著は Intraasia が2021年にツイッター上で半年に渡って連載した作品です。その際のタイトル名は【JR と私鉄は駅名併記に中国漢字を使うな】でした。しかしこれだと Intraasia の書く内容を訪問者が読む前から誤解してしまう可能性がかなりあるのですが(例えば反中国感情を前面に出したものとの憶測)、ツイッターが定める制限文字数の点からタイトル名を短くせざるを得なかった。その当時本当に付けたかったタイトル名は、本文中に織り込んだのですが、毎日掲載する記事には載せられない残念さがありました。

字数制限のない今回のブログ作品では内容とIntraasia の趣旨をより反映する長いタイトル名をつけています。

ツイター版作品とブログ版作品は内容的には大体同じですが、ブログ版作品は年月的には新しい掲載となり且つ掲載文字数に制限がありません。そこで切れ切れに読むことになるツイッター版から一気に読める長文型の文章にすべく、表現の書き換えや掲載文章の順序入れ替え、及び校正・加筆・削除などを随所に施して全面的に見直しています。従って新版と称してもいいでしょう。
そのため新版であるブログ版の方が、読者にはずっと読み易くなっている、作品の趣旨を理解しやすい構成である、と Intraasia は思っています。

2023年9月末記
Intraasia

前編 ハングルは日本語音を表わしている、しかし中国漢字は日本語音を消してしまう

2023年12月29日 | 駅名の外国語表記
 【 はじめに 】

当ブログ公開(2023年10月初め)にあたって、まず最初は序論を掲載しました。その序論に続いて、これから徐々に本論を展開していきます。

Intraasiaは20代の頃は、短い時は数日間、長い時は数か月間の外国旅・滞在を時々する一方、主に国鉄の周遊券やミニ周遊券を利用して日本国内をあちこちへと旅した。しかし、大部分の期間国外に居た1980年代終盤以降近年までは、数えるほどの国内地しか訪れていない。
従って日本国内のJRと私鉄でどのくらいの割合が駅名に複数外国語併記がされているか、よく知りません。そこでこの場で述べていく論では、首都圏だけで目にしたこと及び入手した外国語版首都圏路線案内図を基にしていることを、あらかじめお断りしておきます。またこのタイトル下では駅名という表現にはバス停名も含める約束にしておきます。

そんな事情があるので、例えば九州の何々私鉄でも、北海道の何々地方でも、四国の何々県でも「駅名に中国語・華語を含めた複数言語併記をしているよ」などとご存じの方は、気が向かれましたら当ブログのメッセージ欄に書き込んでくだされば嬉しいです。

〈Intraasia の作品の特徴〉
ところで Intraasia は10年近くツイッターでいろんな自作品を掲載してきました。その中で2018年からは2つの主要作品シリーズを連載するというあり方に方針を変えた。その1つである言語シリーズ作品は全て、 Web 上で使える多言語ソフトキーボードを用いて各種の文字を手入力している。
Intraasia の作品では多くの場合、複数の言語と複数の文字体系に言及します。従ってこのブログでも同様に、論を進める必要上もしくは参考または関連情報として複数種の言語、文字に触れています。

〈駅名の外国語併記の主目的は2つある〉
序論では示唆するような形で触れたことをこの場で明瞭に書いておきます: 駅名の外国語併記の主目的は、『第一に鉄道やバスに関して外国人利用者の便宜を図る、利用を助ける、ことであり、第二に外国人利用者に日本語での駅名を、正確ではなくてもいいからできるだけ知ってもらう、そのように発音してもらう、ことにある』と理解してもいいでしょう。この二点は衆目の一致するところではないでしょうか。

従って、駅名の外国語併記はすべからくこの観点からだけ捉えるべきです。ナショナリズムの観点からうんぬん、ある国の印象に結びつけて何々語は必要だ、不必要だ、といったようなことは当ブログでは考慮外であり且つ触れません(当作品の原著を発表したツイッター掲載時でも触れなかった)。従って、当ブログの趣旨から外れる観点からのコメントはお断りします。

当ブログで論じるのは、外国語併記における言語の選択ではなく、文字体系の種類です。そして上記の2つの主目的に合うべく内容にしています。

さて、駅名にラテン文字が併記されているのは、恐らく日本全国で相当一般化していると思われる。その中でローマ字表記における文字使いと表記法の不統一さが最も問題になる点でしょうが、その問題はこの場では扱いません。
なぜならローマ字表記のあり方・綴り方を問題点として論じるのは当該テーマから外れるし、それを論じるだけで1テーマ設ける必要があるほどになるからです。
当ブログの場ではローマ字表記の現状と背景の理解及びローマ字表記の利点を説明することに留めています。

以上のことから駅名の複数言語表示に関して当タイトル下での対象は、主として中国語であり、副として韓国語になると言っても差し支えないでしょう。ただし Intraasia 作品の特徴として、言語に関するテーマを多面的に考えるため、論じるため、ヨーロッパ語及びその他の言語にも適当に言及します。

当ブログの目次をここに掲げておきます。
【 目次 】
序論 新しくブログに掲載する作品のテーマを導く
前編 はじめに、 第1章、
中編その1 第2章、 第3章、 第4章、 第5章、
中編その2 第6章、 第7章、 第8章、
中編その3 第9章、 第10章、 第11章、
後編 第12章、 第13章、 第14章、 おわりに、

2023年12月末の注記:ブログは新しい記事が先の記事の上に掲載される、つまり古い記事ほど下方になる仕組みだ。しかし当作品は1冊の本を模して書いてあるので、それでは読みにくい。そこで今回上記の目次の順序になるように、それぞれの編を入れ替える/ 移すことにしました。


第1章:駅名の外国語併記 ハングルの場合

まず韓国語・朝鮮語に関してです。この言語は文字にハングルを使うことは多くの人がご存じですね。
注:言語分類上は朝鮮語という名称の方が適しているようだが、当ブログでは韓国語・朝鮮語という捉え方であり、この場における呼称として韓国語を使っておきます。

参考として:韓国語とハングルに関して
Intraasia はツイッターにおいて、【いろんな言語のこと、あれこれ】というシリーズ名の下で数々のオリジナル作品を連載してきました。この言語シリーズの開始時期は2018年11月なので、既に5年近く続けています。それらの作品中には、韓国語とハングルに関する作品もあります。

ハングルは表音文字です。従って、ハングル文字そのものが発音を現わしていることの利点が、駅名の併記時に現れる。
注:言語作品の決まり事の1つとして [ ] 内は発音を示す。カタカナは発音記号ではないのでおおよその音しか表せない、だから発音表記に用いたカタカナはあくまでも便宜的である、ことは皆さんよく承知しておいてください。

〈表音文字 ハングル〉
駅名の例示です。先が韓国語ハングルとその音、後が日本漢字:
도쿄 [トキョ] 東京、 긴자 [ キンジャ] 銀座、 시나가와 [シナガワ]  品川、 신주쿠 [シンジュク]  新宿、 우츠노미야 [ウチュノミヤ] 宇都宮、 오후나 [オフナ] 大船、 지바 [チバ] 千葉

日本語の音韻体系と韓国語の音韻体系は異なるから、ハングルで日本音を正確には表せないし、同様にカタカナでハングル音を正確には表せない。しかし近似した音は互いに表せるので、日本の駅名を表記及び発音という点から言うと、ハングルは好適な文字種だ。

〈日本語音の表記に適した文字、適さない文字のお話〉
日本語音の表記にはあまり適してない文字もある。この意味はその文字に対する馴染み度とは関係なく、純粋に文字の性質から見た場合です。例えばアラビア文字だ、アラビア語は母音が [ a ]  [ i ]  [ u ] の3つだけだ。その文字例を示しておきましょう。

アラビア文字では子音と結合しないア、イ、ウの単独長母音字は آ اِي اُو だ。アラビア文字は右から左へ綴るので一番右(3つ目)の文字がアーになる。母音と子音が結合すると文字の形が変化する場合が多い、例:تَا [ター] 、سِي  [ シー] 、 مُو [ ムー] 、
仮にエ列の音とオ列の音を示すには何らかの付加記号を考案する必要がある。つまりある子音に [ e ] の音を加えてエ列音を示すには工夫が必要ということだ。なお普通のアラビア語文では外来語のような単語におけるエ音の字はイ音字で代用、オ音の字はウ音字で代用されている。

またアラビア語の子音には日本語の子音にはない音が少なからずある。アラビア文字で五十音図を示すことは可能だが、そのためには工夫が必要であり、また両語間には子音の音価の違いが目立つので、アラビア文字で日本語音を示すのはあまり向いていない。

参考として:Intraasia のツイター発表作品にアラビア語、デーヴァナーガリー文字もある
Intraasia はアラビア文字に関して、自身のツイターの言語シリーズにおける当該テーマの中でこれまで二桁数の記事を書いた。アラビア語・文字の説明は2019年と2020年の掲載においてまとめて記事にしたり単発的に触れている。

一方、日本人に馴染みがなくても日本語音の表記に案外適している文字もある、例えばヒンディー語などで使われているデーヴァナーガリー文字だ(あくまでも比較的ということ)。この文字及びヒンディー語に関しても、上記ツイターの言語シリーズにおける当該テーマの中で書いた。

〈日本語音の表記における文字選択の重要さ〉
一見当ブログのテーマに関係なさそうなアラビア文字やデーヴァナーガリー文字になぜ言及するのか?  それは、駅名の併記に用いる際の文字種(言語の種類ではない)の選択は大変重要だということを説明していく中で、皆さんに理解していただくための材料にしたいと思ったからです。

〈翻訳地名と翻字〉
Intrrasia がハングル表記の駅名を無作為に選んで大雑把に眺めた限り、ハングルでは翻訳した地名は使っていないようだ。翻訳地名とは、例えば日本橋を Nihon / Nippon Bridge のように部分的に翻訳してしまうことを指す。これは最も愚かな地名表示と言える。
なぜならそんな地名は日本語の地図や路線図にないし、そもそも国民は翻訳地名など使わない。使われない地名は外国人向けでも使うべきではない。どうしても意味を伝えたければカッコ内に入れて補記するような形をとるべきだ。例  Nihombashi (bashi=bridge)

なお日本橋を Nihombashi と書くのを翻字と呼びます。にほんばし、ニホンバシ も同じく翻字だ。ただしひらがな、カタカナを使った翻字は、大多数の外国人旅行者や少なからずの外国人居住者が日本語の書記知識を持たない以上、不向きであることは皆さんもおわかりでしょう。

ハングルはこの翻字に向いている。JR発行の首都圏路線図の韓国語版、都営交通ホームページの韓国語ページをみると、どちらも日本橋を 니흔바시 [ニホンバシ]と書いている。

ハングルがこのように容易に日本語音を表すことは既に上記で言及しました:「ハングルは表音文字です。従って、ハングル文字そのものが発音を現わしていることの利点が、駅名の併記時に現れる。」 このことを是非覚えておいてください。

Intraasia の手元にJR発行の都区内のお得な切符案内パンフレットがある。そこで例えば舎人ライナーを見ると、韓国語の表記では、도네리 라이너 としている。ところで ”ライナー”は韓国語に翻訳してあるのだろうか? それともそのまま翻字にしてあるのだろうか?
いずれにしろハングルでは[トネリ ライノ]と発音するので、韓国語の話者がどこかの駅や街角でこれを尋ねても日本人が直ぐに且つ容易に推測できる、ということだ。なお都営交通のサイトでもハングルの綴りを確認したが、語尾が ”나 ナ” ではなく ”너 ノ” になる理由が Intraasia の限られた韓国語知識ではわからない。

2023年11月追記:語尾が ”나 ナ” ではなく ”너 ノ” になる理由、この疑問点は解決した
Intraasia はごく最近読んだ、韓国語学者の著書の中に次のような説明を見つけたことで、この疑問は氷解した。以下は引用ですー
「writer も lighter も日本語同様区別なく、 라이터 [raitᴐ ] [ ライト] 。最後の母音が ㅓ となるのは、英語の円唇母音 [ ᴐ] は韓国語では非円唇母音である広い ㅓ[ᴐ] (発音記号は同じものを使用)で写す決まりだから・・・」 ー引用終わり
参照本:野間秀樹著 図解でわかる ハングルと韓国語  2023年 平凡社刊

Intraasia による解説
英語の単語を韓国語文中で、つまりハングルで表わす時の例を説明した個所です。言語学的知識が多少必要な文章だ。英語単語の特定綴りをハングルで表わす時の韓国語規則が例示されており、その結果 ライナー の最後の母音が[オ]音となって [ノ] と表記されることがわかりました。

〈翻訳地名に関してのコラムを1つ〉
この話題で Intraasia がすぐ思い出すのはバンコクでの例だ。Intraasiaは1980年代中頃からタイを度々訪れていた。クアラルンプールに居を構えてしばらく経つと、まずバンコクに入るというルートはあまり取らなくなったが、80年代、90年代前半まではまずバンコクに入ることがほとんどだった。そんなおりたまに見かける光景に、白人旅行者が市内バスの乗務員らに尋ねる場面だ。

彼らは「このバスはバンコク駅へ行く/を通るのか?」とか「どのバスがバンコク駅へ行く/を通るのか?」と英語で尋ねていた。当時市バスの乗務員らは英語をほとんど解さないのが普通であった。だから乗務員らは要を得ない返事に終始していた。
単に質問の意味がよく分からないからだけでなく、「バンコク駅」ということばそのものが、彼ら彼女らにとって意味を持っていなかった。何よりも、タイ事情を知ろうとしない尊大な白人旅行者たちはこのことに気がつかない。
バンコクにタイ国鉄の駅は幾つもあれど、”バンコク駅”という駅は存在しない(もちろん今でもない)。日本語出版の地図やガイドブック類に書いてあるバンコク中央駅はあくまでも日本人の便宜のためにわかりやすく翻案したのであり、Bangkok Central Station は英語話者用に翻案したということだ。

外国人相手の旅行関連業の従事者や外資系企業に勤める人たちを除いて、市井のタイ人は、バンコクのことをタイ語の名前である " กรุงเทพ [クルンテープ] " と呼ぶ。参考:正式名の กรุงเทพมหานคร はもっぱら書き言葉で使われる
同様に市井のタイ人は、タイ国鉄のバンコク中央駅にあたる駅はタイ語名称である " หัวลำโพง [フゥアランポーン] " と呼ぶ(両語とも当然声調を付けて発音)。言い添えておけば、タイ語名称が唯一の駅名である。

地下鉄(MRT)ができ、高架鉄道のBTS(スカイトレイン)が何路線も運行されている現在では ”กรุงเทพ クルンテープ” のことをバンコクと呼ぶタイ人も増えたかもしれないが、中央鉄道駅は依然としてほとんどのタイ庶民が "หัวลํโพง フゥアランポーン" と呼ぶ。

これは基本的知識なのに、知らない、知ろうとしない外国人旅行者は多いようだ。なぜバスで尋ねていた白人旅行者はそのことを知らなかったのか? それは多分に外国人向けの情報紙・誌や無料案内パンフレットや旅行ガイドブックが、”Bangkok (Railroad)Station” というような単語を常用していたからだろう。

主としてその国を訪問する外国人旅行者向けに地名類を翻訳してしまうことは、きっといろんな国で起きているのではないだろうか、と Intraasia は推測します。
〈コラム終わり〉

これまで述べてきた考察から、駅名併記に複数の言語が選ばれていることを既定のことと捉えた場合、韓国語で使うハングルに対する違和感はほとんどありません。
しかし同じ既定のことの下で、中国語・華語による駅名併記において中国漢字を使っていることには、Intraasia は大いに違和感を抱きます。批判意識が沸いてくると言った方がいいだろう。だからこそ、今回これをテーマにした作品を書き下ろしたのです。

これでようやく、現タイトル下で本題を論じる段階が間近になった。当ブログを開設して、まず序論から始めて関連事や周辺知識を長々と述べてきたのは、Intraasia が論を進める上で皆さんにどうしても知っておいて欲しいこと、わかっていただきたいことだからです。

〈当ブログ作品の骨組み〉
Intraasia はここに掲げたようなタイトルの作品に仕上げる際に、 その論と主張を堅固なものにすべく、各項目で例示を充分にする、テーマに関係する事柄をできるだけ取り上げて丁寧に説明しておく、重要事には傍証も加える、周辺を固めてから核心を述べるといった点に配慮した構成を取るようにしました。

最初から本題に入って主張をさっさと述べるという安直なことはせずに、1冊の本を書くように、読んでいただく方にも関連知識を共有してもらう、性急に論を進めないという制作方針です。予想される反論や批判があるだろうことはあらかじめ織り込んでいます。

中編その1に続く