JRと私鉄は駅名の外国語併記の際、日本語の発音/呼称を表わさない中国漢字を使うのではなく、表音文字ピンインで表記すべきだ

駅名の外国語併記に中国漢字が使われている。しかし中国漢字は日本語の音を消してしまう。この大欠点をなくす代替策を提言する。

中編その1 中国語と華語のお話し、及び表音文字ピンインを使うことの利点

2023年11月27日 | 駅名の外国語表記
第2章:中国語、華語、簡体字に関する概論

現在駅名併記に使われている中国語・華語は、2種類の中国漢字体系を使っている。簡体字と呼ばれる字体系は主として中国で使われていること、及び繁体字と呼ばれる方は主として台湾(及び香港)で使われていることは、日本人にも結構知られていることでしょう。

なおこの場で使っている「中国語」とは中国の共通語 / 標準語たる普通話のことであり、これが前提です。なおこの「中国語」に関して中国では「漢語」という呼称がよく使われるとのこと。ところで漢語という単語は言語学の分類でもよく用いられる、従って Intraasia は当ブログでは分類上の名称として使います。

東南アジア諸国において華語が言語として重要な地位を占めるのは2か国ある。シンガポールは華語が公用語の1つである、そしてマレーシアでは華語は公用語ではないが華人界で広く使われている。マレーシアではさらに準公立ともいえる初等教育段階の学校では、華語は教育と学習における媒介語として使われている。
解説:マレーシアでは初等教育において華語を使って教育する華文小学校は全国に広く存在する。華文小学校ではもちろん華語は必須科目である。

マレーシア華人界ではその言語を決して中国語とは呼びません、その名称は華語または華文(書き言葉的表現)です。これはシンガポールでも同様だ。
ある言語の名称の背景には、その国に住むある民族のアイデンティティーが深く絡んでいることが少なくない。従って日本人もそういう背景を考慮して”華語”と呼ぶべきなのです。

マレーシアとシンガポールの両国では、こうした教育段階での簡体字教育を既に数十年経てきたことから、新聞や出版界, 巷や街で見かける広告や表示においても、現在では簡体字が圧倒的に用いられている。

Intraasia がマレーシアに居住し始めたのは1990年代の初めだ。その頃から90年代後期ぐらいまでは、繁体字を主として使っていた主要華語紙が複数あった。しかしはっきりした時期は忘れたが、年月の経過と共にどの華語紙もほぼ簡体字のみになった。なおマレーシアの学校教育では1990年以前から簡体字だけが用いられていたとのことである。

上記2か国は当然のごとく華語紙が主要紙の一角を占めるが、その他の東南アジア諸国でも日刊華語新聞が、発行部数はかなり少ないものの、発行されている。Intraasia の知る限り、それらの華語新聞ではしばらく前から簡体字が圧倒的になっているといえそうだ(繁体字の新聞が消滅したということではない)。

駅名併記に二体系の中国漢字が使われている背景には、このような漢語圏における言語面での国際事情もあることを知っておいてください。

解説:中国語・華語は学問的にいえば、漢語に属する言語である。東南アジアでは華語を日常的に使う華人が一定の人口割合を占め、日刊の華語新聞さえ発行されている国々が多数を占める。国情によって大きな差があるが、東南アジア各国でその国語の傘の下に存在する形で漢語コミュニティーがあると見なしても間違いではないだろう。

東南アジア華人界で最も使われる、とりわけ書記語として、漢語は「華語」であり、それは要するに中国における「普通話」、日本人が一般に呼んでいる「中国語」に該当します。
注:なお当ブログでは今後いちいちこれらのことを注書きしません。

なお東南アジア華人界では、書記語ではなく日常口語としては福建語、広東語、客家語などの漢語諸語をむしろ華語よりも頻繁に使っている華人たちが少なくない、と言ってもいいだろう、ただし国によってその人数や程度にかなりの違いがある。

当ブログの目次をここに掲げておきます。
【 目次 】
序論 新しくブログに掲載する作品のテーマを導く
前編 はじめに、 第1章、
中編その1 第2章、 第3章、 第4章、 第5章、
中編その2 第6章、 第7章、 第8章、
中編その3 第9章、 第10章、 第11章、
後編 第12章、 第13章、 第14章、 おわりに、

2023年12月末の注記:ブログは新しい記事が先の記事の上に掲載される、つまり古い記事ほど下方になる仕組みだ。しかし当作品は1冊の本を模して書いてあるので、それでは読みにくい。そこで今回上記の目次の順序になるように、それぞれの編を入れ替える/ 移すことにしました。

第3章:ピンイン(拼音)の説明

さて中国語・華語の教育と学習において、簡体字体系では中国で考案されたピンイン(拼音)が使われている。華語教育が公教育に組み込まれている2つの国、マレーシアとシンガポールではピンインが早い段階で教えられているのは当然と言える。日本で出版されているどの中国語学習書でも入門・初級段階でピンインの理解が目標となっている(はずだ)。

その他の東南アジア諸国の場合、華語を教える私立の初等・中等学校及び町の民間語学院や塾は現在では簡体字が圧倒的だろう、と推測されるから、現在では当然ピンイン(拼音)が華語学習に欠かせない基本知識として教えられているはずだ。

ただ残念ながらこのことはマレーシアとシンガポール以外の国では、その当時 Intraasia は現地調査は不十分にしかできなかった。
当ブログのタイトルの一部にもなっている、ピンイン(拼音)のことは最重要事項ですから、是非こういった情報・知識も皆さんに共有していただければなと思います。

中国で考案されたピンイン(拼音)はもっぱら中国だけで使われているという捉え方は、21世紀の世界では既に間違いである。これは大変重要な点ですので、強調しておきます。

参考知識として、中国語を専門とする学者の書(白水社刊 池田巧著『中国語のしくみ』)から引用します:「普通話は1950年代に国家によって規範化された、また簡体字は1964年に中国政府によって公布され、国の正式な文字として定められた。」 
ピンインについては、「1977年の国連の地名標準化会議において中国の地名のローマ字表記はピンイン方式によることが正式に採択され、以来中国語の正式なローマ字表記法として世界的に公認された」
以上で引用終わり。

ピンイン(拼音)とは何か? ほとんど全ての中国語学習において入門段階でピンインを習うはずだ。中国語の学習書籍は書店や図書館にあふれているから、更に現在ではネット上でも容易に得られるから、詳しいことはその種の書籍類やサイトを参照してください。

従って当ブログで論を進めていくうえで必須な基本点だけを述べる。中国語の正式なラテン文字表記法である、ピンイン(拼音)とは、簡単に言えば中国漢字の声調を含めた発音を覚える、知るための方法/手段であり、いわば中国漢字用の発音記号ともいえる。

ピンイン(拼音)をきちんと習得すれば、どの中国漢字も間違えることなく発音できるようになる。
注意することは、ピンインは中国漢字のためにラテン文字(ローマ字)を援用して考案されたものだから特有の規則がある。ゆえに、決して日本語におけるローマ字風や英語風に発音してはいけない。
だからこそ、中国語・華語学習の入門段階で、ピンイン(拼音)をかなりの時間を費やして教えるのです。

具体的に説明します。例えば ”拼音” という漢字をみても発音と声調はわからない。そこでラテン文字を使って中国語用に表音記号化した、ピンインを用いる。
例:拼音 [ pīnyīn] 、そして4つの声調は各語の上に付記した棒線で示される。この例では2つの声調はいずれも第1声(高)だ。

もう1例:普通语 [ pǔ tōng huà] あえてカタカナで表示すればプートンフアとなる。中国における共通語である普通話は現代中国の北方漢語が基になっており、日本で中学校や高校で習う”漢文”の漢語とは相当異なる。なぜならこの二つの言語は使われる時代が全く違うために、互いに音や単語や言葉使いなどが異なっていることは当然である。
注:奈良・平安時代の日本語と現代日本語の間にある違いの大きさを思い浮かべてください。


第4章:駅名併記に用いる文字種は漢字である必要性は全くない

次から述べることは、当ブログの本論における最重要点の1つです。

〈どの体系の漢字も中国語の音で読まれる〉
ピンイン(拼音)は中国漢字のために考案されたものだが、仮に日本漢字に適用したとしても取り立てて問題はない。要するに日本漢字を中国語的に発音するということだ。日本語が独自に作った和漢字に対しても、中国語として如何に発音するかは既定となっているはずだ。

なお日本漢字に声調はないが、中国語・華語話者は当然それに声調を付けて読むことになる。以前書いたように、声調言語を母語とする人たちが日本語を話すとき、声調の”香り”が残るのはごく自然なことです。
日本漢字の地名を中国語的に読む例:大阪 [ daban 第4声と3声] 、富山 [ fushan 4声と1声] 、青森 [ qingsen 1声と1声] 、福岡 [ fugang 2声と1声]、
正確にはわからなくても、ピンインが表す発音はいかに日本語音と異なるかが皆さん感じられることでしょう。

既述のように駅名併記には、現今の日本漢字と字体・字形が多少異なる繁体字も、簡体字と並んで使われている。ただし中国からの中国人、台湾からの台湾人、東南アジアなどからの華人にとっては、どの漢字も、つまりこの3種の漢字体系で表記される漢字自体は同じ扱いを受けることになる。だからどの体系の漢字で駅名を書こうと、中国語・華語として発音され、それら3種の漢字の音は同じになる。

要するに中国語・華語の話者に対しては、ある駅名に併記されている簡体字駅名と繁体字駅名からは日本語の音が全く伝わらないのだ。一方、その同じ駅名の併記に使われているラテン文字駅名とハングル駅名は、正確とまでは言えなくても、日本語音を十分に伝えているのです。なぜならこの両文字(ラテン文字とハングル)による駅名は日本語の音を基にしているからです。

〈発想の転換が必要だ〉
そこで発想を転換する必要がある。日本の鉄道や電車路線、及びバス路線の駅名を外国人に伝える際、漢字第一 または漢字中心思考を変えなければならない。外国人に漢字を伝えるのではなく、日本語音を伝えることがまずそして最大限に重要なのです。現に日本の交通機関は、ラテン文字とハングル文字による駅名併記を以前から行っているではないか!!

具体的に言おう、中国語・華語の話者に対しても同じ発想を取り入れて、ピンイン(拼音)による駅名併記に変更すべきである。”漢字”にこだわる思考は、外国人利用者に日本語の音を伝えるという実用面の最重要さを無にしています。

ひとたび駅名併記を簡体字や繁体字ではなくピンインによる表記にすれば、中国語・華語の話者にも駅名の日本語発音を知ってもらう、すごく正確ではなくてもそれなりにまたはかなり似た音で発音してもらう、ことができる。

なおピンインを見て発音する(または頭の中で音を確かめる)際、中国語・華語の話者ゆえに必然的に声調が伴うが、日本側としてこの場合声調面は気にしない。日本漢字の地名に声調が付いて発音されるからといって、その意味が変わるわけではない。


第5章:ピンインで綴る日本の地名・駅名の例示とその利点

[ ]内はピンインですよ、ローマ字ではない。上記であげた地名を例に使います。
例: [ ou sa ka] 大阪、[ dou ya ma] 富山、
注:中国語の音韻体系には do / to という音はない。存在しない音は使えない。だから近似した音として dou を選んでいる。またピンイン表記において有気音 tou の無気音が dou だ、日本語音のドウではない。ローマ字式読みは忘れてください。

参考として:有気音、無気音は中国語・華語のような声調言語では必須の発音区別です。この用語は既に言及した Intraasia のツイッター作品である【いろんな言語のこと、あれこれ】シリーズの中で何回も触れて丁寧に解説しているので、ここでは説明を省きます。

上記の例では日本漢字の地名は読者の便宜をはかって書いただけであり、実際の駅名併記の際にはもちろん使わない。 実際の駅の表示の場合、まず日本語で駅名が表示され、それに加える形で、ラテン文字、中国漢字、ハングルの駅名が併記されている。

例の続き: [ hu ku ou ka] 福岡、 [ ao mo ri / li ] 青森、
注:中国語の [r] はそり舌音でこもった響きを持つ音であり、日本語の ラ行音 や英語の [r] とはかなり異なる音だ。だから中国語話者の発する[アオモリ]の[リ]が[リ]に聞こえないことが多いだろう。そこでむしろ [ r ] の替わりに [ l ] 音を使った方がいいかもしれない。

<一口知識> 
アルファベットの r という文字の発音は言語によって音価が異なる。例えば日本語の"r" 、英語の"r"、フランス語の"r"、中国語の"r" 、インドネシア語の"r" では全て互いに異なる音だ。従って国際音声記号 (IPA と略称される) ではこれら "r" をそれぞれ異なる記号で表します。

上記にあげた地名のピンイン表記例に関して、その綴りは Intraasia の選択であり、例えば ri / li のどちらがいいかなどのように判断に迷うところがある。日本地名の適切なピンイン綴り(及びその声調も含めて)を決めるのは日本人の中国語学者・専門家におまかせします。

なお日本語駅名のピンイン表記例はこれから論を進める中でもっと数多く例示していきます。
ここまでの論を連載の初め頃から丁寧に読んでこられた方なら、Intraasia の主張の根拠とその利点が恐らくお分かりになっていただけるのではと思っています。

〈 ちょっと休憩 〉
当ブログを初めてご覧になる方へ、または Intraasia の過去のツイッター連載作品を一度もお読みになったことがない方へ

当ブログは2023年10月初めから作品掲載を開始した。作品は【序論】から始まっています、当該テーマの下で Intraasia が作品を書くに至った由縁などを綴っていますので、是非【序論】から目を通してください。Intraasia はその中で、1冊の本を書くようにと描写しています。要するに、当ブログでは関連知識や周辺事情を相当幅広く且つ丁寧に記述しており、Intraasia の主張だけを手短に述べるようなことはしていません。

中編その2に続く



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