第9章:地名をわざわざ中国漢字化して、日本語音を消してしまう理不尽さに気がついて欲しい
〈駅名から地名の由来を知ってもらう必要はない〉
中国語・華語話者に駅名の文字が意味するものを知ってもらう必要はない。例えば東京都にある赤羽(駅)の場合、その漢字の意味は赤い羽根だが、単に漢字の意味が分かっても仕方がない、その漢字がどういう経緯で地名となったとか、地名とのつながりがわからないからだ。
つまり地名の由来は書かれた漢字からだけでは分からないことが非常に多い。そもそも一般に地名の由来など圧倒的大多数の日本人だって知らないし、交通機関利用者がそれを知っておく必要性はない。知りたい人は地名由来に関する本を探して読めばいいのだ。
〈ひらがな地名を中国漢字化するのは愚かな行為〉
地名には種々ある。漢字を音読みした地名、訓読みした地名、当て字の地名もある。またひらがな地名は近年増えたそうだし、カタカナ地名はもう珍しくない。駅名は当然、地名の呼ばれ方を反映している。
だから漢字をどう発音するかは大事ですね。日本文字を知らない外国人にとってはひらがな/ カタカナ地名も翻字する必要がある。その際、ラテン文字とハングルは日本語音を表記する(つまり音訳している)ので問題は出ない。
一方繁体字と簡体字を使うことはひらがなをわざわざ中国漢字化することにもなる。その結果、発音される音がひらがなの音と全く異なってしまう、要するにひらがな駅名が全く別音の駅名になってしまうのです。駅名の中国漢字化は愚かな方法と評するしかない。
例をあげる。さいたま新都心駅は地方自治体のさいたまを反映した地名だろう。簡体字版の路線図では”埼玉新都心”と書かれている。地名がひらがな音そのままなのに、わざわざ漢字化した中国漢字はそれを全く反映しないのだ。発音はピンイン表記で [ qíyù xīn dō xīn ]です。”さいたま”を [ qíyù] と発音されてはまるでどこか別の地みたいだ。
一方ラテン文字とハングルで書かれた併記駅名を読む諸国の外国人と韓国・朝鮮人は、まがりなりにも[サイタマ] と日本語音で発音するのです。
わざわざ中国漢字化して日本語音を消してしまうというこの理不尽さに、JR と私鉄の日本人利用者の大多数は気がついていないのでしょうか?
Intraasia が”理不尽”ということばを使ってこのことを批判する背景と根拠は、当ブログをこれまでお読みになってきた方々ならもう既にお分かりになることだと思います。
ひらがな地名のことを続ける。北海道のえりも町は現在ではひらがな名の自治体だ。鉄道路線は通っていないがこの地名を付けたバス駅(バス停)名があるので、それを繁体字化すると 襟裳 となってしまう。その場合中国語・華語音では [ jīn shang ]と発音する。
宮崎県のえびの市もひらがな名の市だ。調べるとJR線が通っている。地図に載っているえびの駅という駅名は自治体名を反映してひらがな綴りだ。”えびの”が付いた駅は3つある。これらも中国漢字化によって、駅名から[エビノ]という日本語音が消えてしまう。
茨城県のひらがな名の自治体である”つくば市”には鉄道が通っており、そのつくばエクスプレスの終着駅がつくば駅だ。つくばエクスプレスも自治体もつくば駅と表記しているのに、エクスプレスの簡体字版はわざわざ 筑波 と漢字に戻している。
当然 [ツクバ] という発音は消えてしまい、中国語・華語音の [ zhù bō] という音になってしまう。
ひらがな駅名は駅名併記に中国漢字を使うことの愚かさを如実に示す例にもなっている。
ちなみに「つくば」の中国語・華語による併記名称において、ピンインを用いて [ci ku ba]と綴れば、その音はひらがな音にかなり近づくのです。
注意:再度念をおしておきます。 この場で頻出している [ ] 内は、要するにピンインで綴る発音記号ですから、決してローマ字読みしてはいけません。必ずピンインで定める読み方規則に従って発音しなければならない。ピンインを習ったことのない日本人が「おかしな音」だと苦情を呈してもそれは的外れです。
〈漢字を使ったからと言って地名の由来がわかるわけではない〉
姫路、弘前、千葉など使われている漢字からだけでは、地名の意味や由来がほとんどまたはよくわからない地名はごまんとある。例えば、弘前市は弘前藩の名から取ったと推測されるが、その弘前という地名の由来はなんだろう?
「外国人向けにラテン文字綴りで、Himeji, Hirosaki, Chiba と表記する(翻字する)ことでは字の意味や背景が伝わらず不十分だ。しかしながら漢字文化圏の、せめて中国人と台湾人向けだけには中国漢字に翻字しておきましょう」というのが、恐らく駅名に簡体字と繁体字を併記することを決めた側の言い分であろう。
皆さん、この奇妙な論理に気がつきませんか? 日本人にとって漢字そのものの意味は大体またはかなり分かる、しかし駅名は漢字自体の意味から離れて地名を基にしていることが普通であり、他にはその地にある施設名などを駅名に付けているのだ。
一般に、その漢字を組み合わせて現在では地名となっている由来や背景が、別の表現を使えばその漢字がどういう経緯を経て地名となったかが、おいそれとはわからない地名はたいへん多いのだ。
確かに地名の意味や由来を知る上で漢字は重要な要素である。反面、特定の漢字を選んで地名とした理由、すなわち地名の由来や背景が分からない地名の方が、わかる地名よりはるかに多いということも事実である。
ある駅を利用する人たちの間で、漢字を読み書きする日本人の利用者の一体どれくらいの割合が漢字綴りと地名のつながりを知って駅を利用しているのかな?
当ブログの目次をここに掲げておきます。
目次
序論 新しくブログに掲載する作品のテーマを導く
前編 はじめに、 第1章、
中編その1 第2章、 第3章、 第4章、 第5章、
中編その2 第6章、 第7章、 第8章、
中編その3 第9章、 第10章、 第11章、
後編 第12章、 第13章、 第14章、 おわりに、
2023年12月末の注記:ブログは新しい記事が先の記事の上に掲載される、つまり古い記事ほど下方になる仕組みだ。しかし当作品は1冊の本を模して書いてあるので、それでは読みにくい。そこで今回上記の目次の順序になるように、それぞれの編を入れ替える/ 移すことにしました。
第10章:駅名表記を表音文字ですることは利便性を高める
このような実状を確認したうえで、結論づけて言いましょう。訪問者としての外国人や日本語の文字体系を知らない外国人在住者が、駅名併記の表記文字として、ラテン文字、ハングル、ピンイン(この3つはいずれも表音文字で且つ日本語音を写すのに向いている)を通して、駅名を知る、発音することは、彼らにとって大きな利便性がある。日本人にとっても彼らが駅名の日本語音を不十分ながらも知る、発音することは望むところであり且つ歓迎すべきことなのだ。
今ここで書いていることは当作品における根幹の1つです。
駅名に使われる地名の中には、多くはないが、文字から由来が簡単にわかる場合ももちろんある。代表的な例である東京は、”東の京または都(みやこ)”であることは漢字の読める人ならほぼ推測がつくでしょう
東京(駅)を例にとる:日本語名に併記して、Tokyo (ラテン文字)、东京(簡体字)、東京(繁体字)、도쿄(ハングル)と書いてある。
中国漢字の音をピンインで表すと [dōng jīng] となる。[dōng jīng] をあえてカタカナで音を表せば [ドンジン](無気音+無気音)だが、実際の音はそのカタカナを発音する際の音とはかなり違う。既述したように、ピンインは中国語の音韻体系に基づいているからです。
3番目の繁体字は簡体字と同じ発音だ。4番目ハングルの発音は大よそ [トキョ]となる。東京のような地名は誰だって知っているはずだから、事前知識として”東の京 / 都”ということを知っている外国人もいるかもしれない。ただしこの地名は稀有な例ですね。
この例でもわかる様に、ラテン文字とハングルは[トゥキョゥ] という日本語音を基にして表記されているのに、簡体字と繁体字は中国語音を基にしている。だからこそ中国漢字を使わずにピンインで日本語音を写す形で、例えば [ tou ke you]の様に表記すべきだ。
〈駅名の漢字を知りたければ日本漢字を眺めれば十分である〉
現代の圧倒的大多数の中国語話者は、中国と台湾を問わず、漢字が読める。なお華語を話す東南アジア華人の場合は事情が異なる。
だから中国人と台湾人と香港人は、日本漢字から容易に意味を推測できることになる。
ただし次の点を強調します:中国漢字と日本漢字の間には、文字の意味及び使われ方が異なることは決して軽視できないほど普通にある(生じる)ので、”意味の推測がいつも正しいという保証は全くない”。特に文章の場合、単に漢字の知識だけでは日本語はきちんと理解できない。逆も真なりで、日本人にとっても漢字知識だけで中国漢字の文章がきちんと理解できる場合は大変と言えるほど少ない。まして精度の高い翻訳などほぼ無理だ。以上は強調すべき点です。
とにかく中国人や台湾人、及び華語の読める華人は、駅名に繁体字または簡体字が併記してなくても日本漢字が使われていることから、どうしてもその併記された駅名の漢字(そのもの)が知りたければ、日本漢字を眺めればそれでかなり事足りるのです。
何らかの理由で駅名の中国漢字への正確な変換を求める人には不十分かもしれないが、そもそも交通機関利用者に対してそういうことは始めから想定されていない。探求したい外国人は日本漢字と中国漢字の対照表を参照すべきです(スマフォのアプリにこの種のものがあるようだ)。
第11章:駅名はまず第一に、実用的であらねばならない
あらためて言明します。駅名は第一に実用的であり、そうあらねばならない。そして存在する理由の九割位は実用のために存在するのだ。
〈駅名のラテン文字綴りはまさに実用的なことに価値がある〉
この駅名が実用的であることについて、もう少し論じましょう。
駅名併記に用いられている文字種の面で、駅名併記のあるほぼ全てでまずラテン文字(日本式ローマ字または英語風ローマ字)が使われている。駅名併記の普及率からみて、現行の中国語漢字と韓国語ハングルによる駅名併記はラテン文字に比べてまだぐっと少ないだろう。
当ブログ作品の初め頃に書いたことだが、中国漢字とハングルが駅名併記においてどの程度全国的に使われているかを知りたいものです。
こういった情報なら知っているよという方は、気が向かれましたら、ブログのメッセージ機能を利用して情報提供していただければうれしく思います。
駅名としてラテン文字を読む外国人(旅行者であれ、在住者であれ)の大多数は日本漢字とひらがなとカタカナはわからない。だから彼らが駅名に使われた地名に関して、文字から得られるかもしれない背景がわからないのは当然だ。
何よりも駅名にラテン文字を併記していること自体、外国人に地名の意味や由来を知ってもらうことを最初から放棄している。実用第一である駅名だから、それでいい、それで充分なのです。
我々日本人利用者だって、駅名に使われている地名からその背景や由来を推測できない駅名の方が圧倒的に多いはずだ。要するに、駅名とはまず利用者にとって、及び交通機関側にとって、実用面が最大の存在意義を持つ。
どの駅の地名にも歴史的背景とか文化的背景はあるが、この際それはほとんど重要視されない。当然ですよね、駅名を使うのに、いちいち歴史的背景とか文化的背景を知る必要性はない。実用第一なのだから。駅名の利用者が外国人であっても、この原則は当然適用される。だから併記にラテン文字が使われていることは、実用面から好ましいことになる。
併記にラテン文字が第一選択として且つ圧倒的に使われるのは、ラテン文字が世界で一番普及している文字種、ということが最大の理由ですね。
韓国、朝鮮は漢字文化圏に属する、しかし両国とも既にハングル文字を書記体系に取り入れて久しく、漢字はもはや必須ではなくいわゆる教養の範疇に属すると、捉えてもいいようだ (これは読んだ知識であり、実際に見聞したわけではないが)。
表音文字ハングルからは駅名の背景はわからない。日本を訪れる韓国人が、駅名に併記されたハングルに異論あるはずはなかろうし、実用上それが一番適している。
〈駅名併記に中国漢字を決めた人たちの思考の背景にあること〉
では同じ隣国である中国と台湾の人たち向けだけに、なぜわざわざ中国漢字を駅名併記に使っているのだろうか? 駅名併記の言語と文字種を決めた、ごく少数の権限を持った人たちは、駅名併記のラテン文字とハングルを読む人たちに駅名の背景や由来などを知ってもらう、推測してもらうことを最初から考えてもいないのにもかかわらずだ。
そして、JRの駅名併記のあり方を知った各地の私鉄や、地下鉄などを運営する公共企業体の中には、単純にJRに範をとったところが多いのではないかと、推測される。一方 JRに範をとらなくて独自の判断で中国漢字の併記を決めた私鉄、地下鉄もあるだろう。
しかしこの種の決定をした人たちの頭には、ピンイン(拼音)の利点が浮かばなかったか、ピンインの内容をよく知らなかったと思われる。加えてそういう人たちは、”中国、台湾だから即漢字を使う”という固定観念が働いたことは Intraasia の想像に難くない。
これらの根底にあるのは、一部の日本人の中にある奇妙な漢字文化圏の重視意識または一体感であろう。駅名という最も実用面が大切である表記にさえこういった観念・意識を当てはめて、中国と台湾は漢字国だから駅名にも漢字を使うべきだ、と信じ込んでいる。
文化としての漢字圏を考えることは大切なことだし、Intraasia も少なからず興味ある。しかし繰り返すが、駅名の存在意義は何よりも実用面である。日本人は感傷的ともいえる漢字の呪縛から解き放たれて、駅名併記を素直に実用面から捉えることが必要だ。
< ちょっと休憩、コラム>
読者の方たちから誤解されたくないので書いておきましょう。Intraasia は”反中国漢字意識”などは全く持っていない。Intraasia は1980年代前半の数年間、ラジオの中国語講座を聴くことで初めて中国語学習をした。その際簡体字と発音は覚えたが肝心の中国語の方は使えるにはほど遠いレベルに終わった。
その後1990年代に入ってマレーシア移住時代、華語新聞を読むために華語 /中国語を独習して、なんとか読めるレベルを目指した。『マレーシアの新聞の記事から』ブログにおいて、華語新聞から自分が訳せる程度の記事を選んで、そのサイトに頻繁に掲載して、10何年間続けた。
なお『マレーシアの新聞の記事から』は、Intraasia が3種の言語の新聞を翻訳して毎日更新していたブログです。
後編に続く
〈駅名から地名の由来を知ってもらう必要はない〉
中国語・華語話者に駅名の文字が意味するものを知ってもらう必要はない。例えば東京都にある赤羽(駅)の場合、その漢字の意味は赤い羽根だが、単に漢字の意味が分かっても仕方がない、その漢字がどういう経緯で地名となったとか、地名とのつながりがわからないからだ。
つまり地名の由来は書かれた漢字からだけでは分からないことが非常に多い。そもそも一般に地名の由来など圧倒的大多数の日本人だって知らないし、交通機関利用者がそれを知っておく必要性はない。知りたい人は地名由来に関する本を探して読めばいいのだ。
〈ひらがな地名を中国漢字化するのは愚かな行為〉
地名には種々ある。漢字を音読みした地名、訓読みした地名、当て字の地名もある。またひらがな地名は近年増えたそうだし、カタカナ地名はもう珍しくない。駅名は当然、地名の呼ばれ方を反映している。
だから漢字をどう発音するかは大事ですね。日本文字を知らない外国人にとってはひらがな/ カタカナ地名も翻字する必要がある。その際、ラテン文字とハングルは日本語音を表記する(つまり音訳している)ので問題は出ない。
一方繁体字と簡体字を使うことはひらがなをわざわざ中国漢字化することにもなる。その結果、発音される音がひらがなの音と全く異なってしまう、要するにひらがな駅名が全く別音の駅名になってしまうのです。駅名の中国漢字化は愚かな方法と評するしかない。
例をあげる。さいたま新都心駅は地方自治体のさいたまを反映した地名だろう。簡体字版の路線図では”埼玉新都心”と書かれている。地名がひらがな音そのままなのに、わざわざ漢字化した中国漢字はそれを全く反映しないのだ。発音はピンイン表記で [ qíyù xīn dō xīn ]です。”さいたま”を [ qíyù] と発音されてはまるでどこか別の地みたいだ。
一方ラテン文字とハングルで書かれた併記駅名を読む諸国の外国人と韓国・朝鮮人は、まがりなりにも[サイタマ] と日本語音で発音するのです。
わざわざ中国漢字化して日本語音を消してしまうというこの理不尽さに、JR と私鉄の日本人利用者の大多数は気がついていないのでしょうか?
Intraasia が”理不尽”ということばを使ってこのことを批判する背景と根拠は、当ブログをこれまでお読みになってきた方々ならもう既にお分かりになることだと思います。
ひらがな地名のことを続ける。北海道のえりも町は現在ではひらがな名の自治体だ。鉄道路線は通っていないがこの地名を付けたバス駅(バス停)名があるので、それを繁体字化すると 襟裳 となってしまう。その場合中国語・華語音では [ jīn shang ]と発音する。
宮崎県のえびの市もひらがな名の市だ。調べるとJR線が通っている。地図に載っているえびの駅という駅名は自治体名を反映してひらがな綴りだ。”えびの”が付いた駅は3つある。これらも中国漢字化によって、駅名から[エビノ]という日本語音が消えてしまう。
茨城県のひらがな名の自治体である”つくば市”には鉄道が通っており、そのつくばエクスプレスの終着駅がつくば駅だ。つくばエクスプレスも自治体もつくば駅と表記しているのに、エクスプレスの簡体字版はわざわざ 筑波 と漢字に戻している。
当然 [ツクバ] という発音は消えてしまい、中国語・華語音の [ zhù bō] という音になってしまう。
ひらがな駅名は駅名併記に中国漢字を使うことの愚かさを如実に示す例にもなっている。
ちなみに「つくば」の中国語・華語による併記名称において、ピンインを用いて [ci ku ba]と綴れば、その音はひらがな音にかなり近づくのです。
注意:再度念をおしておきます。 この場で頻出している [ ] 内は、要するにピンインで綴る発音記号ですから、決してローマ字読みしてはいけません。必ずピンインで定める読み方規則に従って発音しなければならない。ピンインを習ったことのない日本人が「おかしな音」だと苦情を呈してもそれは的外れです。
〈漢字を使ったからと言って地名の由来がわかるわけではない〉
姫路、弘前、千葉など使われている漢字からだけでは、地名の意味や由来がほとんどまたはよくわからない地名はごまんとある。例えば、弘前市は弘前藩の名から取ったと推測されるが、その弘前という地名の由来はなんだろう?
「外国人向けにラテン文字綴りで、Himeji, Hirosaki, Chiba と表記する(翻字する)ことでは字の意味や背景が伝わらず不十分だ。しかしながら漢字文化圏の、せめて中国人と台湾人向けだけには中国漢字に翻字しておきましょう」というのが、恐らく駅名に簡体字と繁体字を併記することを決めた側の言い分であろう。
皆さん、この奇妙な論理に気がつきませんか? 日本人にとって漢字そのものの意味は大体またはかなり分かる、しかし駅名は漢字自体の意味から離れて地名を基にしていることが普通であり、他にはその地にある施設名などを駅名に付けているのだ。
一般に、その漢字を組み合わせて現在では地名となっている由来や背景が、別の表現を使えばその漢字がどういう経緯を経て地名となったかが、おいそれとはわからない地名はたいへん多いのだ。
確かに地名の意味や由来を知る上で漢字は重要な要素である。反面、特定の漢字を選んで地名とした理由、すなわち地名の由来や背景が分からない地名の方が、わかる地名よりはるかに多いということも事実である。
ある駅を利用する人たちの間で、漢字を読み書きする日本人の利用者の一体どれくらいの割合が漢字綴りと地名のつながりを知って駅を利用しているのかな?
当ブログの目次をここに掲げておきます。
目次
序論 新しくブログに掲載する作品のテーマを導く
前編 はじめに、 第1章、
中編その1 第2章、 第3章、 第4章、 第5章、
中編その2 第6章、 第7章、 第8章、
中編その3 第9章、 第10章、 第11章、
後編 第12章、 第13章、 第14章、 おわりに、
2023年12月末の注記:ブログは新しい記事が先の記事の上に掲載される、つまり古い記事ほど下方になる仕組みだ。しかし当作品は1冊の本を模して書いてあるので、それでは読みにくい。そこで今回上記の目次の順序になるように、それぞれの編を入れ替える/ 移すことにしました。
第10章:駅名表記を表音文字ですることは利便性を高める
このような実状を確認したうえで、結論づけて言いましょう。訪問者としての外国人や日本語の文字体系を知らない外国人在住者が、駅名併記の表記文字として、ラテン文字、ハングル、ピンイン(この3つはいずれも表音文字で且つ日本語音を写すのに向いている)を通して、駅名を知る、発音することは、彼らにとって大きな利便性がある。日本人にとっても彼らが駅名の日本語音を不十分ながらも知る、発音することは望むところであり且つ歓迎すべきことなのだ。
今ここで書いていることは当作品における根幹の1つです。
駅名に使われる地名の中には、多くはないが、文字から由来が簡単にわかる場合ももちろんある。代表的な例である東京は、”東の京または都(みやこ)”であることは漢字の読める人ならほぼ推測がつくでしょう
東京(駅)を例にとる:日本語名に併記して、Tokyo (ラテン文字)、东京(簡体字)、東京(繁体字)、도쿄(ハングル)と書いてある。
中国漢字の音をピンインで表すと [dōng jīng] となる。[dōng jīng] をあえてカタカナで音を表せば [ドンジン](無気音+無気音)だが、実際の音はそのカタカナを発音する際の音とはかなり違う。既述したように、ピンインは中国語の音韻体系に基づいているからです。
3番目の繁体字は簡体字と同じ発音だ。4番目ハングルの発音は大よそ [トキョ]となる。東京のような地名は誰だって知っているはずだから、事前知識として”東の京 / 都”ということを知っている外国人もいるかもしれない。ただしこの地名は稀有な例ですね。
この例でもわかる様に、ラテン文字とハングルは[トゥキョゥ] という日本語音を基にして表記されているのに、簡体字と繁体字は中国語音を基にしている。だからこそ中国漢字を使わずにピンインで日本語音を写す形で、例えば [ tou ke you]の様に表記すべきだ。
〈駅名の漢字を知りたければ日本漢字を眺めれば十分である〉
現代の圧倒的大多数の中国語話者は、中国と台湾を問わず、漢字が読める。なお華語を話す東南アジア華人の場合は事情が異なる。
だから中国人と台湾人と香港人は、日本漢字から容易に意味を推測できることになる。
ただし次の点を強調します:中国漢字と日本漢字の間には、文字の意味及び使われ方が異なることは決して軽視できないほど普通にある(生じる)ので、”意味の推測がいつも正しいという保証は全くない”。特に文章の場合、単に漢字の知識だけでは日本語はきちんと理解できない。逆も真なりで、日本人にとっても漢字知識だけで中国漢字の文章がきちんと理解できる場合は大変と言えるほど少ない。まして精度の高い翻訳などほぼ無理だ。以上は強調すべき点です。
とにかく中国人や台湾人、及び華語の読める華人は、駅名に繁体字または簡体字が併記してなくても日本漢字が使われていることから、どうしてもその併記された駅名の漢字(そのもの)が知りたければ、日本漢字を眺めればそれでかなり事足りるのです。
何らかの理由で駅名の中国漢字への正確な変換を求める人には不十分かもしれないが、そもそも交通機関利用者に対してそういうことは始めから想定されていない。探求したい外国人は日本漢字と中国漢字の対照表を参照すべきです(スマフォのアプリにこの種のものがあるようだ)。
第11章:駅名はまず第一に、実用的であらねばならない
あらためて言明します。駅名は第一に実用的であり、そうあらねばならない。そして存在する理由の九割位は実用のために存在するのだ。
〈駅名のラテン文字綴りはまさに実用的なことに価値がある〉
この駅名が実用的であることについて、もう少し論じましょう。
駅名併記に用いられている文字種の面で、駅名併記のあるほぼ全てでまずラテン文字(日本式ローマ字または英語風ローマ字)が使われている。駅名併記の普及率からみて、現行の中国語漢字と韓国語ハングルによる駅名併記はラテン文字に比べてまだぐっと少ないだろう。
当ブログ作品の初め頃に書いたことだが、中国漢字とハングルが駅名併記においてどの程度全国的に使われているかを知りたいものです。
こういった情報なら知っているよという方は、気が向かれましたら、ブログのメッセージ機能を利用して情報提供していただければうれしく思います。
駅名としてラテン文字を読む外国人(旅行者であれ、在住者であれ)の大多数は日本漢字とひらがなとカタカナはわからない。だから彼らが駅名に使われた地名に関して、文字から得られるかもしれない背景がわからないのは当然だ。
何よりも駅名にラテン文字を併記していること自体、外国人に地名の意味や由来を知ってもらうことを最初から放棄している。実用第一である駅名だから、それでいい、それで充分なのです。
我々日本人利用者だって、駅名に使われている地名からその背景や由来を推測できない駅名の方が圧倒的に多いはずだ。要するに、駅名とはまず利用者にとって、及び交通機関側にとって、実用面が最大の存在意義を持つ。
どの駅の地名にも歴史的背景とか文化的背景はあるが、この際それはほとんど重要視されない。当然ですよね、駅名を使うのに、いちいち歴史的背景とか文化的背景を知る必要性はない。実用第一なのだから。駅名の利用者が外国人であっても、この原則は当然適用される。だから併記にラテン文字が使われていることは、実用面から好ましいことになる。
併記にラテン文字が第一選択として且つ圧倒的に使われるのは、ラテン文字が世界で一番普及している文字種、ということが最大の理由ですね。
韓国、朝鮮は漢字文化圏に属する、しかし両国とも既にハングル文字を書記体系に取り入れて久しく、漢字はもはや必須ではなくいわゆる教養の範疇に属すると、捉えてもいいようだ (これは読んだ知識であり、実際に見聞したわけではないが)。
表音文字ハングルからは駅名の背景はわからない。日本を訪れる韓国人が、駅名に併記されたハングルに異論あるはずはなかろうし、実用上それが一番適している。
〈駅名併記に中国漢字を決めた人たちの思考の背景にあること〉
では同じ隣国である中国と台湾の人たち向けだけに、なぜわざわざ中国漢字を駅名併記に使っているのだろうか? 駅名併記の言語と文字種を決めた、ごく少数の権限を持った人たちは、駅名併記のラテン文字とハングルを読む人たちに駅名の背景や由来などを知ってもらう、推測してもらうことを最初から考えてもいないのにもかかわらずだ。
そして、JRの駅名併記のあり方を知った各地の私鉄や、地下鉄などを運営する公共企業体の中には、単純にJRに範をとったところが多いのではないかと、推測される。一方 JRに範をとらなくて独自の判断で中国漢字の併記を決めた私鉄、地下鉄もあるだろう。
しかしこの種の決定をした人たちの頭には、ピンイン(拼音)の利点が浮かばなかったか、ピンインの内容をよく知らなかったと思われる。加えてそういう人たちは、”中国、台湾だから即漢字を使う”という固定観念が働いたことは Intraasia の想像に難くない。
これらの根底にあるのは、一部の日本人の中にある奇妙な漢字文化圏の重視意識または一体感であろう。駅名という最も実用面が大切である表記にさえこういった観念・意識を当てはめて、中国と台湾は漢字国だから駅名にも漢字を使うべきだ、と信じ込んでいる。
文化としての漢字圏を考えることは大切なことだし、Intraasia も少なからず興味ある。しかし繰り返すが、駅名の存在意義は何よりも実用面である。日本人は感傷的ともいえる漢字の呪縛から解き放たれて、駅名併記を素直に実用面から捉えることが必要だ。
< ちょっと休憩、コラム>
読者の方たちから誤解されたくないので書いておきましょう。Intraasia は”反中国漢字意識”などは全く持っていない。Intraasia は1980年代前半の数年間、ラジオの中国語講座を聴くことで初めて中国語学習をした。その際簡体字と発音は覚えたが肝心の中国語の方は使えるにはほど遠いレベルに終わった。
その後1990年代に入ってマレーシア移住時代、華語新聞を読むために華語 /中国語を独習して、なんとか読めるレベルを目指した。『マレーシアの新聞の記事から』ブログにおいて、華語新聞から自分が訳せる程度の記事を選んで、そのサイトに頻繁に掲載して、10何年間続けた。
なお『マレーシアの新聞の記事から』は、Intraasia が3種の言語の新聞を翻訳して毎日更新していたブログです。
後編に続く