今年のカンヌで脚本賞受賞した是枝裕和監督「怪物」を観た。ずっしりと腹に沁みた。
是枝監督の最高傑作は何かと訊かれれば、いまの私は躊躇なく「ベイビー・ブローカー」だと答えるが、この作品もそれに負けない奥の深い作品だった。私たちの時代、社会の現実を鋭く描いている。
シングルマザーの安藤さくらは、溺愛する息子が担任教師永山瑛太に体罰を受けていると知って学校に怒鳴り込む。が、校長も教頭も無気力でハナシにならない。そんな教育現場を告発する作品かとふと思ったが違っていた。
その事件が第二、第三の別の視点から再現される。関与する子供たちも嘘をついている。校長も教師も真実を語っていない。そして彼らはみんなそのことで悔い悩み苦しむ。世の中もたいへな騒ぎになる。
そんな状況を生み出してしまう大人も子供も社会構造も“怪物”なのだ、と私は観た。
坂本龍一への依頼をした経緯を語る是枝監督の言葉にもぐっときた。
万引き家族、ベイビーブローカー、怪物。こんな作品を創り続ける是枝裕和監督は1961年生まれだからまだ62歳。このさき是枝監督はどこに向かうのだろう。何を創って私たちに観せてくれるのだろう。