本書の白眉は、なんといっても、「世界経済の政治的トリレンマ」、すなわち、民主主義(国民主権)、国民国家としての主権、ハイパーグローバリゼーション、この三つを同時に実現することはできないことを論証した部分だ。これは、ロバート・マンデルの言う「国際金融のトリレンマ」、すなわち、自由な資本移動、固定相場制、各国の独立した金融政策、この三つを同時に実現することはできないという命題を下敷きにしたものであるが、民主主義という要素を取り入れることで、グローバル化する世界で深刻化する危機を明晰に指摘できていると思う。
EUの失敗にみられるように、「国家を超えたグローバル社会」において、しばしば人々の利害と権利はないがしろにされ、それは各国が独自の財政、金融政策により、人々の雇用と生活を守る主権を剥奪されているからである。
現視点では、「国家なき世界」は持続不可能であり、わたしたちは、必要悪としての国家を熟慮型民主主義により制御し、もって、国家がグローバリゼーションの進行を統制していく必要があることを、本書は教えてくれる。
一読の価値がある書物である。
目次
グローバリゼーションの物語を練り直す
市場と国家について―歴史からみたグローバリゼーション
第一次グローバリゼーションの興隆と衰退
なぜ自由貿易論は理解されないのか?
ブレトンウッズ体制、GATT、そしてWTO―政治の世界における貿易問題
金融のグローバリゼーションという愚行
金融の森のハリネズミと狐
豊かな世界の貧しい国々
熱帯地域の貿易原理主義
世界経済の政治的トリレンマ
グローバル・ガバナンスは実現できるのか?望ましいのか?
資本主義3.0をデザインする
健全なグローバリゼーション
大人たちへのお休み前のおとぎ話
民主主義を犠牲にするか、国家主権を捨て去るか、グローバリゼーションに制約を加えるか?世界経済のトリレンマをいかに乗り越えるか?世界的権威が診断する資本主義の過去・現在・未来。
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