横道誠,2024,アダルトチルドレンの教科書──回復のメタメソッド,晶文社.(10.10.24)
親による虐待、発達障害、宗教2世、PTSD……多重当事者だからこそ書けた、物語形式によるアダルトチルドレンの回復メソッド。当事者研究、オープンダイアローグ的対話実践で、自分なりのメソッドを発見してください。
依存症、精神疾患、貧困、DVなど、さまざまな事情による機能不全家庭で育った人のために書かれた、回復メソッドの教科書。アダルトチルドレン(AC)の困り事は多様で、一般的な処方箋だけでは対応しきれない。多様な出方をするACの事例にあわせて、当事者自身が回復メソッドを発見する必要がある。それがメタメソッドの考え方。当事者研究とオープンダイアローグ的手法により、数多くの対話型自助グループを主宰する著者の経験知が詰まった、物語形式で語る、アダルトチルドレンの回復指南書。アダルトチルドレン関連の文学・マンガ・映画作品についてのコラムも収録。
【「はじめに」より】
「本書はアダルトチルドレン(機能不全の家庭で育った人)のために書かれています。アダルトチルドレンの困り事は多様ですから、本書では処方箋を並べていくことに合わせて、そのような処方箋を当事者の側から新たに発見する場として「対話型自助グループ」を推奨しています。その意味で本書は「メソッド」の本であると同時に、メソッドを開発するための「メタメソッド」の本でもあります。」
面前DVを含む被虐待経験、依存症や精神疾患の親やきょうだいのケア等により、過去から現在に至る自己の一貫性感覚と、「人は人、自分は自分」という自己受容、自己肯定の感覚をもちえなかった者の苦悩は深い。
本書は、架空の講義と対話によって構成されており、かなり専門的な内容にまで踏み込んでいるものの、読みやすい。
セルフヘルプグループにおけるアダルトチルドレン(AC)は、一方的にケアされる存在なのではなく、自らもケアの担い手となることができる。
また、ACの経験知は、専門知にはない有用性をもつ。
自助グループの効能のひとつとして、心理学者のフランク・リースマンは、「援助者セラピー原則」を指摘しました。援助者は他者に援助を提供することによって、じぶんを助ける技術を誰よりも堅牢に形成することができる、そして利他によって自尊心を育むことができるという理論です(Riessman 1965:27-32)。自助グループで利他に励むことは、結局は最大のリターンをじぶんで獲得することを意味しています。
専門家を欠いた集まりとして組織される自助グループに関して、「うさんくさい」と感じる人が多くいることは確かです。これに関して、社会学者のトマシーナ・ボークマンは当事者の「体験的知識」(経験知)は医療や福祉の専門家による「専門的知識」(専門知)に匹敵するという図式を提示しました。ボークマンによると体験的知識は、(1)理論的または科学的ではなく実践的なこと、(2)知識の長期的な発展や体系的な蓄積ではなく、「いま・ここ」での行動を重視すること、(3)細分化されておらず、全体的かつ包括的なことに特徴があります(Borkman 1976:449)。当事者は体験的知識の所有者として、「経験専門家」と呼びうる存在ということになりますし、その立場に立って自助グループで自信を持って語ることができるわけですね。
(pp.115-116)
セルフヘルプグループでの活動は、セロトニン、オキシトシン、ドーパミンといった脳内伝達物質の活性化に寄与する。
ミドリ そうです。三つの脳内物質に由来する幸福感を自助グループは提供します。外出して陽光を浴び、会場に行くことで、健康に関わるセロトニン的幸福が生まれます。集まってきた参加者、つまり「自助会仲間」との交流によって、健全な対人関係が発生し、それが日常生活にもポジティブな影響を与えることで、オキシトシン的幸福が生まれます。自助会で回復を進め、それを日常生活でも実感し、成功を収めることで、ドーパミン的幸福が生まれます。
(pp.120-121)
当事者研究、ナラティブセラピー、オープンダイアローグ的対話実践。これらはいずれも、ネガティブなドミナント・ストーリーを、過去と現在の自己を肯定するオルタナティブ・ストーリーに書き換える意義をもつ。
ダイキ ということは、当事者研究もオープンダイアローグ的対話実践も、ナラティブセラピーのように、「自助会仲間」との共同作業によって、当事者のドミナント・ストーリーを覆し、オルタナティブ・ストーリーを形成する現場となるわけですね。
(p.124)
本書は、傷ついたままの自己を回復させていくうえで有効な方法を網羅的に取り上げているので、現在もなお苦悩を引きずっている者にはきっと役に立つことだろう。
目次
1 アダルトチルドレンに関する基本事項
入口として──ダイキの物語/1-1 心理学的観点から/1-2 医療的観点から/1-3 ふたたび心理学的観点から/出口として──ダイキの物語
2 さまざまな回復モデル
入口として──アヤカの物語/2-1 傷ついた子どもの回復/2-2 トラウマケアの観点から/2-3 対話型自助グループのすすめ/出口として──アヤカの物語
3 当事者研究とオープンダイアローグの実践
入り口として──リョウの物語/3-1 前もって理解しておくこと/3-2 自助グループでの当事者研究/3-3 自助グループでのオープンダイアローグ/出口として──リョウの物語
COLUMN『くるまの娘』(宇佐見りん著)/『イグアナの娘』(萩尾望都作)/『ブラック・スワン』(ダーレン・アロノフスキー監督)/『新世紀エヴァンゲリオン』(庵野秀明監督)/『血の轍』(押見修造作)/『人間失格』(太宰治著)