新しいことを学び、考える楽しさをじゅうぶんに堪能できる、哲学書にしては珍しい秀作だ。このたび、文庫本となり、新しい読者をひきつけてやまないのもうなずける。
付録「傷と運命」を読むと、この本の論議の射程範囲が、精神医学の分野にまで適用できるほど、拡張されていることがわかる。
人間は、不快を経験し、小さく傷つきながら生きる存在である。ワーカホリックであれ、ギャンブルや薬物、スマホ等への依存であれ、何かに熱中していれば、そうした傷つき体験を想起することが避けられる。わたしたちが、仕事と余暇のスケジュールが埋まっていないと不安になるのも、存在そのものの傷つきやすさがあらわになってしまうからだ。
また、わたしたちは、仕事と余暇のスケジュールが埋まっていても、暇がなくても、退屈する。わたしたちは、過去から現在に至る記憶の脅威により、さらに労働と消費に急き立てられることになる。
この本を読むことで、自らの生きづらさの正体に気付いた人も少なくないだろう。
「暇」とは何か。人間はいつから「退屈」しているのだろうか。答えに辿り着けない人生の問いと対峙するとき、哲学は大きな助けとなる。著者の導きでスピノザ、ルソー、ニーチェ、ハイデッガーなど先人たちの叡智を読み解けば、知の樹海で思索する喜びを発見するだろう―現代の消費社会において気晴らしと退屈が抱える問題点を鋭く指摘したベストセラー、あとがきを加えて待望の文庫化。
目次
序章 「好きなこと」とは何か?
第1章 暇と退屈の原理論―ウサギ狩りに行く人は本当は何が欲しいのか?
第2章 暇と退屈の系譜学―人間はいつから退屈しているのか?
第3章 暇と退屈の経済史―なぜ“ひまじん”が尊敬されてきたのか?
第4章 暇と退屈の疎外論―贅沢とは何か?
第5章 暇と退屈の哲学―そもそも退屈とは何か?
第6章 暇と退屈の人間学―トカゲの世界をのぞくことは可能か?
第7章 暇と退屈の倫理学―決断することは人間の証しか?
結論
付録 傷と運命―『暇と退屈の倫理学』増補新版によせて
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