トルーマン・カポーティ(佐々田雅子訳),2006,冷血,新潮社.(2.25.25)
カンザス州の片田舎で起きた一家4人惨殺事件。被害者は皆ロープで縛られ、至近距離から散弾銃で射殺されていた。このあまりにも惨い犯行に、著者は5年余りの歳月を費やして綿密な取材を遂行。そして犯人2名が絞首刑に処せられるまでを見届けた。捜査の手法、犯罪者の心理、死刑制度の是非、そして取材者のモラル。様々な物議をかもした、衝撃のノンフィクション・ノヴェル。
緻密な取材により収集された膨大な情報に基づき、殺人犯のディックとペリー、惨殺されたクラッター一家、捜査官のデューイ、事件が起こったホルカム村の人々、裁判官、弁護士、陪審員等々、数多くの人々の言動と人となりが実に細やかに描かれている。
物語は、クラッター一家とホルカム村の人々の穏やかな生活と人間関係の描写からはじまる。
次に描かれる、ディックとペリーが犯行と前後してアメリカ大陸を周遊するくだりは、ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』を彷彿とさせる。
後半は、一転して、ディックとペリーの逮捕、犯行の供述から、裁判、死刑執行に至るまで、怒涛の展開とあいなる。
実際に起こった事件に基づき、微に入り細を穿つ人物の造形をほどこし、現在から過去へ、過去から現在へ、自在に時空を飛び越えながら、圧倒的なストーリーテリングの力で読者を物語世界に没入させる。
現在の「ノンフィクション・ノヴェル」の雛形となった、文句なしの名作だ。