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言ってはいけない―─残酷すぎる真実

橘玲,2016,言ってはいけない―─残酷すぎる真実,新潮社.(4.3.24)

 ちょっと牽強付会や論理の飛躍が大きすぎるように思うが、偽善的なリベラル勢力によって無視され続けてきた進化遺伝学、行動遺伝学等の知見が分かりやすく紹介されているし、ポリコレの欺瞞に騙されないための解毒剤としては、有益な本じゃないのかな。

 一般知能はIQ(知能指数)によって数値化できるから、一卵性双生児と二卵性双生児を比較したり、養子に出された一卵性双生児を追跡することで、その遺伝率をかなり正確に計測できる。こうした学問を行動遺伝学というが、結論だけを先にいうならば、論理的推論能力の遺伝率は68%、一般知能(IQ)の遺伝率は77%だ。これは、知能のちがい(頭の良し悪し)の7~8割は遺伝で説明できることを示している。
(p.21.)

 ただし、IQが、あたまの良し悪しを測る統計値として、じゅうぶんな妥当性と信頼性があるかについては議論の分かれるところであるし、仮に妥当性と信頼性があるとしても、現在では、知識労働がどんどんAIに置き換えられていっているわけで、IQが高い人が知識社会の勝者となるかについてはなんとも言えない。(もちろん、非常に高いIQの持ち主は、とくに行政官僚であれば、そうとうその能力を高く評価されるだろう。)

 いま現に進行しているのは、AIによる知識労働の代替だけでなく、介護、看護、相談援助、保育、教育等、情動や感情をフルに活用する必要のあるケア労働の相対的重要性が高まっている、という事態であり、その点、IQ偏重は見直される必要があり、それがエンパシーや共感能力が注目されている所以でもある。
 だから、IQが少々低くても、自分を卑下したり、悲観することはない。

 ただし、バカ親が、自分のバカを棚に上げて、子どもに高い学業成績を期待するような愚は、こうした知見により改められるようになるべきだ。
 子どもも、苦痛でしかない、無駄な努力はほどほどにして、身体能力や、情操、感情面での優位性を高めていくようにすれば良いと思う。
 人は、たいてい、どこかしら、優れたところがあるもんだよ。
 ない人もいるかもしれないけど、それはそれでいいじゃない。笑

 1969年、アメリカの教育心理学者アーサー・ジェンセンが「IQと学業成績をどれほど増進できるか」と題した論文を発表した。
 ジェンセンは知能を記憶力(レベルI)と概念理解(レベルII)に分け、レベルIの知能はすべての人種に共有されているが、レベルIIの知能は白人とアジア系が、黒人やメキシコ系(ヒスパニック)に比べて統計的に有意に高いことを示した。そのうえで、ヘッドスタート・プログラムの効果が期待を下回るのは、知能の遺伝規定性が80%もの高さを持つからだと述べたのだ。
 この主張は「黒人の子どもは遺伝的に知能が低いから幼児教育には意味がない」と受け取られ、全米に憤激の嵐を巻き起こした。ジェンセンは「人種差別主義者」のレッテルを貼られ、大学(カリフォルニア大学バークレー校)の研究室にはデモ隊が押しかけ、暗殺されかねないほどの非難を受けることになる。
(p.39.)

『ベルカーブ』でハーンスタインとマレーは、現代社会が知能の高い層にきわめて有利な仕組みになっていることを膨大なデータをもとに論じている。そのうえで彼らは、白人と黒人のあいだにはおよそ1標準偏差(白人の平均を100とすると黒人は85)の1Qの差があり、これが黒人に貧困層が多い理由だと述べたのだ。
(p.41.)

 遺伝する知能についての不平等の問題に、人種という変数が関わると、とても厄介になる。
 
 研究知見を、ポリコレ的な抑圧と暴力で封じ込めようなんて、愚の骨頂だ。

 ただし、ジェンダー間の差異と同じで、人種間のそれも、平均とその差の有意性だけを根拠に、拙速に知見を一般化するのは、危険であるばかりでなく、カテゴリー差に還元できない、人間の個別性を否定することにつながりかねない、そのことに留意すべきだろう。

 それと、前述したように、知能よりも、情動や感情面での優位性に注目すべきだ。

 これも結論だけを先に述べるが、さまざまな研究を総合して推計された統合失調症の遺伝率は双極性障害(躁うつ病)と並んできわめて高く、80%を超えている(統合失調症が82%、双極性障害が83%)。遺伝率80%というのは「8割の子どもが病気にかかる」ということではないが、身長の遺伝率が66%、体重の遺伝率が74%であることを考えれば、どのような数字かある程度イメージできるだろう。背の高い親から長身の子どもが生まれるよりずっと高い確率で、親が統合失調症なら子どもも同じ病気を発症するのだ。
(pp.24-25.)

 こうした知見は、精神疾患の当事者が、子どもをもつことを断念する方向ではなく、当事者の子どもが、発病しないよう、あるいは発病しても手当てと配慮がなされるよう、医療従事者も含めた人々による、じゅうぶんなケア資源が投入されるしくみの必要を示唆している、そう捉えるべきだとわたしは思うんだけどな。

 犯罪心理学でサイコパスに分類されるような子どもの場合、その遺伝率は81%で、環境の影響は2割弱しかなかった。しかもその環境は、子育てではなく友だち関係のような「非共有環境」の影響とされた。
(p.29.)

 上に同じなんだけど、本書の別のところで詳述されているように、子どもの発達に大きな影響を与えるのは、親の養育ではなく、友人との関係性だ。
 教育とソーシャルキャピタルの力で、サイコパスの犯罪性向はある程度抑制できるように思う。

 偽善、欺瞞にまみれたポリコレには、中指突き立てて、ファッーークと言いたいし、心情的はなるほどそうだよねという部分もあったものの、読後、なんか釈然としない、ザラザラした感触のモヤモヤ感が残った。

この社会にはきれいごとがあふれている。人間は平等で、努力は報われ、見た目は大した問題ではない―だが、それらは絵空事だ。進化論、遺伝学、脳科学の最新知見から、人気作家が明かす「残酷すぎる真実」。読者諸氏、口に出せない、この不愉快な現実を直視せよ。

目次
1 努力は遺伝に勝てないのか
遺伝にまつわる語られざるタブー
「頭がよくなる」とはどういうことか―知能のタブー
知識社会で勝ち抜く人、最貧困層に堕ちる人
進化がもたらす、残酷なレイプは防げるか
反社会的人間はどのように生まれるか
2 あまりに残酷な「美貌格差」
「見た目」で人生は決まる―容貌のタブー
あまりに残酷な「美貌格差」
男女平等が妨げる「女性の幸福」について
結婚相手選びとセックスにおける残酷な現実
女性はなぜエクスタシーで叫ぶのか?
3 子育てや教育は子どもの成長に関係ない
わたしはどのように「わたし」になるのか
親子の語られざる真実
「遺伝子と環境」が引き起こす残酷な真実


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